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ウサギ従者は飛び跳ねる 上

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


今回は4部作(中が2つ)になります。思ったより長くなった、でも一応完成済みです。



とある時代に栄えたトロゲア王国では、人間と獣人が共存していた。獣人は獣でありながら人間のように言語を話し、獣の能力を活かしつつ生活している。社会の中心は数多い人間である一方、獣人は「人々の生活を共に豊かにする」として、その存在は認められている。一部は根深い反抗意識を持っているらしいが。


そんな国に、ウサギの従者達はいた。街で買い出しを終え、両手に大荷物で帰路につく。


「あらあらダッチ、そんなに人参もらって・・・大変ね」


「仕方ねぇだろ、八百屋の親父がオマケで寄こしやがるんだ。どいつもこいつも“ウサギ=人参好き”っていう方程式を持ちやがって・・・あぁクソ、俺は人参そんなに食わねぇのに!」


「じゃあ今日の料理にいっぱい使っちゃいましょうか。料理長のムークも喜ぶわよ、根菜好きだし」


真っ白な毛並みを持つロップと、クリーム色の毛並みを持つダッチ。ウサギの獣人である夫婦の2人は、現在シャムロック伯爵家の従者として働いている。外交に力を入れる伯爵家では、現当主の代から獣人の雇用にとりわけ力を入れている。


出迎える羊の執事(シャープ)、トタパタと駆け回る猫のメイド(キャティ)、料理に励む熊の料理人(ムーク)・・・そんな中、夕食の場に姿を現わしたのは、人間であるシャムロック伯爵とその妻、そして息子のローゼルだ。両親が暗い髪色であるのに、祖父似の金髪を持つ息子。ウサギ夫妻は彼を幼児から見守っているので、もはや自分たちの子供のようにも思っていた。


「あら、今日のメイン・・・人参のソースがあるのね。美味しそう!」


「はい、今年は豊作だったそうで。さすが奥様、香りで分かるとは」


そんな和やかな会話が続く中、伯爵はローゼルに明日について声をかける。


「ローゼル、明日の贈り物は準備できたか?」


「えぇ。リリィに似合う花の模様付きの指輪を、無事に用意できました」


ローゼルには学生時代に婚約を約束した、異国の男爵令嬢がいる。リリィ・シード、黒髪の見た目と名前から「クロユリ」と揶揄されていた彼女。留学生としてトロゲア王国の学校に入り、そこで席の近いローゼルと親しくなった。一緒に過ごしていく内に、成績優秀者であり海外情勢にも強かった彼女に、ローゼルは惹かれていく。両家を必死に説得し、在学中に彼女を婚約者としたくらいだ。


(素敵な話よねぇ。家族で1人髪色が違うってのが似ていて、放っておけなかったって言うし。ローゼル様のご両親も恋愛結婚でしたし、それに憧れたのかしら)


卒業後、リリィは祖国へと戻ったが、時より会っては交流を重ねている。そして・・・明日は、ローゼルが20歳の誕生日を迎える。リリィも1ヶ月後が誕生日のため、婚姻しても丁度良い時期だ。リリィは現在、トロゲア王国に向かっている。そして、明日にでもシャムロック伯爵家に着く予定だ。


(リリィ様、屋敷内や出先で何度もお目にかかったけど・・・獣人である私たちにも優しいのよねぇ。名前だけじゃなくて、好物とかも覚えて下さってるし。何よりお2人でいると、いつも楽しそうだったし)


