12.アジトの奥にいるもの
矢が刺さったテントの中に入ると、そこには何かを隠すかのように武器や防具などが雑多に置いてあり、押し倒された棚の近くに地下への階段が見えた。
「どうやら、ちゃんと隠す時間もなかったようだな」
「ここから強力なバグの気配を感じるわ。警戒をおこたらないようにね!!」
「ああ、すごい楽しみだよ!! どんなバグがあるんだろうな」
「その返事はおかしくないかしら!?」
そんなやり取りをしながら、俺たちは階段を降りていく。自然にできた洞穴につながっていたらしい。蝙蝠たちが「キューキュー」と鳴いているのがどこか薄気味悪い。
思ったよりも大きく広がっている様子に驚いているとドロシーは迷いなく走り出す。
「こっちよ!!」
「おお、流石ドロシー!!」
「うふふ、もっと褒めて―!! 私はすごい……きゃっ!?」
調子に乗ってはしゃいで地面の出っ張りに足をつまずいて転びそうになったドロシーの腕をとって支える。
柔らかい感触と甘いに匂いが俺は一瞬にやけそうになる。
「ああ、本当にドロシーはすごいな」
「うう……馬鹿にして……」
「馬鹿になんてしてないさ。これから先は危険だっていうのに、他人のために真っ先に駆け出すなんて、すごいよ。俺はお前の信者になってよかったと思う」
「な……いきなり変なことを言うな、馬鹿!!」
本気でこの女神さまはすごいと思う。そもそも女神はこんな風に前線に出るものじゃないからな。そう思って本音を伝えたのだがなぜか顔を真っ赤にして逸らされてしまった。
そして、彼女にしばらくついていくと奥の方で何者かの気配を感じる。それと同時にすさまじいプレッシャーを感じる。バグコレクターとしての直感が訴えてくる。これは下手したエレキシュガルに侵食していたバグよりもやばいんじゃ……
そして、そこには禍々しいまでに真っ黒い泉を必死の形相でくんでいる男の姿が見えた。
「あれが……私が察知したバグで間違いないわ。クリアーの作戦通りね」
「ああ、どうやらバグに侵された水を大切にしているみたいだったからな。勝てないとわかれば、回収すると思ったよ」
「くっそ、お前ら一体何なんなんだよ。このくそみたいな世界でようやく力を得たというのに邪魔をしやがって……」
俺たちに気づいた盗賊の頭らしき男は振り返ると憎らし気にこちらを睨みつけてくる。勝てないと悟ったこいつは部下たちを見捨てて、泉の水を汲めるだけ汲んで逃げようとしたのだ。
そして、こいつは一つだけ勘違いしている。
「力か……バグは安易に力をくれるだけの物じゃないぞ。それ相応のリスクだったあるんだ」
巨大化したゴブリンしかり、ミノタウロスしかり、やつらはみな正気を失っていた。バグは確かに強力な力をくれるが元は世界の穢れにすぎない。その存在を歪めてしまうのだ。
それはこの泉も例外ではない。あたりにお生い茂っている木々はこの泉の養分を吸って育ったからあんなにまが禍々しいものになったのだろう。
バグはまっとうな力ではないのだ。だからこそ面白いのだが……
「んなこと知ってんだよ!! この泉の水を飲んで大丈夫だったのは四人だけだ。ほかの部下は死んじまった。だけどよぉぉぉぉ、神もいねえこの世界で!! 俺たちのような人間が成り上がるにはリスクをもってもかけるしかねえんだよぉぉぉぉ!! だから、怪しいあいつらか高い金を払ってこの水を買ったんだ!!」
「おい、そんな量を飲んだら……」
「クリアー気を付けて!! この男の体……バグに侵されていく!!」
男が汲んでいた水を飲み干すとこれまで見た敵同様に顔色が悪くなり……その全身が膨張していく。
「ふはははは、これが俺の力……え……?」
その時予想外のことがおきる。泉の水がまるで触手のように絡みついて、男を引きずり込んだのである。
「な……ちょ……」
そして、抵抗もむなしく締め付けられると何か大切なものが搾り取られていったのか、その体は徐々に干からびていく。
「な……人の生命力を食っているのか?」
「まさか……今までのやつらはこの泉の水によって生命力を奪われていたんじゃ……」
ああ、そうか……こいつらは不死になったんじゃない。生命力のかわりに泉の水を入れられて動いていただけなのだ。
もう、あれは人ではなかったのかもしれない。ようはアンデッドのようなものだ。そうすればあの生命力も納得がいく。
だが、ただの水がこんなにも自我をもったりするのだろうか? その答えはすぐにわかる。
「それに、これはただの水じゃないわ……ウィンディーネ……精霊よ」
ドロシーの言葉をまっていたかのようにして、その泉の水はまるで、女性のように形をとった。そして、にやりと笑った。
「精霊だと……しかも、ウィンディーネって確かドロシーがいっていた五大精霊の一人じゃ……」
エレキシュガルの言葉に俺は思わずうめき声をあげる。精霊は自然をつかさどる存在だ。場合によっては魔物よりもはるか強力な存在であり、まっとうに戦えば俺や信者の少ないドロシーでは勝てないかもしれない。
「私がバグに侵食されているこんなことになっていたなんて……クリアー……この子を救ってもらってもいいかしら?」
「おいおい、相手は精霊だぜ。本気で言っているのか?」
英雄譚の救世主ならばともかく、盗賊相手にも正攻法では苦戦する俺ではまずかてないだろう。それなのに彼女はにやりと笑う。まるで俺を信じているかのように。
「だけど……バグに侵されているわ、あなたの大好物ね!!」
「はは、精霊すらも支配するバグか!! 最高かよ!! それに……この盗賊共を倒したのが女神だと訴えれば信者も増える!! 一石二鳥だな!!」
ああ、そうだよな……ようやく俺の性格をわかったうえでの激励の言葉に笑顔で返す。そう、精霊だろうがバグに侵されていれば話は別である。
だって俺はバグの専門家なのだから
「タベル……イノチタベル----!!!」
そうして威嚇するように襲い掛かってくるウィンディーネと対峙するのだった。
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