表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

多分この世界ではやって行けそうにありません。

目を通して頂き誠にありがとうございます。

路地にも容赦なく日の光が降り注ぐ。

へたり込み、下を向きながらブツブツと何かを言っている。


「なんで俺がこんな事に…」

(大体なんだよ…どこのゲームの世界だよ…)

(異世界来たら、最初は転生だろ…なんで元の姿からのスタートだよ…)

(赤ん坊からの始まりがセオリーだろ…)


意味の無い愚痴をつぶやく…

腹の音が鳴り空腹感に気づく。


「そういやぁ腹減ったな…」

「コンビニで買ったツナマヨ食べてなかったなぁ…」

「喉乾いたなぁ…」


無意味な後悔に苛まれる。


辺りを見回せば何かの肉を焼いている屋台、飲食をしている人々。

当然ながらこの世界の通貨など一銭も持ってはいない。

財布はただの紙切れの入った革袋と化している。


ここに居てもしょうがないと、フラフラと徘徊に出る。


「とりあえず水だ…」

「水さえあれば少しの間生き延びれる…」


緊張と恐怖の繰り返しから脱したが、気づけば空腹と渇きに満ちている。


「大体の物語だと、こう言う町には無料の給水スポットが有ったりするよな…?」


顔を横に向けると都合よく水汲み場が目に入る。


「はい!はい!やっぱりね!こう言う都市にはこう言う物が無数にあるよね!」


足早に駆け寄り柄杓のような物で水をすくい一気に飲み干す。


「くぁぁぁ!少しぬるいけど美味い!体に染み渡る!」


更にもう一杯勢いよく飲み干す。


「ん?」


周囲の人々が冷たい視線で見ている。

中には小声で何か話す者もいた。


(なんだ?よそ者は水も飲んではいけないのか?)

(なんの表示も無いし、多分無料だろう?)

(それに今来たガキだって水を汲んでるじゃないか!)


などと思っていると、若い女性が話しかけてきた。


「あの…もし喉が渇いていらっしゃるのでしたら、あちらの湧き水をお飲みになられたらどうですか?」


恐る恐る女性の視線の方を向くと明らかに文明感のある井戸らしき物が有る…

先ほど水を汲んでいた子供も犬のようなペットに水を与えている。


「ゴブッ!!」


勢いよく水を吐き出し明らかに恥ずかしそうなそぶりで


「すみませんwww田舎から出てきたばっかりで…」


そう呟くとそそくさと移動する…


(くぉ~恥ずかしい!恥ずかしすぎて元の場所に転移できそう。。。)

(絶対後で、おかしい奴おったwwwって知り合いに話すよな…)


顔を真っ赤にしながらまた路地に戻り座り込む。


「まず、落ち着こう。」

「今までの情報を整理しよう。」


喉の渇きを恥じと言う代償と引き換えに何とか癒し冷静になる。


「まず、帰れない。」

「と言いますか、帰り方が解らない…」

「それに地理がまるでわからない」

「そして外の森に行ったら絶対死ぬ!」

「現状、無一文ホームレス状態…」

「文字読めん…」

「唯一の救い、言葉は通じる。」

「恥ずかしながら水の確保はできたwww」


うつむき汗が流れる…


「どうしよう…」

(あれだけ恐れていた無職文無しじゃねーかっ!)

(バイトや日雇いなんてあるのか?と言うかその前に読み書きができん!)

(うっはっwwww終わったwwww)


諦めながら空を向く…


「待てよ…」

(大体こう言う異世界に来てしまった的な人物って大体、特殊な能力に目覚めたり、

魔法が使えたり、能力値が最強だったり、昆虫型のロボットに乗せられて戦ったり、

、ステータスバーらしき物が有ったり、可愛い女の子守ったり、とかあるよな?)


「もしかして俺も何か有るんじゃないか??」


勢い良く立ち上がり…


「まずはっ!」




ステータスバー


「表示なし…」




気とか魔法


「出ません…」




レベル


「わからん…」




ロボットとか


「そんなものは無い…」




可愛い女の子


「どこにも居らん…」



先ほどと何も変わらず静かな路地


「終わった・・・」

「何も無い・・・」

「何も出んし、何も来ない・・・」

「アホな事やっただけ腹が減った。」


更に腹の音が鳴る。


「真面目に考えよう…」

(今必要なのはとりあえず食料だ、水と食料さえあれば生きていける)

(ただ食料を集めるためには金が要る)

(第一にこの世界の知識がない俺には野草・獣肉など何が有毒なのか解らない)

「だが無職。」



「・・・」



「振り出しに戻ってんじゃねーか!」

「でも無職は強いよ…」

「悪い意味で最強だよ…」

「もしかしてだけど異世界最強の無職とかじゃ…」

(いや、最弱だよ、いらねーよそんな能力、生まれたてのスライムより弱いよ、異世界弱者とか聞いたことねーよ。。。)


