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9.頼りになる衛兵


 翌日、盗賊のアジトへ、サラの紹介で頼れる衛兵とやらに案内をしてもらうことになったのだが……



「お前が救世主様とその仲間か? サラ姉さんをだましたら承知しないからな!!」



 待ち合わせ場所にいた十五歳くらいの皮鎧に身を包んだ少年は無茶苦茶敵意たっぷりににらんできた。何もしていないのに、なんでこんなに嫌われてるんだ?

 まあ、どうでもいいか……



「頼りになるっていう衛兵が見当たらないな……しょうがない、二人で行くか。サラには誰も来ませんでしたって言っておこう」

「あんたね……」

「それが俺だっての!! わざとやってるだろ!!」



 俺がさっさと外に出ようとすると、少年が慌てた様子で引き止めてきた。ふふん、生意気なガキは構うと調子に乗るからな。



「そりゃあ、礼儀も知らないやつに礼儀を尽くす義理はないからな。なんで俺を嫌っているかは知らんがお前の態度によっては紹介してくれたサラに迷惑が掛かるって言うことを知っておいた方がいいぞ」

「うう……悪かったよ……俺は衛兵のカイだ。その……お前らが救世主で盗賊たちを倒してくれるっていうのは本当なのか?」



 俺の言葉にカイは意外にも素直に謝ってきた。まあ、村全体が殺気立っているところにいきなり怪しい奴が来たのだから警戒するのは衛兵として当然のことかもしれないな。

 


「俺はクリアー、ただの旅人だよ。救世主じゃないけど盗賊は倒すから安心してくれ」

「私は女神のドロシーよ。この村は私たちが守るから安心しなさい」

「女神……何を言っているんだ……? でも、確かにすごい美しい……」



 俺も挨拶をしたというのに、カイの視線は笑顔を浮かべるドロシーにくぎ付けになっている。この女神はポンコツだけど、外見はと性格は良いからな……

 しかし、あれだけ不審者扱いをされたのに、あくまでも女神と名乗るのは譲れないようだ。



「うふふ、クリアー聞いた? 私のこと美しいだって!! このまま信者になってくれないかしら?」

「貢いでくれるやつを増やすならともかく、信者ってそんなんで増えるわけじゃないだろ……」



 どや顔をしてささやくドロシーに俺はツッコミを入れる。そして、出発しようとすると、カイが不安そうに口を開く。



「なあ、クリアー……そんな美人と一緒に旅をしているんだったらさ……サラ姉ちゃんに興味があるってわけじゃないんだよな? その……昨日も変なこととかしてないよな?」

「ん? 何言ってるんだ。たんに飯をごちそうになって泊めてもらっただけだよ」

「そっか……ならいいんだ……俺だって戦いの心得はある!! 遠慮なく頼ってくれよな!!」

「ふーん……青春ねぇ……」



 なぜかやたらと元気になったカイをドロシーが何やら楽しそうにやにやと見つめている。よくわからないがカイもやる気になってくれたのならばありがたい。



「それで盗賊のアジトはどこにあるんだ?」

「そっちの方の山ね。枯れ木の森の奥かしら?」

「え……なんで……知ってるんだ?」



 カイの驚愕の表情から、ドロシーの言葉が正しいということがわかる。さすがは女神様、強力なバグの場所がわかると言っていたが本当らしい。



「うふふ、女神ですものこれくらい当然よ」

「うおお、よくわからないけどあんたもすげえんだな!! でも、女神って名乗るのは頭がおかしいと思われるからやめたほうがいいよ」

「うう……本当に女神なのに……」



 女神という言葉を強調するドロシーをカイが興奮しながらも、ちゃんと注意している。こいつ少しでも信者を増やそうと頑張っているけど、俺たちが思っている以上に神という存在は縁遠くなってしまっているようだ。

 俺も何とか助けてあげたいが、今は思いつかないな……




 カイに先導されながら山道をしばらく進むと、なにやら木の幹すらも真っ黒い不気味な木々が生い茂っているのが目に入った。

 


「なによ、これ……」

「よかったな、自然がたっぷりな場所もあったぞ」

「こんな色の木、明らかに不自然でしょうが!! というかなんであんたは嬉しそうなのよ!!」

「悪い悪い、だって、こんな風に木々を侵食するバグなんて初めて見たんだ。仕方ないだろ?」



 異様な木がお生い茂っている光景に俺は思わず笑みをうかべるとドロシーに叱られた。いびつな形だが枯れ木の生命力を復活されたということだ。相当なバグが強力だということを示している。

 彼女には悪いがすっげえ、ワクワクしてきたぞ!!



「半月前からこの近くの枯れ木がこんな風になったんだ……最初は不思議なことがおきるもんなって思ってたんだけど、そこに盗賊たちが拠点を作って周りの村を襲い始めたんだよ」

「ふぅん、この木と盗賊たちが何か関係しているかもしれないわね……」



 ドロシーは不気味な木を睨むと、周囲を警戒しているカイには聞こえないようにバグのことを訊ねてくる。

 


「でも、木自体がバグっていうわけではないわね……ただ影響を受けているだけみたい……どう思う、クリアー?」

「ふむ……となると……木々の栄養源がバグになっているのか……?」



 木に近づいてみようとすると何者かの気配を感じた。カイとドロシーも同様なのか、緊張が走る。

 


「あいつは盗賊かしら……?」

「ん……? なんだあいつ……随分と不健康そうな面だな? 寝不足か?」



 ドロシーが指さした方には退屈そうにあくびをした男が一人木の幹に寄りかかっていた。だけど、なんだかあいつ……やたらと顔が青白い。

 やつもブラックな上司に無茶な仕事を押し付けられているのだろうか? 俺が勝手な同情心を抱いていると、カイが憎々しげににらみつける。



「ああ、ここいらじゃ見ない顔だ。きっと盗賊だよ、こいつらが隣の村を襲ったんだ……」



 シュッ!!



 そうつぶやくと同時に風切り音ともに何かが飛んでいき、そのまま見張りの男の額を貫いた。



「やったぜ!! 隣村のみんなの仇だ!!」

「問答無用かよ!! てか、強いな!!」



 隣でガッツポーズをしているカイに俺は思わず突っ込む。サラが頼りになるといっていたのは本当だったようでその弓の技術は大したものだった。

 てか、思ったよりもこの世界の人々は容赦ないんだな……



「ねえ……クリアーあれ見てよ……」

「ん、なんだ?」



 感心している俺の服の袖をドロシーが引っ張ってきた。彼女が指さすのは今倒したばかりの見張りだ。

 返事はない……ただの屍のようだ……なんちゃって。



「は……? ただの屍じゃないのかよ!!」



 しかし、俺はその光景を見て間の抜けた声を上げてしまった。だって、額を貫かれた見張りの男がそのまま立ち上がったのだ。

 そして、こちらをにらんで大声をあげる。



「いてえじゃねえか。てめえらなにものだ!!」

「いてえで済むお前のが何者だよ。この世界の人間頑丈過ぎない?」

「そんなわけないでしょーが!! あいつが異常なのよ!!」



 これはマジで不死のバグでもあるのか……未知のバグ……だけど、不思議と俺にはもっと禍々しいものに見えたのだった。


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