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8.異世界の村

「申し訳ありません。私を助けてくださった救世主様にとんだ失礼を……」

「いやいや、サラのおかげで助かったよ。俺たちも怪しかったんだ気にしないでくれ」



 あの後、ゴブリンから救った少女……サラというらしい……が誤解を解いてくれたおかげで、俺たちは無事村に入ることができた。

 そして、今は彼女の家で休ませてもらっているのである。ちなみに名前も名乗ったのだが、なぜか彼女は救世主様呼びをやめてくれないのである。



「救世主様……そちらのドロシー様は大丈夫でしょうか?」

「うう……女神なのに不審者扱いされたぁ……」



 サラが部屋のすみっこっで体育すわりをして、半泣きになってぶつぶつとつぶやいているドロシーを心配そうに見つめている。


 まあ、事前に俺が説明をしていたとはいえ実際にだれも自分を知らないという現実を知ってショックだったんだろう。それに……自分を見ればわかってもらえるという期待もあったのだろう。気持ちはわからなくもない。



「大丈夫だ、なんか美味しいものでも食べれば治るさ。それよりも、やたらと村の人々が殺気立っていたが何かあったのか?」

「それは……最近ここらへんに盗賊団がやってきたんです。隣の村が襲われたこともあり、今はよそ者を警戒しているんです」

「それで身分証を持っていない俺たちはその仲間だと怪しまれたのか……」



 まあ、これだけ荒廃した世界なのだ。治安もあまりよくはないのだろう。なんとなくドロシーに視線を送ると、つらそうに唇をかんでいるが見えた。


 今回はバグは関係なさそうだし、困っている人間を全て助けていたらきりがないと思う。


 でも、ドロシーを見ればなにを考えているかはわかった。そして、そんな彼女だから俺は力になりたいなと思ったのだ。



「ねえ、クリアー……」

「ああ、わかってるよ。俺も力に……」

「しかも、その盗賊団はただの盗賊団じゃないんです。その盗賊は剣で切っても死なないですぐに再生するらしいんですよ」

「なんだって!! バグじゃねえか!!」



 サラの言葉に俺は思わず喰いついた。まさか、不死のバグか……? そんなものがあるとしたら、どれだけ強力で珍しいバグなんだ!!

 こんなすぐにレアなバグに会えるなんて……神様に感謝だな。あとでドロシーにおかずを多めにわけてあげよう。



「聞いたか!! 人助けができて、しかも、バグまであるみたいだぞ!! これは行くしかないな!!」

「……ええ、そうね……」



 なぜかドロシーは無茶苦茶複雑そうな顔をしながらも頷いた。あれ? 彼女も助けに行きたかったんじゃないのか?



「そんな……救世主様たちは私たちを助けてくださるのですか?」

「当り前よ、女神として困っている人々は放っておけないもの」

「それに不死身の盗賊たちも気になるしな」



 不安そうなサラの言葉に俺たちは笑顔で答える。女神として助ければ信者も増えるだろうし、バグも見つかる。まさに一石二鳥である。



「ありがとうございます……救世主様の伝承は本当だったのですね……」


 感極まったとばかりにサラが目に涙を浮かべる。



「だから、俺は救世主なんかじゃないって……ちなみにその救世主の伝承っていうのはどんな話なんだ?」

「はい、この地方に伝わる伝承で、我々が困ったときに、変異種を倒し、狂っている森を再生してくれる不思議な能力を持った救世主が現れるだろうっていうお話なんです」

「ああ、だから、俺がゴブリンを倒したときにあんなに目を輝かせたのか……」

「はい……それと私、救世主様に昔からあこがれていたんですよ」



 うっとりした表情を浮かべ熱を帯びた視線を向けてくるサラ。俺が救世主だって言えばフラグが立ちそうな勢いである。まあ、言わないけど……



「こほん……ちなみに、女神にはどんな伝承が残っているのかしら?」


 

 救世主ばかり話題に上がるので、ちょっとすねた顔をしたドロシーが俺とサラの間に割り込んできた。まあ、本人としては気になるよな……。それに実際目の前で何か実演すれば女神と信じてもらえるかもしれない。



「うーん、それがですね……一応あるにはあるのですがちょっと信じられない内容なんですよ……」



 サラが少し言いにくそうに前置きをして口を開く。もしかしてポンコツ女神として名を残しているのだろうか?



「あ、なんか色々やらかしてるのか? 雨乞いをしたら、やりすぎて洪水をおこして、農作物をダメにしたとか……」

「あんたね……私をなんだと思ってるのよ……」

「いえ、女神様がそんなへっぽこなわけないじゃないですか。なんでも、一目見れば変異種を滅ぼし、女神が海を渡れば水が割れて道ができ、その涙はすべてを癒す聖水になるとか……」

「「……」」



 なにそれやばい……てか、盛りすぎでは? ドロシーを見るとむっちゃ冷や汗をかいているのでアドバイスをしてやる。



「ドロシー……とりあえず、伝承通りにやってみれば信者が増えるかもしれないぞ」

「そんなことできるわけないでしょ!! なんでこんなことになってんのよ……」



 俺が耳元でささやくとと、彼女は絶望に満ちた顔で頭を抱えた。伝承の再現作戦は失敗か……



「まあ、その……ですからドロシー様が本当に女神さまだとしても、なかなか信用してもらえないかしれませんね……それよりも今夜はもう、遅いですし、うちに泊まってください。救世主様たちを精一杯おもてなしさせていただきます。この村の名物『うさぎときのこの鍋』はとっても美味しいんですよ」



 重くなった雰囲気を取り払うかのようにサラがキッチンから様々な具の入った鍋を持ってきてくれた。



「おお、出汁が効いててむっちゃうまいな! ドロシーもへこんでないで食えって!」

「そんな食べ物を食べたくらいで元気に……なにこれ、無茶苦茶美味しい!」



 即オチ二コマするドロシーだった。そんな俺たちにサラは笑顔を浮かべる。


「うふふ、気に入っていただけてなによりです。あと、盗賊のアジトへの案内は頼れる衛兵さんにお願いするので安心してくださいね」


そうして、俺は久々の温かい食事と柔らかいベッドを堪能したのだった。




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