腹はなり続け、日も暮れる。

栄えているこの町は夜も無数の商店の光によって明るい。

まるでゾンビのように街を徘徊する。

商店の商品である鏡の前に立ち止まり虚ろ気な表情で自分の姿を見る

元の世界ではごく当たり前の服に職場のエプロン、まさに店員。


「。。。」



つい十数時間前まではリユースショップの雇われ店長だった頃が懐かしく思える。

辺りの人々から見ればかなり浮いた存在。

それに気づくと足取りは裏路地に向かっていた。


そこは薄暗く湿気が多い、裏路地の端には帰る場所の無い人々が布一枚で地面に寝ている。

しばらく歩くと飲食店の裏口が開く。

店主らしき男が客の食べ残し等を入れたゴミ袋を裏に置く。

その袋に目を奪われたが「希望」と「躊躇」が交錯する。

そうしているうちに男が扉を閉めまた路地裏が暗くなる。

と同時に先ほどまで寝ていた者たちが一斉に袋に群がる。

あっという間に「希望」は奪われ無になる。

とてもソレに交わることはできなかった。

その者達からは目を逸らしまた歩き出す。

そしてまた店の裏口が開き「希望」が入っているかもしれない袋が投げ捨てられる。

ドアが閉まった瞬間辺りを見回す。


誰もいない!


慌ててその袋に駆け寄ると急いで袋を開ける。

中には、割れた皿が3枚、曲がったフォークが5本、刃こぼれしたナイフが2本、食べ終わった後の骨、

注文のメモのような紙が大量に入っていた。


「希望」は入っていなかった。


だが刃こぼれしていたナイフは貴重だ、メモ紙に包み着ていたエプロンを脱ぎ包んだ、

袋状にしたエプロンを腰に巻き立つが腹は満たされない。

歩いているうちに昼に来た門までたどり着いた。

門を出た辺りには商人か何かがキャンプをしている。

暖かい火が辺りを照らし、周りはにぎやかだ。

酒を飲み食事をしている人たちに目を奪われ惹きつけられる。

自然とそのキャンプに足が進んでいた。


商人であろう男が話しかけて来た。


「兄さんも旅人かい?ここら辺で見かけない服装だなぁ」

「はい、まあそんなところです…」

「暗ぇなぁ、こちとらぁ商売が上手くいって、明日帰る前にひと騒ぎしてるんだぁよ」


商人はひどく酔っている様でこちらの様子など構いもしないで話しかけてくる。

弦楽器の音が流れる中、商人は軽くリズムを刻みながら手に持った肉と酒を交互に上げ下げしている。

商人がよろけ転びそうになった時とっさに支えてしまった。


「大丈夫ですか?」


状態を立て直した商人は満面の笑みで答えた。


「おぅ!悪りぃな!」


「危ないですから、お持ちしてますよ」



そう言うと手を出し肉と酒を預かる。

悲しき接客業の習性が出てしまった…


「あんがとな」


商人は軽く礼を言うと焚火の前で踊る仲間のもとへ行き踊りだす。


「・・・」

「・・・?」


「飲み物と食べ物…」


商人はこちらの事など全く見ていない。

そう思ったと同時に肉を頬張っていた。


「美味っ!!」


ただ焼いただけの肉に塩を振っただけの食べ物だが、人生で確実に一番の美味しさだ。

凄まじい速度で骨だけになった。

そして酒も飲み切った。

その場から逃げる事も頭を過ぎったが、次にいつ食料を調達できるか不安になり立ち止まる。


「も~っとだぁ~」


久々の食事に精神も落ち着きを戻し、ただ飯を食べる為動き出す。

ハイテンションで踊っている商人の輪に突入!


「fそfjfじゃvじょいfdwwww」


酔っている商人の話など意味不明だが


「うんwwうんwwだはぁはぁwww」


と意味も無く大げさに頷き笑い、商人も爆笑。

酒・肉も振舞われ宴も落ち着きを見せた頃。

次の作戦へと移行する。


だいぶ機嫌を良くしている商人に少し困り気味で話しかける。


「もし、キャンプを畳んで帰るときに置いて行く物、必要が無いものが有れば譲ってくれませんか?」


商人たちは快く頷き、


「いいぜ!いくら迄出せる?」


と当たり前のように聞いてきた。

「やはり」と思ったが相手は商売人。

タダで何かを譲るはずもない。

こちらは無一文、しかし相手に無一文だと話せば交渉すらできない。


「こちらと残りはキャンプの撤収時に手伝うことでどうでしょう?」


おもむろに財布を取り出し小銭を手に取る。

見たことも無い硬貨に商人も顔を近づける。


「なんだこりゃ?どこの国の通貨だ?」


商人は顔を上げこちらを見る


(そりゃそうだろうwww)

(どこの国って日本だよwww)

(JP円だよ!)

(740円ぐらいだよwww)


と思いつつも、神妙な顔をして話し続ける。


「貴重な物だと聞いているが私には解らない…」

「特にこのコインは材質も何だか…」


若干のあやふやな説明ではある物の確かにこの世界には此処にしかないコインだろう。

商人は特に500円玉が気に入っているようだ。

商人も置いていくゴミと珍しい物での交換は悪くない様子で、納得してもらった。


「さようなら俺の小銭、さようなら日本の一部」


夜も更け一晩泊めてもらう事になった。

明日朝からのキャンプ撤収を手伝うことに…



異世界初めての夜は、商人のおっさんと一緒でした…ああぁ…


おっさんの歯ぎしり、イビキ… 


「うるせぇ…」


「うる…」





ガタン。。









「店長~起きてくださ~い!」

「残業中にまた寝ちゃったんですかぁ?」


聞きなれた声…



「佐治ちゃん?」

「夢だったのか?」

「やべっ!起きて開店準備しなきゃ!」

読んでいただいてありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