誰もが皆、ローゼルとリリィの婚約を祝福していた。2人の幸せを願っていた。




だが翌日、事態は急変することになる。朝、リリィを迎えに行ったはずの鷹の伝達役(ルファーク)が、血相を変えて戻ってきたのだ。


「大変です!シード男爵やリリィ様を乗せた馬車が、滑落したと連絡を受けました!!」


「滑落!?どういうことだ!?」


「何でも途中の山道が悪かったらしく、道が崩れて崖下に・・・!警察や救助隊が向かっているので退くよう命令されて、現状はまだ不明で・・・!!」


報告を受けて、慌ただしくなる屋敷内。そんな中、ローゼルは青ざめていた。とにかく現場へ行こうと、身1つで飛び出そうとするのを、ダッチとムークが必死に止める。


「離せ!離してくれ、リリィとシード男爵を・・・!」


「お気持ちは分かりますが、危険です!」


「離せぇえええ!!」


今にも暴れそうになるローゼルを、ウサギと熊の獣人が必死に止めるしかない。ロップはギュッと、祈るように手を握る。どうか、どうか、無事でありますように・・・と、ただただ願っていた。


だが翌日、彼らに知らされたのは「シード男爵の遺体発見」と「娘リリィの行方不明」。馬車の残骸は完全に原型を崩して、深い深い谷底に突き刺さっていたという。捜索は難航しているそうだ。


行方不明ならまだ希望はあると、最初は必死に取り繕ってきたローゼルだったが・・・音沙汰もなく時だけが過ぎ、次第にリリィの死を受け入れるようになっていた。同時に、彼を自責の念が襲っていく。


「俺のせいだ・・・俺の、せいで・・・」


「ローゼル様・・・誰のせいでもありません。だから、自分を責めるのは、もう・・・」


そんな言葉は届かないことなど、ロップは分かっていた。それでも何か言おうとしてしまうのは、この空気に押しつぶされることを恐れているのだろう。ダッチは何も言わず、ただただ食事の配膳をしていた。


ローゼルはあれから、ずっと部屋に籠もっている。婚約指輪として渡すはずだった指輪を見ては、謝罪を繰り返し泣き崩れていた。時が経って、傷が癒えていくのを待つしかない・・・。ロップ達はそう思い、そっと作業を続けている。


当然ロップたち従者にもショックだった。リリィも長いこと見守っていた、ローゼルの大切な人として。彼女と関わり楽しそうな彼が、今でも目に焼き付いている。こんなにも彼を幸せに出来る人なんて・・・。


「失礼します」


外の掃除中だったロップに、水色の綺麗な髪をした娘が現れた。ペコリとカーテシをして挨拶する。


「ル、ルピナス様」


「お疲れ様です、ウサギさん。これ、ローゼル様に」と彼女が渡したのは、見舞いのための花束。あの事故で彼が籠もりだしてから1ヶ月以上、彼女は花を渡しにきてくれているのだ。


娘の名はルピナス・ブロッサム。学生時代にローゼルやリリィの同級生だった、ブロッサム子爵の娘だ。リリィの死をとりわけ悲しみ、同じように悲嘆に暮れるローゼルを誰よりも心配してくれている。


・・・実は昔、ロップは彼女が苦手だった。何せリリィの友人だと名乗っていた彼女は、やたらとローゼルと絡んでは親交を深めようとしていたのだから。友人ならまだしも、彼女は明らかにそれ以上の関係を欲していた。


成績やルックスなど遠回しに自慢をしては、理由を付けて2人で出掛けないか堂々と誘う。ローゼルがリリィと婚約した後も「出掛けるくらいなら、浮気には当たりませんよ」という言い訳を携えて。当然、彼はそれらの要求に一切なびかなかった。断る度に舌打ちをこっそりしていたのも、ロップの耳は捉えている。


そんな過去があるとはいえ、今はこうして彼を心配してくれているのだ。そう考えるのは不謹慎だし、ありがたいと思うべきだろう。


「ありがとうございます、いつもすみません」


「いえ、お気になさらず。ローゼル様は今どちらに?お話ししても良いでしょうか」


そう言ってくれるのはありがたいが、おそらくまだ気持ちの整理が付いていない。世話の使用人以外は入れない状態だと伝えると、承諾した上で1通の手紙を渡す。


「宜しければこちらを渡してください、私の言いたいことが書いてあります。どうか本当に、お体にはお気を付けて」


では、と一礼し去っていく彼女。ロップもペコリとお辞儀をして、再び掃除に戻る。しばらくして、門の近くに見慣れないハンカチが落ちていることに気付いた。鮮やかな紫の刺繍が入った、レースのハンカチ。ルピナスのモノだ!だが既に彼女が屋敷から出て、30分以上は経っていた。


