表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

ゴリラ女と、無職の若者と、働くオッサンと、カニ女。ファンタジーか?

楽しく会話をしながら歩いてきた道のりは、無言だと遠く感じる。

辺りは少し薄暗くなる。

帰路の半ばでドナは荷車を道端に寄せ、草むらに座り込む。

どうしていいか解らないタイチも無言のままドナの横に座る。


「今日は迷惑かけてしまって…ごめんなさい。」


「いや、俺の方こそ…」


「私が最初に話しておくべきでした。」


「・・・」


「仕方ないんです、あの町には人間しか住んでいないし。」

「それでも生きていくには必要だから…」


「・・・」


タイチは何も言えなかった。


ドナは小さくため息をつくと優しい顔でタイチに話しかける。


「なんかお腹空いちゃいましたね!さっき甘い物買って来たんですよ。」


焼き菓子を取り出すと袋を開け半分タイチに差し出す。


「……ありがとう。」


「タイチさん、私は世の中仕方ない事は沢山あると思うんです。」

「努力してもダメな事、不条理な事、抗えない事。」

「でもそれを踏まえた上で、生きて行かなきゃって。」

「タイチさんが怒ってくれた事は凄くうれしいです。」

「でも、やめてください。」


タイチは焼き菓子を握ったままうつむいていた。


「はい!この話はもうお終い!」

「ほら、タイチさん。」

「早くお菓子食べて、行こっ!」


「……うん。」


ドナは先に荷車に戻るとタイチに声をかける。


「タイチさーん!早く行かないと暗くなっちゃいますよ!」

「今日は夕食作りも手伝ってもらいますからねー!」


タイチは軽く手を上げぎこちない笑顔で答える。


家に着きドナと夕食の準備をする。

グラムは何も聞かない。

明らかにタイチだけ暗いまま夜が過ぎる、タイチは部屋に戻りベットに座る。


「仕方ない…か。」


「迷惑掛けた分明日はしっかりやらないとな…」


早朝の作業の為にタイチは早々と部屋の明かりを消し眠りについた。



2月…


店の売り上げは後少しの所で目標には到達しなかった。

誰か一人切らなければならない。

ネガティブな噂はスタッフの耳にも届いていた。


「あの、店長、ちょっとお話が…」


「ん?どしたの?」


「今期目標届かなかった場合は誰かクビになるんですか?」


「誰から聞いたの?」

「そんな事ないよ、スタッフは誰も居なくならないよ!大丈夫心配しないで!」


「良かった~!皆心配してたんです。」


「ははは、、」


(大丈夫、辞めるのは俺だ…)


閉店後、誰もいない店

辞表を書く。


「仕方ないよな…責任を取るのは俺自身だ…」


「うぅ、寒っ!トイレ、トイレ、」


トイレから帰るタイチとスタッフの目が合う。


「あれ?何で居るの?」


「まだお店の明かりが点いていたから差し入れでもと思って…」


心配そうなスタッフの顔で机の辞表を見られた事に気づく。


「大丈夫、仕方ないよ。」


「私、今まで働くって楽しくない事だと思ってました。」

「でも、ここで働いて初めて楽しい事に気づきました、大変な事も有るけど、皆で頑張って、イベントやって、店長も夜遅くまで企画立てて…」


「うん…ありがとう。」

「でも、誰かが責任を取らなきゃね…皆は頑張ってる。それだけはちゃんと解ってる。」


「店長は本当にそれで良いんですか?」


「うん。仕方ないよ。」


「・・・」


すっすらと涙を浮かべ、何か言いたげなままスタッフは帰って行った。


次の日


タイチはため息をつきながら店のカギを握る。


「次の仕事どうしよう?やりたい事もないしなぁ…」


カギを開け、店のポストを確認する。

一通の退職願いが入っていた。


「・・・」


まだ開店していない暗い店。

退職願の封筒を開けた、中には退職願と一通の手紙が入っていた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



