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15.祝宴

 宴会は村の中央の広場で行われていた。たき火には狩人がとってきたであろう獲物が焼かれており、香ばしい匂いが食欲をそそる。



「うおおおお、すげええ!! 猪の丸焼きだぁ!!」

「もう、恥ずかしいからはしゃがないの!!」

「そういうドロシーだって、うずうずしてるじゃん。よだれは出てるぞ!!」

「嘘!? ってなにもないじゃないの!! だいたい、女神はよだれなんて垂らさないんだから!!」



 ドロシーは慌てて口元を確認するが、からかわれたことに唇を尖らす。そして、再度お祭りで騒いでいるみんなを見つめる瞳は嬉しそうだ。



「救世主様、ドロシー様、盗賊を倒してくださってありがとうございます。よかったらこれをどうぞ」

「これはお酒か……?」

「えへへ、おいしそう!! ありがたくいただくわ」



 アルコールの香りが何とも心地よい。エレキシュガルはというとさっそく口をつけて幸せそうな顔をしている。



「あんまり調子に乗って酔っぱらうなよ!!」

「大丈夫よ、私は女神ですもの。酔ったりなんてしないわ!!」

「うふふ、良い飲みっぷりですね。あちらにおかわりもありますよ」

「本当!! ちょっといってくるわね」



 そういうとドロシーは少し顔を上気させながら口笛を吹きながら歩いて行ってしまった。まあ、単に酒を飲みたいというのもあるが、彼女は女神だ。

 自分の世界の住民たちが喜んでいるのを見たいのかもしれない……多分。



「みんながこうして楽しそうに笑っていられるのも救世主様たちのおかげですね」



 サラが笑顔を浮かべながらじーっと見つめてくる。その瞳はうるんでおりとても熱い感情がこもっているのを感じる。

 なんだこれ……まるでフラグが立っているみたいじゃないか……



「いや、そんなことはないと思うが……」



 困惑しながら否定すると、サラは俺の手を優しく握って首を横に振った。



「そんなことありますよ。だって、クリアー様に助けられてから、本当に不思議なことばかりおきているんです。伝承にあった青い空が見えるようになり、魔物たちはおとなしくなって、枯渇していた井戸にも水も湧くようになりました」



 魔物たちが大人しくなったのは周囲のバグを浄化して、生態系が回復してきたからだろう。水はウィンディーネが頑張ってくれているからだ。

 確かに俺が関わっているが俺だけじゃない。周囲のバグを浄化しようといったのはドロシーだしな。彼女の行動にはちゃんと意味があって、住民たちは救われているのだ。

 それがわかって俺は自分のことのようにうれしくなる。



「俺はちょっとした手伝いをしただけだよ」

「そんなことはありません。だって、女神さまを連れてきてくれたじゃないですか?」

「え……サラはドロシーが女神だって信じてくれるのか?」



 予想外の言葉に俺が聞き返すとサラは少し恥ずかしそうに笑った。



「私は子供のころからずっと救世主様と女神さまのお話が好きでいろいろな物語を集めていたんです。その中のエルフが書いた古い本に女神様の外見に関する描写もあったんです。銀色の髪の人間離れした美貌の少女であると……」

「そうだったのか……」



 冷静に考えれば魔物から助けたくらいで男を自分の家に泊めたりとかしないよな……彼女は彼女なりにドロシーを女神か見極めようとしていたのだろう。


 いや、だけどあいつはサラの家ではへこんでぐちぐち言っていただけだしな……今も楽しそうに酒飲んで飯を食っているだけである。威厳もくそもない。

 これで信じてもらえなかったどうしよう。そう思っていたが杞憂のようだ。



「本当の女神様はとっても親しみやすくて驚いてしまいました。そして、その伝承には続きがあるんです。女神を救いし救世主は、彼女と共に世界を救うと……」

「いや、だから俺は救世主じゃないんだって……」



 そもそも俺はドロシーに手を貸しているが、バグに興味があるというのが大きい。彼女の言うような救世主とは程遠い人間だろう。



「なるほど……あなたが救世主様でないなら、この村で私と過ごすっていう選択肢もあるのでしょうか?」

「え……何を……」



 言葉の途中で手をぎゅっと握られた。そして、先ほどよりも熱のこもった目でこちらを見つめてくる。なんだ、これ? こういう時はどうすればいんだ?

