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江戸・江戸物語!  作者: 綾瀬ぷーや
3/5

不吉な予感

「はい、じゃあ最初の授業ー。歴史ね。


過去に我々にしっかり貢献した偉人たちを

勉強していきましょー。」


ぱんぱん、と手を叩いて笑みを浮かべるリン。


「まずは復習ね。君たち神様見習い_それを、

我々の業界では"神童"と呼ぶのは常識ね。


では私ら、神童に教えを授ける教師の事をなんと呼ぶか、はいちか子。」


「人間界では神様。天界では…せや、仙人様や!人間界じゃぁ仙人は神様の下寄りの存在やから

こんがらがっちまうわ。」


パチン、と指を鳴らして顔をしかめるちか子に、

リンは満足そうに頷く。


「そう。神童から見事仙人に昇格した者の中から、教師に選ばれた者が神童に教えを授ける。


では歴史書に載っている偉人たちは、今も

存在しているか、否か?利通。」


「いいえ。偉人たちは皆反逆者_仙人でありながら力を働き人間に危害をもたらした反逆者との

戦いの末、亡くなっています。


確かこの事から歴史書に現存する者を載せるのは不吉とされています。」


イケメン顔に真面目を浮かばせ、キリッとした

顔で答える利通を見て、微かに頬を赤く染めながらリンが頷いた。



「そーそー、満てーん。いやぁ利通ってばやっぱイケメーン。先生、イケメン大好きだから好きになっちゃうよー。」


「せんせー!犯罪だと思いまーす!」


手を挙げて抗議する八重に知らん顔して

何事も無かったかのように授業を始めるリン。


「復習も出来た所で、今日は世界各地にある

神童の学校を学んでいくわよー。」


いつの間にか取り出したボールペンをくるくる回して、リンが話し続ける。



「まず、ここ江戸学園。江戸学園は島根にあり、元祖の仙人、徳川家康が創設した日本で最初の

神童の学園。


江戸学園以外にも、京都に新撰学園、

大阪に白虎学園、東京に公方学園があります。


海外の話をすると結構長くなるから、今日は

アメリカの学園の話でもしましょうか。」


リンが何処から出したのかアメリカ国旗の

小さい旗を出してニコニコ笑った。



「アメリカにはかなりの数の学校があるけど、

主に有名校として知れ渡ってるのは

ワシントンD.C.にあるトワイライトスクール、

ニューヨークのサヌライズスクール、

ロサンゼルスのダスクスクールって所かしら。


特に首都にあるトワイライトスクールは

世界一のマンモス校。今は2年生がそこに

長期実習に行ってるわー。あなた達も来年に

行って、そこのデカさを思い知っちゃいなさーい。」


孝允は、個性豊か過ぎる2年組を思い浮かべ、

直ぐに考える事を辞めた。


同じように、ちか子と利通も苦笑を浮かべて

居た。ニコニコと笑っているのは八重だけだ。


「んー?ちょっとー。孝允ぃー。

なーに湿気た顔してんのよー。授業がつまんないってー?」



すかさずリンの鋭い指摘が入る。

鋭いが、孝允的には別につまらないと思っていたわけでもないのだが。


八重は珍しく孝允が怒られる雰囲気にニヤニヤと

口に手を当ててふざけた様に笑っている。


その反応にカチンときた孝允は八重を指さし、


「先生。僕よりも授業を受けたくなさそうな奴が

居ますが。」


と言い放った。


「なななな!なーに言ってんの!孝允!」


無駄に怪しく発言する八重。

その反応に、リンが食いつく。


「八重ぇー?アンタはその成績でよく言えるわねー?」


「言ってないし!それに成績は関係ないもーん!」


慌てて弁解する八重を、呆れたようにリンが

見る。


「十分関係あるわよー…。


八重、補習ね。」


残酷な言い渡しを告げられ、八重がバンッ!と

勢いよく机を叩いた。



「なんで私だけなのぉぉぉッ!!」


ーー


昼休みを使用した「わくわく♡リンちゃんの補習タイム」を受けている八重を除いた、


孝允・ちか子・利通の三人は、裏庭に出て

昼飯を食べていた。


ちか子は錆びたベンチに座り、孝允と利通は

野原に座り込んでいる。


ちか子が、口に入れたサンドイッチをごくん、

と飲み込んで口を開いた。


「それにしても、八重ちゃんは大丈夫なもんかね。一学期も補習地獄やったけど初日からは

流石にキツんとちゃう?」


「あのポジティブ馬鹿なら大丈夫でしょう。

周り見えずに、その場の状況すら理解しないで

僕を煽るようなことするから。」


と、中々に冷たい発言だが、行動と発言は

見事にすれ違っていた。


「孝允クン、なんで座って立ってを繰り返しとるん。新手のスクワットなん?孝允クンがまさかの筋肉キャラ目指すのは冗談が冗談して無さすぎてウケないわぁ。」


「孝允は素直になればもっと人から好かれるのにね…」


やれやれと利通が首を振った。


孝允がジロっと利通を睨むが、 そこは流石の

付き合いの長さだ。

二人は何気に、幼稚園からの付き合い、腐れ縁なのだ。



「まったく、分かった口をきかないでもらいたいです。僕はいっつも素直ですよ。」


そう、孝允が言う。







_言い切る前に、その"声"は聞こえた。



「_…孝允くん。」


「ッ!?」


孝允が勢いよく振り向く。

しかし、その声を発したものらしき人物は居ない。八重と利通の顔を見ると、どうやら二人にも

その声は聞こえたようだ。眉間に皺を寄せ、

辺りを見回している。


「聞こえましたよね?幻聴では無いですよね?」