朝。

完全に日は上っていない中タイチは起きた。

ドナはもう起きているようだ。


「あっ、タイチさんおはようございます!」


「おはよう、ドナより先に起きようと思ったんだけど…」


「無理しないでくださいね、」


「うん…手伝うよ。」


「ありがとうございます。」


ドナの隣で朝の仕事を手伝う。

ドナは機嫌良さそうに話す、


「そろそろお父さんを起こしてくれませんか?」


「了解、起こしてくるね。」


タイチはグラムを起こしに行く。

その後、ドナと森に入り狩りや食材の調達、罠の確認など次々と仕事をこなす。

夕食を食べ就寝。

何事も無かったの様に充実した毎日が一か月程続いた。


朝の食卓。

グラムは二人に話しかけた。


「そろそろ商品も溜まってきたし、今日は二人で町に行ってきてくれないか?」


タイチは一瞬固まり、ドナの方を向く。

ドナは相変わらず機嫌が良さそうにグロムに答えた。


「そうだねっ、私もそろそろ行こうと思ってたんだ。」

「タイチさん!準備よろしくお願いしますね!」


「う、うん、」


タイチは慣れて来た手つきで台車に物を詰め込む。

ドナも準備を終え出発する。


最初に二人で町に来た時と同じテンションでドナは話しかけてくる。

タイチは少しぎこちなく答えていた。


町に着き荷下ろしの準備をし始める。

ドナはタイチに近づき真剣な顔で話しかける。


「タイチさん、今日は私一人で売りに行きます。」

「お留守番でお願いします。」


「・・・」


「なあ、ドナ?」

「やっぱりやめないか?」


ドナの顔が一気に歪み大声で話す。


「タイチさん!何言ってるんですかぁ?」


「ドナ…やっぱりこれは良くないよ…」

「これは明らかに差別だ、」


「じゃあタイチさんはこの状況をどうにか出来るんですか?」


「いや…それは…」

「でも何とかする!」

「だから!」


「今日中に何とか出来るんですか…?」

「私達は今日買い取ってもらったお金で生きて行くんです!」

「明日の為に、仕方なくても売るんです!」


「仕方なくなんてない!」

「ドナに仕方ない事なんて何も無いんだ!」

「何も諦めてほしくないし!無理な笑顔も見たくない!」

「本当に笑ってるドナが見たい。」


「でもどうやってやるんですか…?」

「私もタイチさんも商人じゃないんですよ…」

「どうやってこんな大量の商品を・・・ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


話の途中でドナの顔が真っ赤になり悲鳴を上げる。

ドナの尻を背後から触る人物が居た。


「よっ!兄ちゃん!久しぶりだな!」


タイチはこの世界で見た事の有る顔に驚きながら話した。


「商人のオッサン!」


「朝っぱらから嬢ちゃんと喧嘩か?」


商人はまだドナを触り続けている。

ドナは商人を力いっぱい投げた。


「気持ち悪い!」


轟音がして商人は荷車と共に大破した。





頭から血を流し正座する商人。

能面で仁王立ちするドナ。

間でドナをなだめるタイチ…


商人は反省した様子で話す、


「ずみまぜんでじだ…」

「ついでぎごごろで…」


まだドナの顔は能面のまま、


「タイチさん、こいつの皮を剥いで売りましょう。」


「ドナさん!駄目だよ!明日から牢獄生活になっちゃうよ」


「じゃあ、身ぐるみ全部…」


「ドナさん!それ盗賊!」


商人はよろけながら話し出す。


「すまんて…」

「さっきから後ろで兄ちゃんの話きいてたもんでな、」

「そんな可哀そうな事になってんなら助けてやろうかと…」


タイチは驚きながら商人に話しかける。


「そう言えばオッサン商人だった!」



「そうだよぉ!オッサンは何気にえらいんだよぉ!」

「俺はエリク・バーデン!」

「スティームサンド商会の代表エリクってもんだ!」


ドナは慌てながらエリクに話しかけた。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「あのサンド商会の方なんですかぁ!!」