 いや、サラのような美女と暮らすというのは魅力的だが、俺はドロシーと世界を回るという約束をしているのだ。それに……俺はもっとたくさんのバグを見たいと思う。



「クリアー何やってるの? こっちにご馳走がいっぱいあるわよーー!!」



 俺がてんぱって何も言えないでいると能天気なドロシーの声が聞こえる。



「うふふ、今のは冗談ですよ。救世主様、女神さまが寂しがっていますよ。みんなのところに一緒に行きましょうか?」

「ああ……」


 俺の表情を見て、サラがクスリと笑った。からかわれたのだろうか? そうして俺は少しどきどきした胸を必死におさえながらドロシーのところへと向かうのだった。






「うおおお。異世界にきてはじめての塊肉だぁぁぁぁ!! むっちゃうまい!!」

「えへへ、そうでしょう!! このお酒とお肉がとってもあうわよ」



 俺がイノシシの肉を食べながら叫ぶと、ドロシーがコップに酒を注ぐ。女神が酔わないというのは本当のことなのか、先ほどから大量に飲んでいるはずなのに、まだまだ元気である。

 その代わりといってはなんだが、彼女と飲み勝負をした連中が酔いつぶれており、アンデッドの巣窟のようになっている。



「お、もう一人の救世主様も来たな!! たくさん食ってくれ」

「カイから聞いたぞ。不死のはずの盗賊もあんたが倒してくれたんだってな、すごいじゃないか!!」

「ああ、これはサラの言うように本当に女神さまと救世主様からもしれないな!!」



 俺に気づいた村人たちも親しげに話しかけてきて料理や酒を進めてくる。 ちなみにカイは「失恋した……」とつぶやいて酒を一気飲みして酔いつぶれたらしい。




「だから、私は女神って言ってるでしょう!! ほら、望むなら酔いだって醒ましてあげるわよ!!」

「そんなんで奇跡の安売りをするなよ……」

「あはは、女神さまと救世主様は仲が良いんだなぁ」



 ドロシーと俺のやり取りに村人たちが笑い声をあげる。そして、彼らと話していると不思議と料理や酒が余計美味しく感じられた。


 ああ、これが感謝されるってことなのか……



 以前の世界ではバグを浄化して当たり前という扱いだったからな。こんな風にみんなに感謝されて、お礼をいわれ、宴会を開いてもらうことなんてなかったのだ。

 そして、これを知ることができたのは彼女のおかげだ。村人たちが去った後に感謝の言葉を伝える。



「ドロシー、ありがとう。俺はお前のおかげで大切なことを知ることができたよ」

「な、なにを言っているのよ!! 私の方があんたに感謝してるんだからね!! あんたのおかげでみんなに笑顔を戻ったのよ。だから、お礼を私が先にお礼を言おうと思ったのに……」



 なぜか悔しそうにツンツンした声をドロシーがあげる。その様子が可愛らしくて俺はつい軽口をたたく。



「どうしたんだ? 顔が赤いぞ」

「うっさい、酔っぱらっているだけよ!!」

「女神は酔わないんじゃなかったのか?」

「うう……ううーー!!」

「大変だーー何者かがこっちにやってきたぞ!!



 そんな話をしている最中だった。見張りをしていた衛兵の一言で、周りに緊張が走る。もう日も落ちて夜である。こんなタイミングで来るのはまっとうなやつではないだろう・

 盗賊の生き残りかもしれないな……

 俺とエレキシュガルは顔を見合わせて、衛兵についていく。



 そうしてその先にいたのはフードを被った一人の人影が見える。風が吹いてめくれると、小麦のような金色の髪に、白い肌が、そして鋭くとがった耳の少女の顔が見える。



「な……エルフだって? 世界樹のふもとから出ないなのになんでこんなところに……」



 彼女はドロシーを見て、大きく目を見開いて何かをつぶやくと力尽きたかのようにそのまま倒れる。



「おい、大丈夫か?」


 慌てて駆け寄るとやつれた頬に薄汚れたローブから過酷な旅をしてきたことがわかる。まさか、けがをしているのだろうか?


「おなかが……」

「おなかに怪我をしているの? 今すぐいやすわ」

「おなかがすきました……」

「「は?」」


 くーっという可愛らしい音があたりに響くのだった。

女神は酔わない……



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