お客様、誠に申し訳ありません。リア充はお買取りできません。
本作を初めて目を通して下さった方、再度読んで頂いた方心より感謝いたします!
朝。
どこの世界でも平和な朝は清々しい。
ベットでの睡眠はとても良いものだ。
軽く伸びをして起きる。
ドアを開けるとドナが忙しく朝食の準備をしている。
「タイチさんおはようございますっ!」
「ドナおはよー」
「グラムはもう仕事を始めているらしい。」
「もう少しで準備が終わりますから、お父さんを呼んできてください。」
「グラムさんは小屋かい?」
「はーい!お願いします。」
タイチは小屋へ向かう。
小屋の前ではグラムが薪を割っていた。
「グラムさん。おはようございます!」
「おはよう!昨日はよく眠れたかい?」
「はい!おかげさまで。」
「朝食の準備ができるそうです!」
「わかった、顔を洗ってから行こうか?」
二人は家の井戸で体を拭き家に向かう。
食卓には質素ながら美味しそうな料理が並べられていた。
「いただきます!」
皆と食べる食事は美味しい。
親子の優しさか、時間も掛からず馴染めた。
「タイチ君、今日はドナと町に行きなさい。」
「そろそろ溜まった商品を売りに行かないとな」
グラムの提案にドナは大喜びする。
続けてグラムが、
「店に商品を卸して残ったお金で、タイチ君の必要な物を買いなさい。」
「タイチさん、色々お店を回らなくっちゃね!」
「何から何まで、本当にお世話になります。」
「大丈夫!ちゃんと仕事はして貰うからね。」
にこやかなクラムは食事を終え小屋に戻る。
ドナとタイチは食事の片づけを始める。
「タイチさん仕事が終わったら、私の部屋に来てもらえます?」
「了解、食器を片したら、すぐに行くよ。」
ドナは洗い物を終え自分の部屋に向かった。
「良し!終わった。」
タイチは食器を拭き終え戸棚にしまい、ドナの部屋に向かう。
「なんだろう?何か仕事でもあるのかな?」
ドナの部屋のドアを開ける。
「ドナ~終わったよ~」
目の前には着替え中のドナ。
「あ、、、」
瞬時にドアを閉じる。
一瞬だが下着だけのドナの姿をしっかり目に焼き付けた。
(まずい…)
(念願のラッキースケベだけどまずい…)
(でも、これは一生物の思い出にしよう!)
タイチは全てのモノに感謝しつつも、気まずそうにドナに声をかける。
「ド、ドナさん…」
「は、入ってもよろしいでしょうか?」
まるでグラムの様なドナの声が聞こえる。
「どうぞ。。。」
ドアを開きながらドナに平謝りする。
「先ほどは大変失礼いたしました!以後、気を付けます!」
頭を上げたタイチの前に能面の様に無表情なドナが立っていた。
全てを無に還す呪文のような口調で、
「タイチ、今度ノックしないで入ったら、解るよね?」
涙目で繰り返し謝る
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
いつもの笑顔に戻ったドナが、洋服を取り出しタイチに差し出す。
「お父さんのお古だけど、タイチのサイズに直しておいたよ。」
「しばらくはこれで我慢して下さいね。」
昨晩話した後、ドナはタイチの為に服の直し作業をしていた。
思わぬドナからのプレゼントに興奮し、
「ありがとうっ!一生着ます!」
ドナは微笑むと機嫌良さそうに、
「今日はいっぱい荷物が有りますからね!早く着替えて出発しましょう!」
「うんっ!」
タイチは早速、貰った衣装に着替えドナの待っている庭に急いだ。
庭にはかなり大きな荷車が用意されていた、荷台にはぎっしりと商品が積まれている。
「でっか!」
「ドナはいつも一人でこんな物を引いて町まで行っているのか…」
「昨日は夜更けまでドナも頑張ってくれたんだ、ここは俺が!」
荷車を押そうとタイチは一人、力んだ。
「くっはっ!」
(重い!ビクともしない!)
(こんな物ドナはいつも一人で押しているのか?)