「ダッチ、ルピナス様にハンカチを届けに行ってくるわ!この手紙、余裕があったらローゼル様に渡しておいて」


「了解。お前の足なら屋敷まで10分くらいか、気をつけろよ」



ウサギお得意の脚力で、ロップは全力で走る。落ちている小石を、でこぼこな段差を、沢山のモノを飛び跳ねて。そうしているとダッチの言葉通り10分ほどで、ブロッサム家の屋敷に着いていた。ルピナスも帰宅している頃だろうか。


門のベルを鳴らすと「はい」と聞こえた少年の声。やがて、外掃除をしていたであろう使用人が姿を現わした。珍しい黒髪に低めの背、使用人に成り立ての少年だろうか。ブロッサム子爵家周辺では獣人がそこまでいないためか、彼は目を丸くしている。


「え、あ・・・」


「突然すみません。私はシャムロック伯爵家の従者である、ウサギの獣人です。ルピナス様が伯爵家を訪れた際に、落とし物をしておりまして。届けに来ました」


「あっ、そ・・・そうでしたか」


随分おっかなびっくりしているようだ、ハンカチを受け取る手も震えている。そこまで自分が珍しいのかなと、可笑しくなるロップ。すると後ろから「ユート、何をしているの!?」と、機嫌の悪そうなルピナスがやって来る。


「掃除箇所から離れるなと言ったでしょう?それに勝手に来客対応して!!」


「も、申し訳ありません・・・ですが」


「無駄口を叩かないで。自分の立場が分かっているの!?」


そんなに叱らなくても・・・と思ったロップだが、門の向こうまでには口を挟めない。「いつも余計なことをして!」「裏方に徹しなさい!」と、彼を否定する言葉ばかり。やがてハンカチを奪い取り、戻れとだけ指示を出す。ユートと呼ばれた使用人は、フラフラと戻っていった。


「使用人の躾がなっておらず、申し訳ありません。ご足労をおかけいたしました」


先程と打って変わり、ルピナスは大きく頭を下げる。いや、その・・・と言葉に詰まるロップだったが。ふと、彼女の頭にあった髪飾りが目に入ってきた。


(・・・え?アレって)


「ハンカチを持ってきてくださり感謝します。私は少し用事がありますので、失礼します」


ルピナスは再度お辞儀をして、屋敷内へ戻っていく。


その帰り道、ロップは彼女の付けた髪飾りに引っかかっていた。


(ルピナス様が付けてた、百合のモチーフをあしらった髪飾り。アレって、ローゼル様がまだ学生の頃・・・)



テストも終わり出掛けていたローゼルとリリィを、買い出し中のロップは偶然目撃した。


「これ、素敵ですね」とリリィが目を付けたのは、百合のモチーフをあしらった髪飾り。職人の一点物だけど、学生だし安くするよ!という店主の言葉で、ローゼルは彼女に買ってあげたのだ。


ーーーそんな!自分で買います、ローゼル様。私が欲しいと言ったのですし。


ーーー俺からのプレゼントだよ。テストでもお世話になったから。いつもありがとう、リリィ。


ーーーローゼル様・・・本当にありがとうございます。大切にしますね。



あの時のリリィは、本当に嬉しそうだった。それから髪飾りは大切に使っていて、ローゼルと会うときには忘れず付けてくるほどだった。


・・・おそらく、伯爵家に向かっていたあの移動時にも、付けていたに違いない。


「それを、どうして・・・ルピナス様が付けていたの?」

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「中-1」は明日夜に投稿する予定です。

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