塩せんべい
初投稿です。
例えば、
明日僕が死んだとして。
どれくらいの人が悲しんでいる「フリ」をしてくれるだろう。
「え、フリでいいの?」
きょとんとした顔で康平に聞き返された。
「いや、だってさ。本気で悲しんでくれる人なんて、そうそういないぜ?ならせめてさ、フリなんて無駄な労力使ってでも悲しんでくれる程度には仲良くしてくれてた人ってどれくらいいるのかなって。」
「何その裏の裏を読みましたみたいなの。」
興味なさそうに答える康平は、器にあった塩せんべいを1つ取ると、かじりながら器用に黒のジャケットを脱いだ。
今日は母の、5回目の命日だった。
母が亡くなったとき、不思議と涙は出なかった。
ずっと病を患ってたから覚悟ができていたのもあるだろうけど、実感がわかなくて呆然としていたのかも知れない。
実の家族にですら、すぐには悲しみを感じることが出来なかった。
じゃあ他人は?本当に悲しめるものなのかな?
「お前いつのまにかそんなに捻くれちまったんだよ。素直に受け取れよ人の涙をよ。」
「捻くれてはいないだろ。純粋な疑問だよ。」
康平だって、今日の墓参りに付き合ってくれたのは、弔いの気持ちもあるだろうけど、ほとんどは僕の心配だったはずだ。
そう言うと、ちょっと照れたように目線をそらしながら「それでもよ」と言葉を紡ぐ。
「少なくとも俺は泣くよ。悲しくてな。」
フリでもなんでもねーよ?と、
照れを誤魔化すようにまた1つ塩せんべいをかじる。
年に一回、やたらナーバスになる僕に毎年欠かさず付き合ってくれるくらいだ。
嘘でも、冗談でもないのだろう。
「ん。なんかもうそれで充分な気がしてきた。」
僕も1つ、塩せんべいをかじった。
主人公の名前が出てこなかった...