ピンとこないタイチはドナに話しかける。


「ドナさん…何ですかそれ?」


「タイチさん…どんだけ知らないんですか…」

「西側の地方で有名な商会ですよ!大手です!大手商会!」


「えっ!じゃあ…」


「そうです!めちゃくちゃお金持ちです!」

「そもそもタイチさんは何でそんな人と知り合いなんですか!?」


「えっ…キャンプやってて腹減ったから絡んだ…」



「……タイチさん。」


「だってさドナさん、このオッサンがそんな凄い人だなんて知らないし…」


「兄ちゃん、嬢ちゃん?」

「全部聞こえてるよ…」

「まあ、大変そうなのはわかったが商売の話が気になるな。」


タイチはエリクにドナの事、買取の事を話した。

エリクはニヤリと笑うと「あの店」に入った。


「よぉ!じゃまするぜぇ!」


「これはこれはサンド商会さん、いつもお世話になっております。」


「急でわりぃな!ちょっと余りもんが有ってな。」


「ありがとうございます!何でも買い取らせていただきます!」


「いつもどおりで頼むぜぇ。」


「もちろん全て高価買取でお取引させて頂きます。それで物はどちらに?」


「ああ、こっちだ。」


「では拝見いたします。」


店から店主とエリクが出てくる。

タイチは店主と目が合う、明らかに店主は嫌そうな顔でこちらを見る。

エリクは笑いながらドナの荷車を指をさす。


「それだ!荷車ごと全部なw」


「こっ!これですか・・・」


「ああ、これだ!その壊れた荷車も全部高価で頼むぞ!」


「そんなぁ・・・」


店主は先程までの精気は無く黙々と査定をしている。


「お待たせしましたぁ・・・」


「ん?どれどれ?」

「お~!やはり高価買取は誠であったなぁ、これでいい!」


「では、サインを。。。」


「ん~、店主?いつものおまけはどこに行ったぁ?」


「ヒィ!」


エリクはパンパンに高価の入った袋を担ぐと満面の笑みで言った。


「あの二人はウチの商会で雇った。」

「次からも高価買取でよろしく頼むぜぃ!」


「はい、、、宜しくお願い致します。」


エリクは二人の元に戻ると袋を差し出す。


「兄ちゃん嬢ちゃん、ほらよぉ!」


いつもの稼ぎの10倍はあろうかと思われる硬貨が二人の前に置かれる。

二人は向き合い笑い合う。


「タイチさん…」


「ドナさん…」


「お砂糖の付いた焼き菓子が食べられますねぇ~!」


「新しい荷車も帰るよ~!」


「ありがとうオッサン!」

「ありがとうございます。痴か…じゃなくてエリクさん!」


「おうょ!」

「今痴漢て言おうとした??」

「まぁいいやぁ、仕事も片付いたしメシにすんべぇ!」


「うん!」

「はい!」


三人は屋台でパンチャを頼み席に着く。


「嬢ちゃん通だねぇ!」

「この町に来たらやっぱりこのパンチャを食わなきゃあよ!」


「エリクさんもさすがです!」


「このソースをたぁ~ぷり!かけてなぁ!」


「そうそう!」


二人揃ってあっという間に食べきっていた。

二人の事情など、談笑しつつタイチも食べ終わりドナが話し出す。


「自己紹介がまだでしたね、」

「私はドナ。ドナ・マクトです。」


「あっ!そう言えばオッサンに名前いってなかった!」


「……タイチさん。」


「俺はタイチ。ヒョウドウ・タイチ!」


「おぅ!じゃあ嬢ちゃんはドナちゃんな!」

「おめぇは…ター坊だなぁ!」


「はい、よろしくお願いします!」


「た、ター坊…」

(親戚にも呼ばれたことねぇ・・・・・・)


「自己紹介も終わった所でぇ、本題に入るべぇ。」

「ウチも少しは名の知れた商会だぁ、他の都市にも小さい店をいくつも出してる。」

「そしてこの町にも店を出すつもりで来てたんだ。」

「場所も決まり、さぁてぇ契約だぁ何だぁと順調に進んで帰る前日にター坊と会った、」

「まぁ、面倒くせぇ話は置いといて早ぇ話二人ともウチの商会に入れやぁ。」


「えっ?」

「はい?」


「だ~から、新しくこっちの町で商売すんのに店員が必要なんだぁよ!」

「店任すから売り上げ上げろやぁ!」


「そんな、急な…」

「私お店の人なんてやった事ないですよ!」


「でぇじょうぶだよ!こっちからも応援で一人出すからよ!」

「最初はそいつにイロハを学べば良い!」

「ター坊はそう言うの少しかじった事あんだろ?」

「な~に、最初っから儲けを期待なんてしてねぇよ!」

「楽しくやんなっw」


「タイチさんどうしましょう?」

「私お父さんの事もあるし…」


「俺は・・・」

「やります。やらせて下さい。」


「そうか!じゃ、ター坊は決まりな!」

「ドナちゃんはどうするか・・・」


「オッサン、話し途中で悪いんだけど俺はこの町で自立したい。」

「居候のまま暮らすわけにもいかない。でだ、先立つものが必要だ、」


「なんだよぉ!金か?」

「せっかちだなぁ、おい。」

「心配すんなぁ!200万出すぞ!」


「年200万か、、、」

(多分この町で生活するとなるとギリだな。)


「タイチさん凄いじゃないですか!やるべきです!」


「ター坊なんか勘違いしてねぇか?」


「???」


「半期200万だ。」


「え…?」

「年400万…?」


「あたりめぇだろぉ?お前が店の(おさ)だぜぇ?」

「しっかりやんな!」


「オッサン!お願いします!」

(やった!普通に生活できる!)