ドナは近づいて来てタイチに話しかける。
「タイチさんは押さなくて大丈夫ですよ、私が押しますよ!」
ドナは持ち手を軽く持つと、簡単に押し始めた。
「さぁ!行きますよ~」
タイチは遅れて後を追う
「ゴリラかよ…」
「何か言いました~?」
「いいえ!何にも言ってないよ~!」
鼻歌交じりで快調に荷車を押すドナ。
タイチを横目で見ながら話しかける。
「タイチさん?力関係のスキルは無いとして何のスキルを選ばれたんですか?」
「スキル?資格とかかい?特に何にも取って無いけど。」
「ええええ~!タイチさん、スキル選択していないんですか?」
「ナンデスカ?ソレ?」
「今まで一体どうやって生きてこれたんですか・・・?」
「ごめん。。。平凡に生きてきました…」
ドナは慌てて励ます。
「ご、ごめんなさい、タイチさん、大丈夫ですよ、今日町でスキル測定とスキル選択をしましょう!」
タイチは落ち込みながらドナについて行く。
「ゴメンね、スゲー田舎者で…」
苦笑いしたドナが続ける。
「一応簡単に説明しますね。」
「万物は生まれた時に2種類のマナを持って生まれてきます、」
「生後間もなく鑑定士によってマナの大きさ、マナの特徴を測定してもらいます。」
「心身の成長や行動、思いによってマナは独自の成長を遂げます。」
「ある程度成長した所でスキル選択をします。」
「選択したスキルにより、肉体、精神、マナ自体、その他、色々な部分に祝福が付与されます。」
「但し、スキルを使っている間は常にをマナを消費します。」
「一つ目のマナは作用場所の形成、もう一つはそれを使うための力です。」
「私は体力、筋力、俊敏さ、等に祝福を受けています。」
タイチは軽々と荷車を押すドナが理解できた。
「どうりで…」
(良かった…俺が変な気を起こしていたら、、、考えただけでゾッとする…)
笑顔のままドナが話を続ける。
「今からでも遅くないですよ、私も鑑定してもらったのは随分後の事なので、」
「もしかすると、今まで貯金した分タイチさんの中にもすっごいマナが眠っているかもしれませんよ!!」
「うおっ!マジか!わくわくする!」
「早く仕事終わらせて、鑑定してもらいましょう!」
少し早足で町に向かう。
二人とも足取りは軽かった。
程なくして二人は町に着く。
慣れた様子のドナは荷物を下ろし、商品を持ち込む店ごとに仕分ける。
「タイチさんは初めてなので私に付いて来てもらえれば大丈夫です。」
「荷物ぐらいは持つよ…」
「ありがとう、タイチさん!」
タイチは出来るだけ多く荷物を持とうとするがドナの一割ぐらいしか持てない…
「大丈夫ですか?」
「はは、、、大丈夫、大丈夫…」
最初の店、ドナはタイチの荷物を片手でつかみ店主の前に置く。
ドナは笑顔で店主に話しかける。
「こんにちは!」
「これの買取お願いします!」
店主も笑顔で答える。
「おっ!ドナちゃん!」
「久しぶり!」
「今日もすごい量だねぇ、今数えるからちょっと待ってね!」
ドナは丁寧にお辞儀して、
「お願いします!」
店主は木箱を開ける、中身は角の生えたウサギの角とその毛皮。
しかも、かなりの量が入っている。
伝票らしきものに個数や状態を店主が記載している。
店主のスキルなのだろう、物凄い速さで仕分け、計算を終わらす。
店主がドナを呼ぶ。
「ドナちゃん!お待たせ!」
「悪いけどジャッカロープの角は一本500ギリンだ、毛皮の方は1枚1000ギリン。」
「今日はもう大量に入荷しちまったからこれ以上は無理だ。」
ドナは笑顔のまま、
「その金額で大丈夫です!いつもありがとうございます!」
店主も笑顔で、
「じゃあ全部で26.500ギリンね、ドナちゃん可愛いからおまけして27.000ギリンだ!」
「やった!おじさん、いつもありがとうございます!」
ドナは店主と少し談笑をして硬貨と伝票をもらい、再度お辞儀する。
去り際店主に大きく手を振り
「またお願いします!」
空いた左手でタイチを掴みグイグイと次の店に引っ張る。
「タイチさん、お待たせしました、次のお店に行きましょう!」
他の店を何カ所も周り商品を買い取ってもらう。
持ってきた大量の商品を全て売り切り、タイチが今後の生活で必要そうな物を買いに回る。
一通り買い物を済ませ、一息ついた。
「タイチさん、お腹減りませんか?」
「今日は少し高く売れたので美味しいもの食べましょう!」
お昼時の屋台は賑わい、空腹を刺激する匂いが漂っている。
ドナに勧められるままに、屋台で注文して席に着く。
追加でかけるソース的な物をドナが屋台に取りに行く。