「ああ、聞こえたよ。孝允の名前を呼んでいたね。俺は聞き覚えない声だけれども。」


「私も知らんわ。敵襲?」


八重が疑問を口にすると、孝允が頷く。


「かもしれませんね。神童を狙う奴らなんて

山ほど居ます。"反逆者"、の仕業でしょう。」


無論、罠の可能性もあるし、その前に反逆者の

仕業でも無いかもしれない。


それを頭で分かっていても、その1度芽生えた

不信感は一気にぬぐい去る事は出来ない。


「…僕が、辺りを見てきます。

二人は残ってまた声が聞こえないか試して

ください。」


二人が揃って頷いたのを確認すると、孝允は

地を勢い良く蹴って、飛び跳ねた。



そう、文字通り飛び跳ねたのだが、それは

地上から10メートル程飛んでおり、しかも

落下する気配は無い。


孝允は浮遊したのだ。



神童は、何かしら特別な力がある。

人間が特別な力を持った時、神々はそれを神童と

呼ぶのだ。


孝允の持つ力は_風を引き起こし、操る力。

それが孝允が浮遊した仕組みであり、浮遊する

根拠でもあるのだ。


**********************


孝允は浮遊し、江戸学園を全体で見て回ったあと

空高くから普通の人間が住む町を見回っていた。


「…特に異常は無いな。でも、幻聴と呼ぶには…」


はっきりと聞こえた、と言いかけると、

また声は聞こえた。


「…孝允くん。」


今度は耳元で。


驚いた孝允は、思わず浮遊する体の維持の力が

抜け、落下が始められる。



「うわっぁ…」


悲鳴にもならない中途半端な声を呟く。


あっという間に落下は終わりを迎え始める。

アスファルトの地面がくっきりと見えてくる。


もうしばらく整備されていないのが分かるくらい

石は落ちまくってボロボロだ。


落ちたら頭蓋骨を割られる痛みだけには留まらなそうだ。


「…ッ!死ねないですよ…ッ」


最後の足掻きで孝允が両手を伸ばして、

風を発生させようとする。が、力の抜けた手に

そんな気力は無かった。


もう死ぬ、と覚悟した時。


孝允の落下するであろう近くに小さい少年が一人、走ってくる。ヒーローごっこか、赤いマントを肩につけてびらびら音を鳴らして走っていた。



好機、危機一髪の好機だ。


ニヤッと孝允が死ぬ前には似合わない笑みを浮かべた。


「その風、利用させてもらいますよ。」


少年が走る事によって生み出していた微弱な風を

強くし、操作して落下点に移動させる。


少年は「うわっ!?」と驚いて振り返る。

しかし、それを誤魔化すほどの余裕は今の孝允には無い。



落ちる、落ちる、落ちる_




が、上に向けられた風に直にあたり勢いが弱まり、ゆっくりと風を弱めさせて孝允はダメージ無く着地に成功した。





「…。」



「…。」


少年とはばっちりしっかり目が合っているが。



「……こんにちは。」


苦し紛れに孝允が笑った。




「…うわぁぁぁぁぁぁっ!?空から人が

落っこちてきたぁぁぁっ!?」


少年が叫ぶ。


少年の容貌は、孝允の腰ほどの身長で、

紺色の短髪とパーカーが特徴的だった。


大きく幼さを醸し出す瞳が目いっぱいに孝允を

映し込む。


「お兄ちゃん、もしかして魔法使いのひと!?」


「魔法使いの人ってなんですか…。違いますよ。僕は空から落ちてきていません見間違いです。」


あくまでしらばっくれる。


「絶対魔法使いだ!それかすーぱーまん!」


しかし何故か少年の意思は強固だった。

口で幾ら言っても聞かなそうだな、と察した

孝允は諦めて相手をすることにした。



「…そーです。僕は正義のスーパーマンです。

でもこの力がバレたら悪の組織に狙われてしまうのです。だから、今見た事は君と僕の秘密ですよ。」


我ながら厨二病全開だな、と思う。


口に人差し指を当てて、しーっという動作をすると、少年の目は更に輝いた。


「わぁぁっ!!うん!内緒ね!」


少年の明るい反応を確認して、孝允は去ろうとする。元より本来の目的は別のものなのだ。


「何処に行くのすーぱーまん!僕とすーぱーまんはもう友達になったんだからまずは自己紹介でしょ!」


少年の言動に、孝允はうげぇという顔を隠せなかった。


とりあえず、長くなることは確実になったのであった。


**********************


その頃のちか子と利通は、孝允に言われた通り、素直に江戸学園の裏庭で待機していた。


「…孝允くん遅ない?」


ちか子が怪訝な顔で発した。

この頃孝允は、少年とヒーローごっこしているなど二人は知るはずも無かった。


「あの声も聞こえなくなったしね。

風の音だったのかな?」


利通も頷く。利通は空にいるであろう孝允を

探すように見上げて、太陽の眩しさに目を細めた。


「利通クンってバカみたいにイケメンやなぁ。

こりゃ敵わないわ…」


「褒め言葉として受け取っていいのかい?

生憎、顔の良い悪いは競うものでは無いと思うよ。」


利通が微笑むと、ちか子が「性格イケメンやっ!!」と謎に叫ぶ。


そうして、謎の声も忘れて、またいつもの

雰囲気に戻りかけようとしたその時_








「_…ォイオイ。セキュリティガッバガバだなぁ。江戸学園も舐め腐ってくれたもんだぜ。」


不吉な、死を呼ぶ声がはっきりとちか子と利通の

耳に届いた。

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