脳筋パーティーでダンジョンは無理ゲーです。
早朝。
(やはりベッドは良い。)
(暖かいしいい匂いがする、そして枕、柔らかく顔を埋もれれば心地よい弾力がある。)
(昨日疲れた分ドナが来るまで寝よう、仕事はそれからでも良いやぁ…)
「タイチさん…」
「ん~?ドナ~?」
「今日はえらく早いね…」
「んごっ!」
寝間着の首元を掴まれつるし上げられる。
「!?」
「ドナさん!?」
ドナはタイチを持ち上げながら泣いている。
「タイチさん…不潔です。。。」
「えっ!?何!?えっ!?」
「二人ともおはよ~朝から何ぃ~?」
何も着ていないイラムが大あくびをしながらベッドから起き上がる。
「ド、ド、ドナさん、無実です、事故です、いや、違う!なんも無いです!」
「最低です…」
「床は寒くてね~身も心も温まらせてもらいました~」
「ちょ!オマエ!」
(なんつー事言ってんだよ!)
「うぇぇぇぇぇぇぇん」
「ちょと!うおっ・・・・fdそfhのあshんふぉ!!」
タイチは壁に投げつけられ沈黙した。
「・・・・・」
「・・・さん!」
「タイチさん!」
「はっ!ドナ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「これは違うんです!あの…」
「タイチさん大丈夫です、落ち着いてください!」
「えっ!はっ!はい?」
「すみません。またイラムさんの暴走だったんですね…」
「こちらこそ乱暴してすみません。」
「あっ!いや、大丈夫、ドナは悪くないよ。。。」
(もう、呪いだよ、一瞬でもアイツに興奮した自分を消してしまいたい…)
「二人とも大丈夫?朝ご飯食べに行こ!」
「・・・」
「・・・」
朝の屋台。
各々買ってきた物をテーブルに置き席に座る。
二人は朝からすごい量を買い込んでいる。
「二人ともちょっと良いかい?」
「どうしたんですか?」
「な~に?」
「開店までの間に目玉商品を仕入れる必要がある。」
「はい、でも予算が…」
「うん、うん。」
「そう、予算がまるで無い、商会の卸値でも無理だ…」
「絶望的ですね。。。」
「辞めちゃう~?」
「なので自力で入手します。」
「えっ?」
「まじ~?」
「大マジです。オレイカルコスの鉄鉱石取に行きます。」
「タイチさん!ダンジョンには行かないって言ってたじゃないですか!」
「それに私達は今初めてもブロンズですよ!」
「ダンジョン~?冒険~?」
「大丈夫だ!ダンジョンも冒険もしない!」
「それでどうやって…?」
「え~冒険無いの~?」
「朝食後、出発だ!昨日の内に必要な物は頼んだ!」
「不安です。」
「安心して、後、泊りになるから準備よろしく!」
朝食を終え店に帰る。
店の前には大きな荷馬車が止まっている、
タイチは荷馬車に駆け寄ると商人と会話をして握手する。
「ドナ、ゴメン書類に目を通してサインよろしく!」
「イラムはウチの荷馬車に詰め込みなおしだ!」
「わかりました!」
「了解~!」
それぞれの作業を終え、馬車に乗り込む。
イラムは荷馬車を出発させた、タイチは地図を見つめている。
「多分行ける、いや、行ってくれないと開店できない…」
「あの、タイチさん?」
「どうしたの?」
「本当に大丈夫ですか?そこら辺には鉱石は落ちていませんよ?」
「ダンジョンに入ったらタイチさんを守りながら戦うのは無理です。」
「大丈夫!」
「とりあえずコレ、おやつ。」
「うぁ~!タイチさんありがとうございます!」
「タイチ君、、、私は?」
「ほらっ、」
「やった~!」
「お前アレは持って来たか?」
「クレーンアームなんてダンジョンで役に立たないわよ?」
「ダンジョンなんて入んねーよ!」
「おっ、そろそろだな。」
「タイチさんそっちは山頂に進む道ですよ?」
「大丈夫こっちだ。」
山の八合目付近で馬車は進めなくなる、小さいキャンプを立てる。
タイチは地図を広げ話す。
「もう少し登った所で掘削を開始します。」
「?」
「掘削ですか?」
「そう、ダンジョンの地図と山の地形図を照らし合わせると斜めに掘削していけば鉱石の有る階層の壁面に到達する、そして鉱石を採取します。」
「そんな、ズルじゃないですか?!」
「良いんだよ!ギルドに入ってる訳でもない、ましてや冒険者でもない俺たちは只のハイカーだ。」
