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ワイルド・スピード


 暑い! ものすごく暑い!


 こういう時は暑苦しい映画でさらに熱く燃えるしかない!


 映画『ワイルド・スピード』、いつの間にかシリーズ化してた。


 第1弾は2001年公開。

 それから、ほぼ2年おきに更新してくるなんて、几帳面すぎっ!

 真面目サラリーマンか!


 シリーズ累計興行収入、5000億円を突破だそうだ。

 きっと、文句なしに面白いんだろうな。


 で、今、私は国道で車をギンギンに走らせてる。


 私的ワイルドスピード。

 時速48キロの猛スピード!


 もうハンドルに、かじりついてる。


 なにせ、叔母の家から離婚届と書類、盗んじまったわけで。

 背中に油汗、浮んでいるはず。


 外は暗かった。

 国道も帰りの車やバスで結構、混んでる。


 正面から走ってくるヘッドライトの光を浴びるたびに、少し視線をそらして、真正面から、光を受けるのを避けてる。

 これ、『男と女』という小説でレーサーの男がしてて、運転ってそうするんだって、学んだ私。


 で、深夜じゃないけど、多分、午後7時過ぎたくらいだけど、暗いから。

 もう、泥棒的には時間帯ぴったりであって。


「で、ボス、こっから、どうすんで」

「しばし、待て!」


 オババ、老眼鏡をかけ、目を眇めてスマホの番号を押してます。

 泥棒にしては、なんか頼りないっちゅうか。

 老境に達しすぎっちゅうか。


「もしもし、私です。……そうよ、委員長です」


 委員長ってとこで、オババ、ちょっとだけ言い淀んだ。

 でもって、オババを委員長って呼ぶのは叔父だけで、だから今、携帯から叔父さんにかけてるんだって、ハンドル握りながら思った。


「話したいことがあるんです。至急です。病院は退院したでしょ……。そう退院したの。状態はどう……、いいんですね。いえ、感謝しなくてもいいですよ、気味が悪いったら、あなたに、お礼なんて言われた日には寝覚めが悪いです」


 で、オババ、ぷっと吹き出した。

 きっと、なんか叔父が洒落たジョークを言ったんだろう。やはり、叔父は魅力的な男だ。


「今から行きますから、頼みがあります、ええそう、で、どこに……、わかりました」


 オババ、スマホを閉じた。


「アメ。これからアマン東京ホテルに向かう」

「あ、アマン東京って」

「ホテルだ、あのかっこつけ贅沢男、破産しても治らんようじゃ」

「首都高は走りませんから」

「高速の下でいいですよ。私もあなたの高速運転はこりごりですから」


 私、いったん車を路肩に止めて『アマン東京』ってナビに入れました。

 場所は、東京駅方面へ走って、皇居の近くって、

 え? ここ運転すんの?


 できんのか、私?


 でも道幅、広いしで、なんとか目的地まで運転した。


 皇居前は高層ビルが立ち並び、国道も道幅が広い。


 永代通りに向かって右折して、次の交差点をすぎるとナビが、

『目的地周辺です。交通規制に……』って、決まり文句を吐いて、いつものように、私を見捨てた!


「オババ。ホテルはどこですか?」

「左のはずだ」


 てか、歩いてるわけじゃないから、車、すぐ通り過ぎっから。

 で、えっ、左?


 三車線ある道路の、なぜか一番右走ってるから。

 だって、右折したから、そのまんま右側車線にいて、車線変更したいけど、他に車、走ってるし。そいでもって、みんなスピード、早!


「左、まずい!」

「そうだ、アメ。非常にまずい状況だ」

「わかっとります」

「高速じゃなくても、ダメなのか」

「別に国道だからって、急に運転がうまくなるわけじゃないです。うおーーー」

「ウィンカー!」

「へ!」

「出てない、ウィンカー」


 ときどき、思うんである。

 世の中の人々は、真の危険に対して、あまりに無防備すぎると。


 これだけは常識として伝えておきたい。


 アメの運転する車の右、および、左を運転するでない!

 とくに自転車。

 勝手気ままに、道路を横切るだろう。

 普通は車が避けるって、思い込んでおろう。


 よく覚えておくが良い。

 すべての運転手が一級だと思うことは、君たちの危機管理において、非常なる課題である。


 君らは、今、そこにある危機をあまりに軽視している。


 私がウィンカーを出したら、即座に逃げるように。

 それしか、君らを危険から守る方法を、あいにくと私は知らない。


 わかったか!

 今、左を悠々と走る、ベンツ、お前もだ。


 で、なんとかホテルのエントランスに到着して、むっちゃ後悔した。


 だって、ホテルのドアマン、ものすごく高級そうな制服をパリッと身にまとって、にっこり微笑んできたんである。


 なんとなく、(道に、お迷いですか? なんなら目的地、アマン東京ホテルマンのプライドをもって、行き先をお教えいたしますが)

 って、そんな心の声が聞こえた。


 間違ってもホテルの客だと思ってない、きっと。


 あ、無理。ここ、私、場違い!

 とくに、この格好じゃ場違いだから。


「オババ、ほんと、ここで降りるんですか」

「恐れるな、アメ」


 てか、私、豪華でシックなエントランスに圧倒されてて、で、そのままブレーキ踏まずに、回廊をくるっと回って、ワイルドスピードで、速攻、外に出ちまった。


「アメ。何をしてる。駐車せんか」

「だ、だって、今日の服装、こういうホテルでは、ものすごく浮きそうですが」

「アホ、誰も見とらん。あんなに苦労してエントランスに入ったのに、また繰り返すんか」


 みんな見てるって。

 で、もう1回、皇居前を走って、今度は割と楽に、エントランスに入っちまった。


 頼む、さっきのドアマン、交代しててくれ、もう1度くるなんてアホすぎるからって、祈りながら、再度トライ!


 あ〜〜〜、おんなじ人やあ。


 南無三!


 で、私、東京に進出した、例のアマン、超高級ラグジュアリホテルのエントランスで、もう5週間は洗車してない薄汚れた国産愛車を停車した。


 場違い感、半端ない。

 叔父。むちゃくちゃだ。

 これ、嫌がらせか!


(つづく)


****************

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