一人になったタイチは今日の情報を整理する。
(あのウサギはジャッカロープって言うのか、)
(貨幣の呼び方は円ではなくギリン、)
(100ギリンで120円ぐらいの価値観か。)
「この世界ではスキルとか…マナとか…」
考えさえぎるようにドナが帰ってくる。
「やっぱりパンチャにはこのソースをかけないと駄目ですよねぇ~」
「パンチャ?」
初めて見聞きした食べ物に戸惑い気味のタイチにドナは驚いた、
「パンチャ食べたこと無いんですかぁぁぁぁ???」
タイチは無言で頷く、更に驚くドナが、
「どんだけ田舎から来たんですかっ?」
「こんな美味しい物を食べた事無いなんて可哀そう…」
「さぁ!いっぱい食べて下さい!」
ドナは器ごとタイチの方に差し出す。
「わかったから!食べます!食べまーす!」
タイチは慌てて食べる。
「ウマっ!」
「でしょwwwでしょwww」
ドナがにんまりとする。
昼食を食べ終わり一息つくとドナが険しい顔になる。
驚くタイチにゆっくりと話しかける。
「タイチさん…」
「この後は解っていますね…?」
ㇵッ!となり真剣な表情でドナを見て、
「スキルなんちゃらですねっ…キリッ!」
再度タイチの前に能面のドナが現れ、
「小僧、何を言っている?」
「スイーツだろう。」
「今まで何を学んできた?」
「女と食事をした事が無いのか?」
「しかも、スキル測定とスキル選択だ。」
怯えたタイチは下を向き小声で、
「別に…食事したことない訳じゃぁ…無いけどさぁ…」
「皆が皆…スイーツ食べる訳でも…」
いつものドナの声で、
「それじゃぁ!」
「早くいきましょう!」
顔を上げたタイチの目の前には、いつものドナが居た。
菓子店はいくつか店舗が有り、値段も様々。
店を周回して、悩み、悩み抜く。
ザラメの付いた高級焼き菓子を食い入るように見つめるドナ。
だが、涙をのんで一番安い焼き菓子を購入する…
町の中心にある噴水は皆の憩いの場になっている。
噴水近くの階段に腰を掛けドナは菓子屋の包み紙を大事に開封する。
食べる前に鼻を近づけ焼き菓子の匂いを吸い込む。
「はぁぁぁぁぁ。。。」
何かイケない薬でもやっているんではないか?と思うぐらいドナの顔は溶けている。
そして一口。
「はうぁぁぁぁぁぁぁ。。。」
足をパタパタさせながら幸せに浸っている。
苦笑いしているタイチに焼き菓子を向け、
「はいっ!」
ドナが、一口食べさせてくれる。
一口食べたタイチは遅れて感情がついてくる。
「普通に食べちまったが、コレは。。。」
「アーンだ!!」
「伝説のアーンだ!!」
「今までは非リア充を抹殺するための非人道兵器だと思っていたが…」
「最高です。」
気づくとドナは焼き菓子を食べ終わりこちらを見ている。
「大丈夫?」
「不味かった?」
タイチはドナの方を向き、真剣な顔で、
「一口で二度美味しかったです。」
苦笑いのドナは、
「なんか解らないけど、よかったね…」
ドナは立ち上がり、服を払うと、
「そろそろスキル測定に行きましょう!」
「なんかドキドキしますねw」
幸福感で忘れていたタイチは慌てて思い出す。
「そうだった、スキルなんたらだっ!」
膨れたドナは、
「もう、いいです。。。」
「早く行きましょう。。。」
鑑定所は意外と近くに建っていた。
受付でドナが、
「すみません、今日は予約せずに来てしまったんですが大丈夫でしょうか?」
「そうです、初めての鑑定で…年は26才です。」
「わかりました、ありがとうございます。」
待合室で座っているタイチの所にドナが戻ってくる。
「少し待てば今日診てくれるそうです!」
「良かったですね!」
目をキラキラさせたタイチははしゃいでドナに話しかける。
「どうしよう!なんか俺の隠れていた能力が開化したりして!」
「うんうんwww」
「ドナよりも強くなっちゃったりして!」
「うんうんwww」
「パワー系かな?魔法系かな?」
「もしかしたら特殊な系統かもしれませんよ!」
今度はタイチが、
「うんうんwww」
そうこうしている内に受付に呼ばれる。
タイチはドナに付き添われ鑑定室に入る。
女医の様な恰好の鑑定士が話しかける。
「ヒョウドウ・タイチさんですね?」
「はいっ!お願いします!」
鑑定士は全く興味なさそうに続ける。
「初めての鑑定ですね、上着を脱いで席に座って下さい。」
「それでは力を抜いて、楽にしてください。」
鑑定士はタイチの胸に手をかざし目をつぶる。
タイチの胸元が暖かい光で包まれる。
鑑定士は少し嫌な顔をして、