「イラムのドリルで掘り進め、ドナが掘削された土砂を運ぶ、俺は回復担当だ。」
「パワー系パーティーの特権の肉体労働です!」
「タイチさんが回復係ですか?」
「ほれ!」
タイチは袋にタップリ入っているポーションを見せる。
「ははは、、、」
「それに特別報酬だ!」
ドナに焼き菓子の入った大きな紙袋を渡す。
「タイチさん!お店の為に頑張りましょう!」
「タイチ君、私は?」
「お前が横領した分全部給料から天引きな。」
「やらせていただきます!」
「よろしい。多分一日堀り続ければダンジョンの壁面にぶつかる。」
「後は囲むように掘って壁面の鉱石を裏側から抜き取る!」
「取るもん取ってさっさと帰ろう!」
スキルの恩恵があり、掘削は難なく進む。
「このスピードなら夜までに掘れるな…」
「スキル…羨ましい。」
「ふぅ~疲れた~」
「オーバーヒートォォォォ…」
「二人ともお疲れ様。とりあえず休憩しよう。」
タイチが用意した、お茶やお菓子に群がる。
「おいしい!タイチさんありがとうございます。」
「ウマー!」
「休憩終わったらまたよろしくお願い!」
「はーい」
「ほ~い」
夕方。
「スゲーな、重機かよ・・・」
ほとんどダンジョンの壁付近まで掘り進めた。
「タイチさん次はどうしますー?」
「今日はもう辞めよう!残りの作業は明日にしよう。」
「二人とも~お疲れ様~」
二人に濡れタオルを渡す。
「ありがとうございます。」
「ありがと~」
「ふぃ~!」
「夕飯も用意してあるから体拭いたら食べてね。」
どっさりとテーブルに置かれた食材にかぶりつく二人、
その様子を横目に見ながらタイチは地図に目を通す。
「タイチ君も食べなよ~!」
「そうですよ後でお腹空いても残ってないですよ~!」
「はーい…」
夜。
焚き火を囲みながらタイチは話しかける。
「そろそろ寝ろよ、明日も早いよ。」
「では、見張りよろしくお願いしますね。」
「着替え覗くなよ~!」
「覗かんわっ!」
一人になったタイチはまた地図を見ている。
(凄いな、これなら本当に明日には帰れるぞ、、、)
(あとはイラムのアームで・・・)
(しかし肉体労働はしていないとは言え夜は眠いな…)
「タイチさん…」
「はっ!少し寝ちまった。。。」
「大丈夫ですか?」
「ドナ、まだ寝てていいよ、明日も早いんだし。」
「私は大丈夫です、タイチさんも少し寝てください。」
「ありがとう、それじゃ、これ飲んだら少し休ませてもらおうかな。」
「私にも少し下さい。」
ドナはタイチのカップを取り少しだけ飲む。
「完全に冷えちゃってますね、」
「ごめん、ボーっとしてから冷めちゃった。」
「温め直すよ。」
「大丈夫ですよ、このままで。」
「いや、量も少ないし…寒くなっちゃうよ…」
「ぷー!このままでいいです!」
「あっ、ごめん…」
「ふふっ。」
「タイチさん本当は何処から来たんですか?」
「時々変な言葉使うし、全く世の中の事知らないし、しかも文字読めないし。」
「あ、文字読めないのバレてた?」
「バレバレです。」
「私の注文した物しか頼まないし、書類とかは全部任してくるし。変な字のメモ書いてるし」
「ですよね。。。」
(やばい、何て説明しよう。)
「あのでっかい星から来てたりして。」
「まあ、似たようなもんかな、、遠い遠い国から来たんだ。」
「またごまかして。。。」
「ごめん、落ち着いたらちゃんと話すよ。」
「あと、少しで良いから文字を教えてくれない?」
「良いですよ、タイチさんの国の文字も今度教えてくださいね。」
「わかった約束するよ。」
テントの中のイラムはメガネのツルを嚙みながら二人とは反対方向を向いていた。
「なんだよっ。二人でイチャコラしちゃってさ。」
「馬鹿チン。」
朝。
朝食を取りながらタイチは今日の作業内容を二人に伝える。
「今日で帰れるように頑張りましょう!」
「だね~!」
昨日と同様に作業は順調に進む。
昼前にはダンジョンの内壁付近に到着した。
「タイチ君ここら辺?」
「多分、ここからダンジョンを囲むように掘って行けば鉱石が出る可能性が高い。」
「イラム!慎重に掘ってくれないか?」
「ヘイへーイ!」
少し掘るとドリルから火花が出る。
「おお!」
