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ウサギ従者は飛び跳ねる 中-2



「リリィが・・・生きている!?」



自室にいたローゼルは、戻ってきた従者のウサギ夫婦の言葉に耳を疑った。ロップとダッチは、静かに首を縦に振る。


「ローゼル様、ここから先は・・・正直、私達も耳を疑いました」


「調べを付ける必要がありますが・・・まずは俺達が聞いたことを、お話しさせてください」



全ては、ルピナスの嫉妬から始まった。


異国から来た汚名付きの男爵令嬢(リリィ)が、入学時から片思いしていた伯爵子息(ローゼル)に見初められた。その事実が受け入れられなかった。ルピナスが何度言い寄ってもローゼルはなびかず、婚約者になったリリィを目の敵のように見ていた。


貴族の立場におけるストレス、思い通りに行かない不甲斐なさが、彼女の欲望を濁らせて膨らませる。やがて彼女は、ローゼルの婚約者になることと、リリィを気が済むまで利用すること。2つを両立させる、貪欲で恐ろしい計画を思いついたのだ。代々裏で繋がっていた、悪徳魔術組織の手を借りてまで。


まずは半年前、リリィが伯爵家に挨拶に向かっているのを狙い、シード男爵家の馬車を襲撃した。男爵がほぼ即死した中、リリィは馬車から連れ去られ・・・魔術組織の実験台になっていた。


数多の魔術の末・・・リリィ・シードは「男性」に変えられた。



ーーーアンタはこれから、アタシの言うことを聞きなさいね。


ーーー逆らったり逃げ出したり、他の人間にでも言ってみなさい。娼館で死ぬまで体を売らせるか、家畜にしてとさつ場に送ってやるから。



既にシード男爵家の全てが、友人を名目にブロッサム子爵家に吸収されていた。リリィは使用人の少年「ユート」として、ここでの生活を送るしかなかったのだ。


だが、それでルピナスが満足するはずがない。今までの報復という名の自己満足で、リリィを思う存分虐げていた。


まずは嫁入りに必要だからと、支度金を奪った挙げ句、リリィの衣服やアクセサリーを片っ端から売り払った。しかし髪飾りは売値が付かず「男のアンタには必要ないでしょ、もらってあげる」と奪われてしまう。ローゼルの前以外で付けているようで、ロップが見たのがその瞬間だったようだ。


そして日常的に重労働を押しつけ、罵詈雑言を浴びせていった。他の使用人が抑えるよう言おうとするが、子爵家令嬢であるルピナスには逆らえない。それは何ヶ月にも及んでいて、ユートの体は日々ボロボロになっている。


さらにはローゼルとの婚約準備が進むにつれ、面白おかしく、嗤いながら話してきた。子爵家令嬢の方が似合う、あぁもう貴族ですらないか。私といる方が、ローゼル様は幸せそうだった。祝福される私たちの姿、そちらにも見せてやりたい・・・。一方的に話され、何か1つでも不満があれば叩かれる。


限界だった。こんな日々が続くなら、もう終わりたかった。


それでも、心を通わせたローゼル・シャムロックに会いたかった。生きていればきっと会える、せめて遠くからでも見られると信じて、リリィは今日も耐え抜いている・・・。



「彼女、言ってました。“ローゼル様に仕えている獣人の皆様なら、安心して伝えられる。でもどうか、ルピナスを敵に回さないで。魔術組織が付いている以上、何をされてもおかしくない。どうかローゼル様と、幸せに生きて”と」


「そんな・・・」と、ローゼルは絶句するしかなかった。まさかそんな恐ろしい事実が、自分の知らないところで起きていたなんて。ドサッと、音を立てて椅子に座り込む。


「・・・俺はこの半年、何をしていたんだ!真実を見つけようともせず、周囲に流され、気付けばあの女の思うがままになっていたのか!!オマケに、リリィは・・・リリィは・・・!」


自責の念に駆られるローゼルの元に「大変です!」と、鷹の伝達役(ルファーク)が駆け込んできた。


「伯爵様が、ローゼル様とルピナス様の婚約を正式に認めたと言います!数ヶ月後には、結婚式を行うと決定したそうです!!」


「な、何ですって!?急いで婚約を白紙にしないと・・・!」


立ち上がるロップに、ダッチは待ったをかけた。


「その結婚式、利用してやろうぜ」


「り、利用?」


「あぁ、ルピナスという欲深い馬鹿娘を断罪して、彼女からリリィ様を解放するんだよ。おそらくあの女のことだ、こういった場にリリィ様を連れてくるはず。裏でこそこそやるより、こうした公の場でやった方が、こっちも復讐のしがいがある」


