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5.信者0の女神さまと1人目の信者

 音のした方からやってきたのは牛の頭をした筋肉隆々の人型の魔物だった。



「ミノタウロスか……しかも、バグに侵されてやがる」



 ミノタウロスは強力な握力でこん棒を振り回す魔物であり、かなり厄介な相手である。しかも、そのミノタウロスの右手には棍棒が、左の手のひらには大量の牙が生えた口のようなものが生えているのである。



 カチカチカチ!!



 そいつが俺たちに気づき、こちらに向かってくると、その手のひらのにある口はまるでご馳走を前に待ちきれないとばかりに、歯を鳴らす。

 あれに喰われたらどうなるか……ぞっとする。



「何をしているのよ、早く逃げなさい!!」

「いや、だって……」

「信仰の刃よ、わが敵を切り刻め!!」



 その一言と共に女神の体が光って……何も起きなかった。女神の力は人々の信仰心だ。何も起きないってことは……誰も彼女を信仰していないってことである。



「え? なんで……力が……」

「あんたはどれくらい石になっていたんだ? もう、あんたの名前を憶えている人もいないぞ!!」

 


 助けた少女は女神の名前すら知らなかった。つまりはそういうことなのだろう。


 驚いて固まっている女神の代わりに俺は落ちている石にバグを付与してミノタウロスにぶん投げる。正直俺が女神をかばう義理なんてない。


 だけど、なんでこんなことをしたのか……わかっている。



 だって、彼女は俺を助けようとしてくれたのだ。協力を拒んで逃げ出そうとしたのに……それは前の世界ではありえないことだった。

 一生懸命働いてもだれも認めてくれなかった。いくらバグを浄化してもほめてくれる人なんていなかった。誰も優しくなんてしてくれなかった。


 だけど、彼女は……目の前の女神は俺にお礼を言って助けようとしてくれたんだ。それが……そんな当たり前のことかもしれないことが俺は嬉しかったのだ。



「そんなに腹が減ってるならこれでも喰らいやがれ!!」

「石がおおきくなっていく!? あなたまさかバグを……!?」



 女神の言う通り俺が放り投げて石はミノタウロスに近づくにつれてどんどん大きくなっていき……やつの体の半分ほどのサイズとなり、押しつぶす……はずだった。




「ブモーーー!!」

「そんな……石を食べている?」

「はっはっはー!! それがお前のバグか!! おもしろいなぁ!!」



 左手で岩を受け止めたミノタウロスからガリガリと硬い何かを咀嚼する音が響く。食えとは言ったけどさ、本当に食うとはな!!



「だけど、お前は終わりだよ!! 『歪み放出バグリリース』」

「ブモーーーー!!」



 俺が斬りつけるとミノタウロスは傷口から徐々に石化していく。さっそくバジリスクをつかってみたのだ。だけど、初めて使うからか、その速度は俺が思ったよりも遅く、暴れまわるミノタウロスが振り回したこん棒が俺の方へと向かってきて……



「なにぼーっとしてんのよ!!」

「うおおおおお!?」



 女神に全力で引っ張られそのまま引きずられていく。腐っても女神すごい力である。そして、暴れていたミノタウロスの体はようやく石化していく。



「なんで俺を助けたんだ。お前だって殴られてぺしゃんこになるかもしれなかったんだぞ!!」

「なんでって、そんなの決まっているでしょう? あなただって私の世界に住む人間なのよ。だったら守るに決まっているじゃない。それに……あなただって、私を助けてくれたじゃないの?」



 当たり前のこととばかりに鋭い目つきで石化していくミノタウロスを見つめる彼女の顔はとっても美しくて……思わず見惚れてしまう。



「それにしても、すごいギフトね、私のバグを取り除くだけじゃなくて、バグに侵された魔物すらあんなにあっさりと倒しちゃうなんて……あなたってすごいのね」

「あはは、そうかな……」



 女神の言葉に俺は苦笑する。俺自体はすごい力だと思っているし、無数のバグを分析したり、こういう風に使うのは正直楽しい。

 だけど、前の世界ではだれもほめてくれなかった。ヘラは何度説明してもわかろうともしなかったし、ノイズは戦いには大して使えない無能なギフトだと馬鹿にしていやがった。

 だから、彼女も助けられたからそう言っているだけだ。そう思っていたのに……



「ええ、そうよ。だって、世界を管理していく上でもっとも厄介な障害のバグを喰らうってだけでもすごいのに、あなたはそれをさっそく使いこなしたじゃないの? それはあなたがギフトとバグに対して、真摯に向かいあっていた証拠でしょう」

「え……」



 女神の言葉に俺は言葉を失った。確かに俺のギフトは分析はできる。だけど、即座に使いこなすのはバグへの理解度が必要だ。だから、俺は頑張ってきた。

 だけど、これまで生きてきてこんな風に俺を認めてくれた人がいただろうか? 俺のギフトと頑張りを認めてくれた人がいただろうか……。



 つい気恥しくなり、俺は彼女から目をそらす。そんな俺に気づいているのか、気づいていないのか、彼女は神殿を見て大きくため息をついた。

 


「それにしても……私が石化している間に神殿もずいぶんぼろっちくなっちゃったわね……」



 確かに、これは神殿というよりももはや廃墟である。どれだけ放置したらこうなるというのだろうか?



