6.ノイズの誤算
ノイズ視点です。
「ふん、やはり何の問題もおきていないではないか?」
「はい、やはり歪み(バグ)は発見されていないようですね」
「私の考え通りあの男のはったりだったのだ!!」
ノイズはクリアーがいた研究室で部下の言葉を聞いて満足そうに頷いた。部下のギフトは『通信』……遠くの人間の言葉を聞くことができるのだ。
クリアーはなにやらバグを分析とかほざいていたが、そんなことをしなくても世界の異常は探知することができる。
この世界は変わらず平和である。
「大体あの男はバグを見ているだけだったのに偉そうだったんだよ。そのくせ、私が魔物を退治しに行くから力を貸せというと、バグが進化する可能性があるから手を離せないとか、言い訳ばっかりしおって……」
「全くです。大して働かないくせに、ノイズ様の命令には逆らっていましたからね……でも、それもこれで終わりです。無能を追放したことはヘラさまも喜んでいました。これはひょっとするとノイズ様がヘラ様の補佐に選ばれるかもしれませんよ」
部下のおべっかにノイズはにやりと笑う。大司祭から選ばれる女神の補佐という役職はこの世界で二番目に偉い存在である。女神の代理人であり、彼女とほぼ同等の権限を持つことになるのだ。しかも、特別なギフトまで授かることができる。
ましてやヘラはまだ女神としては若い。彼女は補佐をおおいに頼るに違いない。補佐に選ばれさえすればノイズはこの世界を支配することすらできるだろう。
「でも、なんで、先代の女神さまはクリアーなんかを大司祭にしたんでしょうね?」
「さあな……媚でもうっていたんだろうよ。あいつはなぜか変な女にはモテるからな。先代の女神さまは謎に重用してたし、ヘイズもあいつのことばかり気にしていやがる」
「あれ? ほかの大司祭様もクリアー大司祭の追放には賛成をしていたのでは?」
「そんなものは追放してから説明しても何とかなるだろうが!!」
部下の言葉に慌ててごまかすノイズ。そう、彼は神殿にいた大司祭には根回しはしておいたが、外出中のヘイズ大司祭には確認はとっておかなかったのだ。
それでも過半数が賛成をしていたのだ。問題はないだろう。
「おや……なんか、僻地に変わった魔物が現れたみたいです。新種ですかね? どうしますか?」
どこからか報告を感知したのか、部下が怪訝な声を上げる。
「ふん、そんなのは適当に警備兵でもまわしておけばいい。私はこれからヘラ様と会食なのだ」
「さすがです!! もしもノイズ様が補佐になった暁には……」
「わかっている。お前を大司祭に推薦してやろう」
二人は下卑た笑みを浮かべあう。ヘラが嫌っていたクリアーを追放したことによってノイズは彼女の信頼の獲得に成功していた。
この世界を治めている女神の信頼が厚ければ厚いほど、彼が補佐に選ばれる可能性は高くなる。
その事実が彼を高揚させていた。まさにこの時が彼の幸せの絶頂の時だっただろう。
もしも、この時に彼が自分で、魔物を退治しに行っていれば違和感に気づけたかもしれない。もしも、この時に彼が先代女神がクリアーを重用した理由を調べておけばこの後の悲劇を回避できたかもしれない。
だけど、もう後の祭りである。
クリアーの言っていることがすべて真実で、彼がいたらからこそバグをおさえることができていた……
その事実を圧倒的な絶望とともに知るのはもう少し後のことである。
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