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アメリ

 義理イトコの優ちゃん、頭が悪いわけじゃない。ちゃんとした女子大も卒業している。


 ただ、なんていうか生活感が乏しいというか。なにもできないというか。とんでもない不思議ちゃんなのだ。


 ほんと素直で叔母の言いなりで、言う通りにお勉強して、一貫校からそのまま大学ってコースを、なんの迷いもなく生きてきたわけで。


 私みたく18歳で、なんのために生きているかなんて、18歳には重すぎる課題に取り組む気配もなかったろう。思春期の懊悩おうのうに、優ちゃん、のほほんと笑って通り過ぎた、てか、未だに通り過ぎてるような。


 そんな素直な子なんである。


 働いたこともある。これまで何社か会社をクビに、いえ、依願退職している。


 そのひとつの理由を聞いて、私、ひっくり返った。


 最初に入社した会社で、上司に鉛筆を削ってと言われ、1ダース12本の鉛筆を1センチになるまで、全部削ったらしい。当時、そこには電動の鉛筆削りがあったんだ。


 悪意はない。素直。そして、可愛い容姿。12本、なぜ全て削り終えたって聞いた。


「だって、どこまでも先に削れるから、削れるとこまでやってみたの」と、答えたんだ。


 君はなんの求道者だ!


 優ちゃん、とても愛らしい容姿をしているから、その上、巨乳だし、だから婚活で最初はうまくいく。それで男性は2回目も有頂天で、またデートとか申し込んでくる。しかし、3回目ほどから怪しくなって、それから逃げ腰になって、最終的には、


「僕には、あなたを背負う力がないです」とかなんとか、そんな断りが何度も来た。


 10回目の見合い相手なんてジョークだ。


「あなたほど素敵な女性はいない、僕にはもったいなさすぎる」


 10回断られているから、その言葉、真実味のカケラもないから。



 優ちゃん、今、まさに巨乳を持て余しての39歳で。でも、その年齢には見えない。いや、いっそ可愛い。むっちゃ可愛い。なんちゅうか、全く老けないんで、私、優ちゃんの二倍速でシワが増えてる気がする。


 叔母は婚活に必死なんだ。私が死んだら、この子はどうやって生きていけるかって、サバイバルな状況だ。


 でもね、オババは「本気とは思えませんよ、あの妹は。優ちゃんを手放せるとは思えない」と、シニカルに笑っている。


 オババのソロキャンプなんて、優ちゃんの婚活に比べたら、ちっちゃな話であり、生死を決する問題は婚活だ。


 もし優ちゃんを誰かに押し付けることが、いや、結婚してくれるツワモノを見つけることができれば、親族内で英雄となること請け合いの、それは大変なミッションである。


 それにしても、どういう育ち方をすれば、このように15歳か16歳で時が止まったままでいられるのだろうか。


 オババによれば、それは簡単なことだと突き放す。


「ともかく、優ちゃんが幼いころからね。妹はそりゃ大切に大切に、箸も持たせないくらい大切に育てましたからね。文字通り持たせなかったんです。もし間違って、箸やスプーンで目でもさしたら大変だからって。小さいときは、自分で食事をしたことがないんです。一時が万事で、妹は、どこまでも優ちゃんの後ろを追っかけてね。小学校じゃあ、教室の後ろで見学してましたよ」


 まあ、そんな育ち方だった。

 そして、その結果が、いまここにある危機なんである。


 ソロキャンプから逃げるために、私、心を鬼にして優ちゃんへと話題を振った。いや、それ以外に逃げる方法がなかった。


 付き添いつきのソロキャンプに行くくらいなら。それなら、もう一つの危険地域、優ちゃんに玉砕するしかないって、その時は必死だった。


 しかし、その結果を私は全く考えなかった。


 叔母、優ちゃんのこととなると一人舞台だから。

 オババがソロキャンプを口に挟むことなんて、もう、無理な状況になっていた。


 私は酔った。

 自分に酔った。

 さすが私。オババに勝ったと思った。


 そうして、私は優ちゃんの婚活という沼に両足をズブズブと突っ込んでしまったのだ。


「優ちゃん、ね。この頃、へんなのよ。窓際でお庭を眺めながら、フゥってため息ついてるの。ときどき、バラの花をもってきて匂いを嗅いだり、そんな姿みていると、母親として、胸が痛くなるの。あの子、どうも恋したみたい」


 え?

 優ちゃんが恋?


 映画『アメリ』の女の子のような、純粋で不器用な優ちゃんが恋?




(つづく)


***********


映画『アメリ』

2001年フランス映画

主演:オドレイ・トトゥ


アメリの部屋のインテリアがとても可愛かった。赤を基調としてセンス抜群の部屋。あんな部屋にするのは勇気がいるけど、でも、してみたいと思ってしまう、素敵な映画でした。


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