「ただし、店の売り上げが一定以上マイナスな場合は報酬も減らすぜ!」


「は、はい。。。」


「後、半期に一回、目標以上売り上げが有った場合は別に報奨金を出すからよぉ、頑張りな!」


「よろしくお願いします。」


「後はドナちゃんだ、ドナちゃんは通いでどうだぁ?」

「最初は二日に一回で良い、通えないかぁ?」

「ちなみに一日でこれだぁ。」


エリクはニヤリとすると片手を1ともう片手を2にした。


「1万2000!」


ドナは震えながらにんまりした。


「やります!やらせて下さい!」

「お父さんは説得します!」


「お~し!じゃ、決まりだなぁ!」

「それじゃ店の案内だ!」


近くに有る空き店舗が店のようだ、そこそこ広く二階もある。


「俺がしばらくいる間に他の都市の店から商品が運ばれる、陳列、開店準備はター坊も手伝え!」

「二階はター坊の部屋だ好きに使ってくれぃ!」


何も陳列していない棚や店内を見回すタイチ、一瞬懐かしく思える。


「新店かぁ、懐かしいなぁ。」


「タイチさん、頑張って下さいね!」


「ありがとう!」


「俺もちょくちょく見に来っからよぉ!準備よろしくなぁ!」

「後、明日辺りに物資と応援が来るからよぉ、そいつと仲良くなぁ。」


「オッサン、どんな人が来んの?」


「ああ、何つうか、アレだ、力強い奴だな…」


「??」

(何だ?濁すな、オッサン・・・)

(ゴリラだな、ゴリゴリのパワー系オッサンが来るな。)


「そんじゃ、俺は宿に戻っからよぉ、後は頼んだぁ。」


「ほーい。」

「ありがとうございます。」


「タイチさん、大金が手に入ったし必要な物買いに行きませんか?」


「そうだね、ちゃんと報酬貰ったらちゃんと返すよ。」


「大丈夫です、このお金も元はと言えばタイチさんが居たからこそ貰えた訳ですから。」


「ありがとう、じゃあ砂糖のかかった焼き菓子も買いに行こう!」


「はい!行きましょ行きましょ!」


口いっぱいに焼き菓子を頬張っているドナと町を歩き買い物を済ませる。

まだドナのポケットには沢山の菓子が詰め込まれている。


(なんだろ、姪っ子と町ブラしているような感覚だな…)

(見ている誰が解るだろう、この子俺より年上なんだよなぁ…)


買い物を終え二階の部屋に運ぶ。

質素ながら生活が始められる部屋になった。


「タイチさんこんなもんでしょうかねぇ?」


「ドナさん、良いと思いますよ~」


二人は買ってきたジュースをコップに注ぎ乾杯する。

ちょっとした新居引っ越しパーティーに不安と希望を混じらせてタイチは笑った。


「そろそろ私帰りますね。」


「そっか、何かさみしくなるな。」


「大丈夫ですよ、明日も手伝いに来ます。」


「本当に?でも遠いのに悪いよ。」


「あ、大丈夫です。タイチさんが居なければ三倍速で来れますからw」


「あっ。。そうなのね。。。」

(足も強化してるのね…足手まといですまん。)



町の門までドナを送り、新居に戻る。


途中屋台で買ったパンチャを食べながら明日からの予定を書き始める。

(開店は一か月後、目玉商材が欲しいな。)

(それについで買い出来る商材、レジ前商材・・・)

(待てよ、でもこの世界で何が売れんだ?)

(落ち着こう、まずは他店リサーチ、他にも・・・)





朝。

鳥のさえずりはどこの世界も同じだ、ドアの開く音、ドナだろうか?

階段を上る足音、二階の窓が開けられる。

寝ていたタイチに日の光が当たる。


「ん、あ、ドナさん、おはよう」


タイチが目をこすりながらドナの方を向く。


「あんた誰ぇぇぇぇぇ!!!」


目の前にはドナとは比べ物にならない程の膨らみを持った女性が立っていた。


「あっ、おはよ。」


そして左腕は三本の大きなクローの付いた立派な腕が付いていた。







「また変なのキターーーーーー!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