「初めてなのは解りますが、緊張しないで。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「無い。」
タイチは、
「?」
鑑定士は申し訳なさそうな顔をしながら話す。
「申し訳ないのだけど、鑑定結果は、」
「無」
「です。」
「私も初めての事で状況がよく呑み込めません。」
「残念ですが。。。」
となりで見ていたドナが割り込み、
「そんなっ!」
「ジャッカロープだってスキル使える子いるし、」
「生まれたばかりの赤ちゃんだって…」
「あ。。。。」
ドナの背筋が凍る。
震えながらタイチの方を見る。
タイチは泣くのを必死で堪え座っている。
すかさず、ドナと鑑定士がフォローに入る。
「タイチさん!大丈夫ですよ!きっと何かの間違えですよ!」
「鑑定は確実だけど、特殊な何かよ!」
「まだ、マナが開化してないだけですよ!きっと!」
「アナタの体にマナなんてひとっ欠片も無かったけど、大丈夫!生きてるわ!」
「そうですよ!タイチさん!生きてます!」
二人揃って、
「生きろっ!」
タイチの頬を一筋の涙が流れる。
タイチとドナは鑑定所を出る。
ドナはチラチラとタイチの様子を気にしている。
「タイチさん焼き菓子食べましょ?」
「いらない。。。」
「タイチさん、飴舐めます?買いますよ!」
「結構です。。。」
「ほ~ら、タイチさん!勇者人形ですよ~プレゼントしちゃいますよ~」
「。。。」
「とりあえず座りましょう。。。」
二人腰を下ろす。
最初に商品を持って来た店まで来てしまった。
ドナだけ立ち上がるとタイチに顔を近づけ笑顔で、
「何か甘い物、買って来ますねっ!」
一人残されたタイチ、
「何やってんだ俺、元々の世界でも能力なんて何もなかっただろう。」
「転移した位でどうにかなる訳ない。」
「ドナにグラムさん、転移してから十分に俺は幸せだ。」
「帰ってきたらドナに謝ろう。」
ドナの帰りを待っているタイチに、ふと店主と商人の会話が耳に入る。
「いつもありがとうございます。」
「ジャッカロープの素材はいくら有っても足りないぐらいで、」
「いつも高値で買い取りさせて頂いております。」
商人は少し笑うと、
「少数しか持ち込めず、すまんなぁ。」
店主は更に腰を低くして、
「いえいえ、貴重なジャッカロープ故に、一点からでもお待ちしております。」
「角は一本7.000、毛皮の方は1枚10.000ギリンにて買取させて頂きます。」
「いつもおいで下さりますので、ここはおまけをさせて頂いて、」
「全部で27.000ギリンの所、32.000ギリンでいかがでしょうか?」
商人は髭を弄りながら、
「よし、乗った、それで良い。」
店主は丁寧に頭を下げ、硬貨と伝票を差し出す。
「それでは、またのお越しをお待ち申し上げております。」
商人が出ていくと同時にタイチが店主の元に詰め寄る。
「おい!おっさん!」
「ドナの時は角一本500、毛皮は1枚1000ギリンって話だったじゃねーか!」
「ぼったくりにも程がある!」
店主は居直るような顔で話しかける。
「さっき一緒に居たドナの連れか、その感じだとドナからは何も聞いていないらしいな。」
「ドナも納得してウチに置いてっているんだ君には関係の無い話だよ。」
怒りを抑えられないタイチは反論する。
「ドナが納得していようともあの価格はおかしい!」
「さっきの商品は返してくれ!他の所で売る!」
店主は一笑いして、話し出す。
「本当に何も知らないんだな。」
「この町でドナから物を買う人間なんて限られている、」
「ましてや素材関係など、ウチでしか買い取らんよ。」
「返して欲しければ、返してやろう、ただ困るのはドナだろうけどな。」
「町の外でゴブリンと暮らす娘の持って来た物など、薄気味が悪い。」
タイチが店主に掴みかかろうとした瞬間、
強烈な力で腕を押さえられる。
うつむいたドナがタイチの腕を掴んでいる。
「申し訳ありません。」
ドナは深々と頭を下げる。
タイチはまだ店主に食って掛かろうとする。
それを遮るようにもう一度、
「本当に申し訳ありませんでした。」
タイチは力なくその場に立ち尽くしている。
店主は勝ち誇ったように、ドナに声をかける。
「わかれば良いんだ。」
「次もまたよろしく頼むよ。」
ドナはうつむいたまま、
「はい、またよろしくお願いします。。。」
タイチを掴んだまま、再度頭を下げ、ドナは店を出る。
会話も無く購入した荷物を積み、町を出発する。
家までの道のりは長い。
最後までお読み頂き誠にありがとうございます。