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異世界で初めての朝は、二日酔い気味のおっさんと共に…

もしよろしければお読みください!

ハッと目を開け、飛び起きる。


「やべっ!開店準備だ!」


起そうと体を揺すっていた商人が


「何言ってんんだぁ?」


明らかに女性スタッフではない男の声に顔を向ける。


「おっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」

(なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…)


現実に引き戻され朝から落ち込む。


「そうだよね…戻れるわけないよねぇ…」


商人は起きた事を確認すると、テントから出ていく。


テントを開け外に出ると朝食の準備ができていた。

手を上げる商人の横に座り昨日の残り物と水の入ったコップを渡される。


「昨日の残り物だが食ってけやぁ」

「食わねぇと仕事になんねぇぞ!」


普段朝なんて何も食べないのだが、必死に残り物をたいらげる。


「あの…もう少し食べてもいいですか?」


「・・・仕方ねぇな・・・」


少々引き気味の商人は笑いながら残り物をよそってくれた。

食事も終わり皆が一斉にキャンプの解体にかかる。


大小のテントを分解し慣れた手つきでまとめる。

小物を袋にまとめ、馬車に放り込む。

肉体労働は小1時間ほどで終了。


「ふぃ~休憩すんべぇ~」


商人達は地べたに腰を下ろし各々休憩している。

商人の横に座り話しかける。


「お疲れ様です、もう出発ですか?」


「おぅ!休憩が終わったら直ぐに出る。」


「昨日の約束は」


「でぇ丈夫だよ!ちゃんと覚えてるよ!」


「ありがとうございます。」


「よぉく考えれば、図々しい兄ちゃんだが気に入った、」


「なんか困ってんだろ、おまけしてやるよ!」


「おお~!ありがとうございます!」


「まっ!代金はちゃんと貰うけどな!」


商人は500円玉を取り出し嬉しそうに見ている。


「500円wwww」


少し後ろめたさはあったものの、小銭のありがたさに感謝する。

100円、10円玉、5円、1円…

残りの小銭を渡すと商人は腰の革袋に大事そうにしまう。

腰を上げ商人と共に馬車の横に向かう


「こんなもんで良いかぁ?」


馬車の横にはまだ使えそうな材料などが置いてある


「ありがとうございます、助かります。」


「あとこれ、おまけな!」


商人は短剣を差し出した。


「ちょwww本当に良いんですかぁ!」


初めてのファンタジー要素の入ったアイテムに興奮する。

思わぬ反応に少し困り気味の商人…


「どうせ売ったって二束三文のボロ剣だけどな…」

「まあ良いや、後のゴミは燃やすなりなんなり好きにすれば良いさ」


商人の話を聞きつつも短剣を腰に装備する。

輝いた目で商人の方を向き


「本当にありがとうございました!」

「大事に使います!!」


他の商人達は馬車に乗り込んでおり、出発する準備が整っていた。


「あんまり長くなるといけねぇ、」

「兄ちゃんもしっかりやれよぉ!」

「じゃあな!」


こちらの返事を聞く前に馬車に飛び乗ると、馬車は出発する。

馬車の荷台に乗った商人に大きく手を振る。


馬車が見えなくなると、腰に装備した小さいながらずっしりと重い短剣を抜いてみる。


「おおっwww」


短剣を抜き目線まで上げ凝視する


「おお・・・」


「・・・・・・・・・おお?」


「刃こぼれ・錆・傷多数有り・・・この商品のお問い合わせは無一文の店長までお気軽に・・・」


ボロい・・・かなりボロい・・・。

その場に座り込み短剣をプラプラと力なく振る。


「初めての入手アイテムがジャンク品…」

(無いよりかましか~)

(1000円以下だもんなぁ…)

(良~く見るとグリップも傷んでる…)


肩を落とすが、他にも置いて行ってくれた物が有るのでそちらを確認する。


「ベコベコになった小鍋」


「さっき俺が使った木の食器…」


「背負える革袋…」


「ボロボロのツギハギマント…」


「汚れた上着3枚…」


「大きな布切れ1枚…」


「ロープ・端切れ…」


まさにジャンク品、売れもしない物、ゴミ…

革袋にしまい込みマントを着てみる。


「くっさ!」

「オッサン臭だ!」

「これは紛れもなく高濃度のオッサン臭だ!」

「これは740円程で買った事になるが安いのか?高いのか?」

(解らん…)


だが、匂いとは別に貧乏旅人のような佇まいに少しは町に馴染めるのではないかと安堵する。


「まだ午前中ぐらいだろう。」

「何とか今日中にこの匂いを取らなくては…」


思い返せば商人のオッサンは小奇麗な恰好だったな…と思い返し、これがゴミである事を確信した。


この地方は水が豊かだと思う。少なくともこの町の近辺は川が有り繁栄している。

門からも川が見える。


「洗濯しよう。」


川辺に行き装備、交換した物を洗い始める。

凄まじい汚れに川を汚染しつつもある程度綺麗になる。


「洗濯機ってホント神だったんだね…」


手洗いの重労働を初めて知った。

一度洗った上着を絞り匂いを嗅ぐ。


「オッサン、」

(さようなら…)


布本来の匂いと共に商人への別れを告げる。


「念のためもう1回オッサンさようならっと!」


勢いよく川に上着を漬ける。

水は相変わらず綺麗に透き通り淡いピンク色である。

???