「うほーい!タイチ君!何か当たったよ~!」
「どれどれ!」
泥を少し手で払い明かりを近づける。
「これだ。」
「やったー!本当にあった!あったよ!あった!」
「タイチさん!有ったんですね?」
「ドナ!見てこれ!」
「すごいです!本当にあったんですね!」
「ドナ、イラム!本当にありがとう!」
「後は小さい鉱石は袋に詰めて、大きい鉱石はイラムに砕いて貰おう!」
「はいっ!」
「ガッテン!」
タイチとドナは袋に鉱石を詰め次々と荷馬車に詰め込む。
その間にイラムは鉱石を砕いている。
粉砕作業をしているイラムの壁面が崩れる。
「おおお、おお!」
荷馬車から帰ってきたタイチにイラムが呼びかける。
「タイチくーん!」
「お宝だよー!」
「どうしたー?」
「ほれ!お宝お宝!」
イラムの身長はある鉱石が壁から生えている。
「すげぇ…」
「とれじゃーw」
「一発いっとくぅ?」
イラムが振りかぶって構えた時、鉱石の隙間から風が吹いた。
「やめろイラム!」
「とりゃー!」
轟音と共に鉱石が砕ける。
砕けた鉱石の後ろにはダンジョンらしき空間が現れる。
タイチは全身に悪寒が走る。
「イラムっ!逃げるぞっ!」
「へっ?」
イラムの体がタイチの横に吹き飛ぶ。
「がぁはっ!」
「イラムっ!大丈・・・」
壁の穴からは大きな爪が飛び出ている。
「なんだありゃ…?」
「タイチさん!逃げて!」
駆け付けたドナはイラムを担いでタイチに叫んだ。
反応したタイチは即座に反転して逃げる体制を取る。
ドナがタイチの腕を掴み全速力で逃げる。
「なんだありゃ…」
「キメラです!追いつかれたら全員死にます。」
「マジかよ…」
持ち上げられたタイチは追いついて来ているキメラに気づく。
「ドナ!追いつかれる!」
「これ以上はっ…」
「イラムっ!起きてるかっ?」
「何…とか…ね…」
「天井を!」
「あい…よ…」
イラムの腕からドリルが飛ぶ。
天井の岩盤が崩れ落ちキメラと三人の間に壁ができる。
ドナは出口まで走り切った。
三人は草むらに転げ息を整えた。
「二人とも大丈夫ですか?」
「ありがとうドナ…ホント助かった…」
「けほッ…生きてるよ…」
タイチは起き上がり二人を見た。
「本当によかった。。。」
ドナがイラムに応急処置している間タイチが荷物をまとめる。
目標を達成するには十分な鉱石を手にした。
「大丈夫かイラム?」
申し訳なさそうにイラムに話しかける。
「ん?タイチ君が沢山用意した薬のお陰でバッチシ回復!」
「良かった。。。」
(商店で進められた回復薬買っといてよかった、、、)
「イラムさん!完全に回復したわけじゃないんですから安静にしてください!」
「へーい。」
「帰りは私が運転しますからイラムさんは荷台で寝ていてくださいね。」
「えー!やだやだ!」
「帰りはドナのおやつ分けてもらっ…」
ドナの手刀がイラムの意識を飛ばす。
「寝てろ。」
「ドナさん…コワイ。」
「さっ!タイチさんも帰ったら積み下ろしが有りますからね、帰るまで休んでいて下さい。」
「はい。」
ドナは片手に焼き菓子を持ちながら荷馬車を走らせる。
夜には店に到着した。
タイチは積み下ろしを終え二階に上がる。
丁度ドナも夕飯の買い出しを終えて帰ってきた。
「お疲れ!買い出しまで行ってもらって申し訳ない。」
「いえいえ、ちゃんと代金も貰いましたので余裕です!」
タイチに焼き菓子を見せる。
「安上がりで助かります。」
意識を取り戻したイラムも起き上がり食事を囲む。
「本当にお疲れ様!おかげで鉱石も手に入ったし何とかなりそうだよ。」
「最後はヒヤヒヤしましたけどね」
「私のドリル大活躍!」
「今回腕はもちろん経費で落とすよ。」
「えー!今回だけ?」
「調子に乗るな…」
「ぷー!」
「皆さんそろそろ寝ましょう。」
「そうだね、そろそろ…」
「・・・・・・。」
普段の流れで相づちを打つが、問題を忘れていた…
「どうしますか…?」
(当然馬鹿イラムは床だがドナはどうしよう…)
(床は無いよなぁ?でも俺も床で寝たらイラムと寝ることになる…)
「イラムさんと私は床で良いですよ。」
「ですよね。」
「えぇー。ベットが良いー!」
「イラムさん、黙って下さい。」
「…はい。」
「ね、寝ずらい。」
(いろんな意味で寝ずらい。)