ロッキー2
オババ、襲来!!
なんてことをしちまったんだ。たかがソロキャンプじゃないか。外国じゃない、日本だし。
確かに九州は遠いけど……、
いや、すごく遠いでしょ。九州って、それ、常識的に考えたってないでしょ。
ない、絶対ない。
弱気になってはいけない。ここは戦う!
嫁には決して負けられない戦いがあるんだ。
そうだ、全国の嫁を代表して、姑とラブコメ展開じゃない、戦うヨメ。
ウッし! 気合いを入れて
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逃げるかぁ〜〜〜。
ガチ、『逃走中』ぜよ。逃げ切れるか、私。
皆さん、大げさだって思ったでしょ?
でも、これは間違ってないから。オババって常軌を逸するから。ドラクエで語れば、経験値99。向かうところ敵なし。ラスボスを秒殺できるレベル。
だから、自宅から逃げるため変装道具まで身につけ、つまり、マスクにサングラス。
玄関ドアをあけると、そこには人影が。
思わず叫んでいた。
もう来たんか、オババ。早すぎる。
「ぎゃあああああああ」
「どしたの?」
ハア、ハア、ハア……。
そこに、夫が立っていた。
「いや、あの。これこれしかじかで、こういう訳で自宅から逃げようかと」
「それで」
「夕食を作ってない」
「なるほど」
夫は玄関にはいるとカバンを置いた。
「バーガーでも買いに行くか」
神だ。こいつは神だ。逃走プラス食事付き! あのオババの息子、修羅場をくぐり抜けた叡智が後光として輝いている。
「で、オ、オババは?」
「ま、なんとかなる」
「しかし、こっちに向かってるから」
「メールしておく」
「じゃけん、オババ、坂本龍馬じゃけん。ソロキャンプを諦めないぜよ」
「なんとかなるでしょ」
その、中途半端な気持ちが、ここまで押し切られた原因でしょう。って、その言葉、思わずのみ込んだね。なんせ外食が待っている。
ま、と、そんな経緯で近くのバーガーショップに行ったんだ。
ところが、オババ、待てど暮らせど来ない。ちょっと心配になった私。夫に聞いた。
「オババは?」
「ああ、叔母さんのところに行くって連絡してきたよ」
よかった!
どうして、方向転換して、叔母の家に行ったかは、この際、不問にしておこう。
ところで、叔母さんとはオババの3歳年下の妹で、とても優しくて大人しい方だ。オババの妹で、本当に血が繋がっているのかって、不思議なくらい静かな人だ。
その優しく静かな方と、これからラブコメじゃなかった大いなる転機が訪れることを、この時、ハンバーガーに喰らいつくながら、私は考えてもいなかった。
でも、オババ、それ、どういう戦略?
まあ、しかし、ともかく、今日のところは乗り切った。まあ、いいか。
(つづく)
*注1 『ロッキー』は1976年に公開された名作ボクシング映画。シルベスター・スタローンの出世作。スピンオフ映画『クリード』が2019年に公開されている。ロッキーシリーズ、息がながい。どこまでも伸びる。モッツァレラチーズよりも伸びる。
*注2 『逃走中』とはフジテレビで放映されたバラエティゲームで、大規模な鬼ごっこ。逃走者を追うのがハンター。ハンターは漆黒のスーツ、ブラックのサングラスをつけ、アンドロイドになって逃走者を追う。怖いのなんのって、もう。
*注3 『ドラゴンクエスト』というゲームの略称ドラクエ。ロールプレーイングゲ―ムの先駆けであり今でも人気ゲーム。「ドラクエを語らずんば、ゲームを語らず」byアメ名言集より