「・・・」


先ほどまで透明な水の色だった川の水は赤みがかったピンク色になり、

一層その赤が濃くなっていく。

白くなりかけた上着も薄っすらと赤みがかる。

その色の原因に視線を向けると一人の少女が角の生えたウサギをさばき洗っている。

田舎の町娘のような質素な服装の15.6歳ぐらいに見える少女は真剣に仕事をしている。


「おいおい、せっかくおっさんの臭いと汚れにグッバイしてるのにウェルカム鮮血ですか…」

「こちらに気づいて無いし、話しかけて悲鳴を上げられても厄介だ。」


水面から洗濯物を引き出し軽く絞る。


「移動して洗いなおそう。」


荷物を片付け始めていると不意に後ろから話しかけられる。


「あの~もしかして洗濯してました?」


振り向くと先ほどの少女が話しかけていた。


「すみません、私全く気付いていなくて…」

「あの、それダメにしちゃいましたかね??」


薄っすらと色のついてしまった上着を見ている。


「ああコレね…」

「大丈夫、また洗うから」

「ところでなんで鼻を押さえているの?」


先ほどからずっと鼻緒押さえている少女が気になる。


「なんかさっきから異臭が…」


少女は明らかに洗濯物を見ている。


「ごめんなさいwww」

「確実に俺が連れて来たおっさん臭です、それwww」


と思いつつも、平謝りをする。


「ごめんね、向こうで洗うよ」


逃げるように荷物をかき集め、移動しようすると少女が、


「これ使います?」

「私も血が付いた物を洗う時に使ってるんですよ。」


少女は壺に入った粉上のものを差し出した。


「うえっ!ありがとう!」


少し上ずった声が出てしまう。

異世界で初めて優しく接してくれた少女に動揺する。


受け取った粉をかけ、擦り洗いをすると洗濯物はみるみる綺麗になる。

洗濯ものを絞り、匂いを嗅いでみる。


「オッサン消えました!」


全ての洗濯物は綺麗になり、落ちていた枝に掛け乾燥させる。

洗濯に夢中になっていた為、少女の姿を探す。


「こっちです!」


少女もウサギの解体を終え焚火をしている。

焚火には肉が括り付けられ焼かれてた。


朝食べたきりの腹にはキツイ香りに、肉を凝視してしまった。


「こっちに来て一緒に食べませんか?」


更に少女の優しさに涙が出そうになる。


「良いのっ!」


すぐさま駆け寄り肉に食らいつく。


「おなか減っていたんですねっ」


少女は笑みを浮かべ、自分も小さな口で肉を頬張る。


「おふっ!」


肉を詰まらせ咳き込む。


「慌てないでください、水も有りますよ!」


少女は自分の飲んでいたコップを差し出し背中を軽く叩いてくれた。


「嘘つきましたwww昨日の夜の肉より、この肉が人生で一番美味いっ!!」


感動しながら水を飲み干すと一息つく。


「ふぅ~落ち着いた。」

「本っ当っに!ありがとう!」

「こっちに来たばかりでこんなに良くしてもらって、本当に感謝です。」


少女は微笑むと喋りだした。


「お兄さんは旅人さんですか?」

「あまり見かけない服装だったから声かけちゃいました。」


屈託の無い笑顔に、癒されつつ転移の事は濁し、説明した。

少女の家は町では無く、近くの森の中に有り、父と二人暮らし、生まれてからあまり遠くに行ったことは無いらしい。


町に出向いた時は旅人の話を聞いたりと、外の世界に憧れを持っているらしい。


「お兄さん、今日は町に泊まるんですか?」


少女の質問に凍り付く。

無一文で旅人な筈がない。

無職家無しの男が少女と楽しくランチなど犯罪でしかない。

焦った俺は突っ込み処満載の嘘をか細い声で言う。


「この町に来たのは良かったんだけど・・・」

「その・・・荷物とか全部取られちゃって・・・」

「さっき洗濯してた物とそこの革袋が持ち物全部です。」


笑顔の少女は神妙な面持ちになり、


「あの、お金とかは・・・」


こちらも捨て犬のような瞳で、


「お礼をしたかったんだけど…」

「ゴメン。一文無しです。」


軽蔑、もしくはドン引きで帰られると思ったが、少女は捨て犬を拾うかのように優しい声で、


「可哀そう、今晩泊まるところも無いんですか?」


まさに、地獄に一本のクモの糸!こちらも全身全霊で捨て犬モード。

黙ったまま頷く。


「もし良かったら家に泊まりませんか?」

「お金はいりません。」


少女の言葉に全身を震わせる。


(キターーーーーーーwwwwwwww)

(キタよこれ!)

