表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反日パヨク、異世界転生する  作者: ああああああ
[第一章]もう終わりだよこの国
5/7

004

自己肯定感という言葉を近年ではよく目にするようになった。日本人は特に諸外国と比べ自己肯定感が低いとされている。いろいろな理由はあるのだろうが、結局の所日本の教育とか文化とか、そういったものが大きく関わっているに違いない。

 昔から右へ倣えと教えられ、出る杭は打たれる。正しさばかりが重要視され自分の考えや意見を口に出すことは憚られる。とどのつまり日本人は幼い頃から訓練されているのだ。同調圧力に屈する方が手っ取り早く自分というものをさらけ出すことはできない。そんな環境で自己肯定感が高まるとは思えない。僕も、同じだった。

人と少し違うというだけでいじめられ、自分の主義主張を少しでも出すと非難される。結局自分自身を守るためには他人を、普通を模倣するしかない。僕にはそれが至難の業だった。だから――僕の自己肯定感は極めて低かった。まあ、自分に自信を持っている人のほうが少ないと思うし、普段生活している分に困ることはなかった。むしろ僕のような人は多いと思う。だからこそ、こんなにも澄み切った青空のような、爽やかな気持ちは久方ぶりだったと言えよう。

人を殺した。

もっと……なんというか、心の中に葛藤とか、後悔とか不安とか、色んな感情が入り混じって混乱するものなんだろうと踏んでいた。小説やら漫画ではそういったシーンは必要不可欠で頻繁に目にするものだ。でも……対して僕はどうだろうか。こんなにも心が穏やかで、晴れやかなんて、まるで精神異常者じゃないか。サイコパスだ。人を殺して幸福感を得ているなんて頭がおかしい。でもそうなんだ、嬉しいんだ。何も成し遂げられなかった社会の底辺である僕が、人と違うことを、それも大抵の人にはできないことをやってのけたのだ。何の罪もない一般人を殺してやったのだ!

僕は今、自信に満ち溢れていた。今なら何でもできる、そんな無敵感が僕の中を支配していた。


警察官が襲われ民間人が一人射殺された。

そんな内容のニュースが流れていた。ネット上でもかなりバズっている。当然といえば当然だが防犯カメラに映った小太りの男を警察は捜査しているようだった。

「一体だれがそんな酷いことを」

 日本の警察を甘く見てはいけない。どこで凶器であるバットと有刺鉄線を購入したのかすぐに割り出されるだろう。だがもう遅い。手遅れだ。タイムリミットなんだ。

 なぜなら僕はもう死ぬのだから。

 死は恐ろしい。どうして生きているのかわからないと思っていた何の価値もない人間ですらそう感じるのだから。だからきっといじめを苦に自殺する若者はある意味では勇気があるのかもしれない。僕も自分の中に埋め込まれた爆弾を爆発させるのに勇気がいるだろう。土壇場でスイッチを押すのが怖くなったりしないだろうか。しない、か。結局待つのは死なのだから。

 多分僕は、癌になっていなかったら、体に爆弾が埋め込まれることにならなかったら、こんなことはしなかっただろう。静かに、静かに死を待ち望む一人の男でしかなかったはずだ。

 苦しまずに楽に死ねたらどれだけ幸せか。そんな風にずっと考えていた。でも死ななかったのは勇気がなかったからなのか、それとも生きる楽しみが僕にもあったからなのか。

 準備は滞りなく終わった。僕の人生と暴力は切っても切り離せない関係にある。そうは言っても社会に出てからはそんな殺伐とした環境に身を置いていたわけじゃない。そのためか足が震えていた。失敗は許されない。チャンスは一度しかない。僕はこの日のために生まれてきた。

 バイク用のプロテクターが仕込まれたジャケットを用意した。丈夫で万が一のときに守ってくれるはずだ。

「ふぅ」

 息を呑み、僕は電車に乗った。

 目指すは永田町。


 いつから僕の敵が政治家になったのか分からない。ただ漠然と、二十代後半辺りからそう思い始めたのだ。自分がうまくいかないのは何もかも日本のせいだと。日本の社会やルール、そしてそれを作る政治家が悪いのだと。そう思いこむようになった。そして政治家つまり上級国民は何をしても捕まることはない。そいつらに天誅を下すのが僕ら無敵の人の役割なのではと。

 正解なんてものはない。この世はわからないことだらけだ。

 国会議事堂を見上げ僕はそう呟いた。時間がなかったのは癌だからではない、国会が閉会してしまうからだ。通常一月から始まり一五〇日間、六月で終わる。それを逃してはいけなかった。最重要事項だった。

 大事なのはなにか? 僕という人間の爪痕を残すことだ。僕という社会の底辺が生きていた、その証をこの世界に刻まなければならない。歴史に名を残す。そのために必要なのはキル数だ。大量に殺す。そのチャンスはここしかなかった。

 衛視を銃で脅し制服を奪った。簡単ではなかった。だが成し遂げた。衛視は殺さなかった。これで上手くいくか? 一抹の不安はあった。それでも僕はやらなければならない。国会議事堂に侵入した。

 懐に忍ばせた銃を力強く握った。引き金を引けば狙った相手は死ぬ。単純だ。誰にでもできる簡単なことだ。僕は今まで簡単なこともできなかった。本当にどうしようもない人間だったのだ。

 忘れ物が多かった。遅刻が多かった。短気ですぐにイライラしてしまう。人の気持ちがわからない。反省できない。逆ギレする。最悪な人間だ。僕と関わった大抵の人は僕のことを嫌っているだろう。僕はこんな人間だから誰かを幸福にすることはできないのだ。いつだって誰かに迷惑をかけ、面倒をかけ、不幸にしてしまう。でも今日は違う。僕は、この国を救うヒーローになるのだ。

 僕はこの呪われた国を解放する。司法が正しく機能する国家に変えてみせる。無能な政治家を排除して新しい風を吹き込む。僕という人間が存在していたことを示してみせる。

 真の愛国者として、この国に名を刻んでやる!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