「それだけど、なんであんたはなんで石になっていたんだ? 女神は人よりも身体能力が高いんだ。バグから逃げることだってできるだろ?」

「何を言っているのよ。そんなことをしたら誰があのバグを受け止めるっていうの?」

「は……? はは、マジかよ……」



 この女神さまはこうなるとわかっていて自らを犠牲にしたっていうのか……俺の世界の女神さまは俺や他の大司祭に汚れ仕事はやらせて、ふんぞり返っていたっていうのに……



「なあ、あんたの名前はなんていうんだ?」

「私はドロシー!! この世界を見守りし女神よ。といっても今は信者は0みたいだけどね」



 名乗った彼女……ドロシーは自虐的に笑うと俺をまっすぐ見つめる。



「それであなたは何者なのかしら? そのギフト……私が与えたものじゃないわね。異世界からの来訪者ね」

「ああ、俺の名前はクリアー。異世界から不要だと追放された人間だ。そして……」



 俺はちょっと照れ臭そうに笑いながら、一生懸命がんばってくれた彼女に一言告げる。



「女神ドロシーの1人目の信者だ」



 そう、これが俺の本音だ。正直誰かにいいように使われるのはもう勘弁だ。だけど、彼女になら少しくらい力を貸してもいいかなって思ったんだ。

 これは誰かに使われるってことじゃない。俺が彼女に力を貸したいそう思ってのである。



「え……あなた……」

「といっても俺は自由に生きるって決めているから、あんたの部下になったわけじゃないから……うおお!?」



 俺の言葉は途中で中断される。なぜならば女神ドロシーが抱き着いて来たからだ。柔らかい感触と甘い匂いが襲ってくる。



「ありがとう……信者になってくれた……それだけで十分よ、クリアー」



 強がっていたが、目が覚めたら信者が誰もいなくてきっと不安だったのだろう。俺の胸元で涙まじりにくぐもった声を上げる彼女の頭を撫でながら蛇が破壊した天井から空を見上げるといつの間にか曇っていた空は晴れていた。







 枯れかけている世界樹のふもとに住むエルフの長は空を見上げて、驚愕の声を漏らしていた。



「空が……私の子供の頃みたいに空が青くなっている!!」



 それは本当に一部であり、魔法を使わないと見えないほど小さい。だけど永久ともいえる時間、空を覆っていた雲が消えて一部の場所からは美しい青空が顔を出していたのだ。

 彼女が子供のころに女神が姿を消してから空は暗くなり、それから何百年も生きてきて、久しぶりに見た青空なのだ。驚愕の声を漏らすのも無理はないだろう。



「あそこで何か起きたのかしら……? これで世界樹が救われるかもしれない」



 そして、彼女はとあることを部下に命じることにした。




 ぼろぼろの城壁に囲まれた街で人の王は天を仰いでいった。



「あれは……朽ちた神殿の方か……何かが起きているのかなぁ?」



 王はうさん臭い笑みを浮かべながら、考える。これは吉報なのか、凶報なのかと……



「ふふ、考えるだけ無駄だったね。変異種の侵略と資源の枯渇で僕ら人間の住める場所はもう限られている。だったらかけるしかないか……誰かに調査を……いや、いっそ僕が自ら……」



 空を見つめながら人の王はこれからどうすべきか考え……一つの決断を下すのだった。





 ローブを身にまとった人影は空を見てうめき声をあげる。



「ああ、ああ……あれはまさか……我らを救わなかった、憎き青空か!! まさか、女神が復活したとでもいうのか……」


 ローブの男は憎しみに満ちた目で空を見つめ……そして、自分の言葉に自虐的に笑う。



「ふははは、この世界に神などはいないのだ!! いや、私が神なのだ!! そうなるために私は不死を得た!! 私以外に奇跡を起こす不快な存在なぞ不要である。もしも、本当にいるというのならば……私が消してやろう!!」



 そして、ローブの人物は怨嗟の声を上げて青い空をみつめるのだった。


とりあえず一区切り……


これから女神さまとの物語が始まります。



面白いなって思ったらブクマや評価を頂けると嬉しいです。


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