ニッと悪びれなく笑うダッチ。面倒事が嫌いな割に、こうしたことを考えつくのが得意なのだ。いつもならやれやれと思うが、状況が状況だ。ロップは同意の意で、大きく頷いた。「その案に乗ろう」と、ローゼルも口を開く。


「これ以上、あの女の好きにさせん。今に見ていろ・・・」


ローゼルから、うなり声のような息が吐かれるのだった。



その頃、ローゼルとの婚約が正式に決まり、ルピナスは有頂天だった。いつものティータイム、ユートは彼女の真後ろで配膳者として佇むばかり。


「ウフフ、これで目的の大部分は達成ね。でもねぇ、シャムロック伯爵家に獣人の従者がいるってのが悩みモノよ。いくらトロゲア王国は獣人が多いとはいえ、生理的に受け付けないの。


・・・そうだわ、適当な理由を付けて全員クビにしちゃいましょう。ローゼル様の妻ともなれば、彼らもあっさり食い下がるでしょうし。結婚式にも、獣人は排除しないとね。せっかくの私の晴れ舞台なのに、そんなモノ見たら幻滅するわ」


明るく無邪気に話す彼女と裏腹に、ユートは青ざめていた。まさか、伯爵家の雇用状態にまで手を伸ばそうとするのか。だが、この場で意見を言うほど、彼女の立場は強くない。また平手打ちされるのが目に見えてしまう。


自分に気付いてくれたロップとダッチには、あんなに心配する声をかけたというのに。それを覆せない弱さで、胸が締め付けられていた。




数ヶ月後・・・結婚式当日。人手がほしいため、この日はユートも王都の教会に来ていた。外で作業していると、今日の主役の花嫁であるルピナス・ブロッサムの姿が。ニコニコ微笑み近付いてきた彼女は「席が無いそうよ。式中、外で待機なさい」と命令してきたではないか。


「そ、そんな!事前は、式に参加して良いと・・・ローゼル様を見て良いと、おっしゃっていたではありませんか!」


「思ったより参列者が増えたそうよ。まぁ指輪交換も口付けも終わって、ヴァージンロードを歩きつつ、外に出てきたところなら見られるでしょう。せいぜい幸せそうな私たちを見て頂戴ね」


クスクスと嘲笑するルピナスの後ろ姿が、涙で滲むばかり。グッと気持ちを抑えつつ作業していると、「すみません!」と声をかけられた。シャムロック伯爵家の猫のメイド(キャティ)だ。


「ちょっと緊急の作業があって、来てほしいんです!宜しいですか?」


「え、あ、はい。その・・・僕で良いのですか?もっとベテランの使用人もいますが」


「いえいえ、あなたじゃなきゃダメなんです!ささっ、こちらへ」


言われるがまま、ユートはキャティに連れていかれるのだった。



挙式も山場にさしかかった。豪華なウエディングドレスに身を包むルピナスは、参列者の憧れの的だった。彼女のワガママにより、参列者はほぼほぼ彼女の好き勝手に入れられているのも有耶無耶になるほど。


入場を終えたら、最も大切な誓約だ。神父を務める羊の執事(シャープ)が、淡々と式を進めている。


「・・・では、ローゼル様」


ルピナスを妻と認め、愛することを誓うか問えば「誓います」と言う。そしてルピナスは逆を問われ、同じように誓うと告げる。ここまではお決まりの流れだ。長いことこじらせていた片思いが、ようやく実を結んだことに、ルピナスは幸せの絶頂だった。さぁ、早く誓って。私を妻として認め、永遠に愛すると・・・。



「貴方は()()()()を明かし、()()()()()を受けさせると誓いますか?」



・・・・・・ルピナスは一瞬、何を言っているのか、理解できなかった。



「あぁ、誓う。この女の悪事を、全て公表する」



だがローゼルは何事も無いように、シャープの質問に答えたのだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「下」は明日夜に投稿する予定です。

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