(これこそ異世界の醍醐味!)

(少女の家にお泊り!)

(元の世界でもこんな事なかったよwwww)

「転移、悪くないかも!」


少し涙を浮かべながら嬉しそうにしていると、


「暗くならないうちに早く帰りましょう。」

「家の仕事がまだ有るのでお兄さんも手伝って下さいね!」


笑顔の少女に返事を返した。


「はいっ!頑張ります!!」


慌て気味に荷物を袋に詰め込み出発の準備をする。

少女も準備を終え家のある森へと歩き出す。


他愛もない会話をしながら森を歩く。


「ところで、お父さんは俺が泊っても大丈夫なの?」

「怒ったりしない?」


捨て犬の末路、親キャンセルをくらう前に防衛線を張る。


「大丈夫ですよ!」

「困っている人が居たら助けるのは当たり前です。」

「お父さんがいつも言っているので。」


自身に満ち溢れた表情で少女は力強く歩く。

そんな事を言われても、自分をホイホイと自宅まで連れていく少女を不安そうに見る。


「信用してないですねぇ~」


頬を膨らしこちらを見る。

こちらが本気を出して襲えば抵抗すら出来ないであろう華奢な体でそんな事を言われても、

全く信用できない。


「ふぅ~ん」


小ばかにしたような返事に、

また頬を膨らしこちらを見る。


「そう言えばまだお兄さんの名前聞いてなかったですね。」


立ち止まりくるっとこちらの方に向きを変え話し出す。


「私はドナ」

「ドナ・マクトです」


小さく会釈する。


「俺はタイチ」


「ヒョウドウ・タイチ」


こちらも小さく会釈する。


「不思議な名前ですね!」

「東の方の人ですか?」


「まっ、まーね」


興味津々なドナの視線が痛い。

話を変え家の事について質問した。


「森の方に村が有るの?」


ドナは機嫌よく答える。


「ウチ以外に家なんてありませんよ。」

「ほかの人は、ほぼあの町に住んでいます。」


嫌な予感がした。


(転移後この森で発見した第一村人はあのじいさんだけだ…)

(お父さんと二人暮らし…)

(確率的にあのじいさんで確定だな…)

(居づれぇ…あのじいさんと一つ屋根の下…)

(ドナをプラスしてもじじいのマイナスがデカすぎる)

(頼む!神様!7つの玉でも何でも集めますからあのじいさん以外でお願いします!)

(あんな無口で高校生時代絶対陰キャだったであろうじいさんは嫌だ!)

(まず絶対話が合わない!)

(そんな犬捨てて来なさい!って平気で言えちゃう顔だよあれ!)

(あんなに嫌な顔してたもん!お前キライだ!って顔が言ってたもん…)


そんな事を考えながらとぼとぼとドナの後を歩く。

ドナはそんな光景に気づかないままタイチに話しかけている。


ドナが立ち止まり、

「タイチさん!着きましたよ!」

「ここが私のお家です!」


そこには古ぼけてはいるがしっかりとした一軒家が有った。


「お父さんに話してきますから少し待っていて下さいね。」


ドナは小走りで家の隣にある小屋に入った。


「はぁ~ドキドキする。」

(じいさんに何て言おう…)

(こんにちは!この前はどうもwww)


「無理だぁ~wwwww」

(この際、初めてのフリで…)

(無理無理無理無理!!)


「もうドナだけが頼りだ・・・」


小屋からドナが出てくる。


「お父さんが会いたいからこっち来なって~」

「早く~!」


そんな事は1ミリも知らないドナが呼んでいる。


(頼むぞ、ドナ)

(お前だけが頼りだ!)


恐る恐る小屋のドアを開ける。

薄暗い小屋の中でロウソクの明かりがユラユラ灯っている。

中に居るお父さんらしき男が大きな刃物を振り下ろした。

机の上に置かれている何かを両断しその液体がタイチの顔に飛び散った。


「ひぃっ・・・・」


タイチは少女のような声を出し固まる。


お父さんらしき男は暗がりからこちらを向き段々と近づいてくる。

ロウソクの明かりが薄っすらと男を照らす。


更に近づいた男の手は緑色。


河原で会った奴だ!


「逃げるぞ!ドナ!」


焦ってドナの方に振り返る。

ドナの手には大きなナタが握られていた。



ガタン。


タイチは白目になり気を失った。

最後まで目を通して頂き誠にありがとうございます!

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