表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/83

鬼龍院花子の生涯

 電話で優ちゃんが慌てていた。


 びっくりしたけど、うわって気持ちもあった。叔母さんが救急病院に運ばれ、なぜに義理の従姉妹から連絡が来るんだいって、なんだか冷静になると考えてしまう。


 オババの家と叔母の家は、私の家を頂点としたら、二等辺三角形を形成している。

 別名、魔の三角地帯とも呼んでいる。


 頂点の位置が私で、だから、わかってもらえる?

 私が一番遠いんだ。


 ま、図で書けば、こんな感じ。


    アメの家

     ・

    ・ ・

   ・   ・

  ・     ・

 ・       ・ 

・ ・ ・ ・ ・ ・ 

叔母の家 オババの家


 ね、私の家が一番遠いでしょ。


 で、優ちゃんだ。


 いつでもどこでもアメって。呼ぶのやめてほしい、本音じゃね。

 だって、呼ばれたら行くしかないから、だって、大人って浮世の義理に縛られる。そこを察するのも大人なんだ。


 叔母さんはヒステリー性障害だ。


 普段はとても愛想がよくて、周囲からは、いい人と言われてるけど、つねに自分の心のなかで空回りしてからの、怒りの発露。体の病気ではなく、心の問題で卒倒したりするんだって。

 本人には自覚がなく、救急に搬送されたこと何度もあって、その際に検査しても、特に身体的な異常はないってこと。


 優ちゃんの電話口での声は特に悪びれる様子もなくて。


「ママが倒れて、今、救急病院なの」


 おそらく恐ろしいことに、その電話、オババにしてる。

 そして、きっと、更に恐ろしいことに、太郎くんにもしてる。


 病院の救急病棟で、ついでの緊急家族会議って展開、ありえない。


 ちいと状況を考えんかい。

 リストバンドつけて点滴つけたまま、叔母さんも参加するって地獄を見そう。


 もう、ほんとに顔をしかめて、運転した。


 病院に到着すると、同じ頃にオババも到着した。

 オババのほうが近くに住んでいるのに遅かった。いつものことって顔つきで、まったく慌てた様子もない。


 気の毒なのは太郎くん。

 遠距離なのに、きっと必死で疲れた体に鞭打って、農作業って簡単に出てくることできないはずだろうに、きっと必死で運転しているんだろうな。


 太郎くん、いっそ詐欺師であってくれたほうが、気持ち的には楽だった。

 結婚詐欺師だったら、


「いやー、イトコがね、義理のイトコなんだけど、夫のね。そのイトコが、もうなんだか結婚詐欺にあって」


 なんて後から知り合いに話して。それで、うわー大変だったんだねって、ちょっとだけ盛った私の武勇伝を聞いた人々と大騒ぎして、それでお開きみたいな展開、むしろ、そのほうが良かった。


 なんなら詐欺師・太郎に、刀じゃないけど、なんかそういう武器、竹箒でも、ちょっと振り回して、古い日本映画「鬼龍院花子の生涯」の夏目雅子さんばりに、


「鬼龍院政五郎の娘やき、なめたらいかんぜよ」と、恫喝どうかつしたかった。


 それが、今、プロフェッショナルなお医者さんとか相手に、「そうですか」って、オババの隣で、うなずく役をしてる。


 叔母の普段の血圧やら、既往歴やら、そんなこと知らんがな。

 知りたくもないがな。

 オババは生真面目にお医者さんに対応しているし。


「ええ、そうなんですよ。これまでの病歴でいえば、盲腸と、それからなんでしたっけ、そうそう、痔を少々」


 痔を少々って……。

 お医者さまが下を向いてる。肩が一瞬震えたの見逃さなかったから。


 それにしても、ここは、なんてのどかな救急なんだろう。


 診察室のドアの前に、長い無機質なソファがあったんだけど、

 そこで待っている間も、あきらかに酔っ払って意識を失った男を、奥さんらしい女性が、ものすごく疲れた顔をして付き添っているし、 その隣では、母親と一緒に小さいな子が口に体温計入れてるし。


 なんていうの?

 ERのドラマにあるような、切羽詰まった緊急救命室って、そんな雰囲気じゃない。


「気道確保! 血圧100から50に下がってます!」って。


 すごい勢いでストレッチャーが運ばれてくる、そんな緊迫感ないから。

 血を大量に流した患者の横を、家族が「あなた!あなた!」と叫び。


「奥さん、ちょっと離れて!!」って、そんな救急場面、どこにもない。


 小さい子が体温計が挟まった口を必死に見ようとしているくらいの緊張感で。


 こんなものなの?

 夜の救急って。たまたま緊急の患者さんが少なかったの?


 まあ、その夜は、お医者さんの説明を聞いて、一通りの血液検査なんかして、叔母は腕に点滴つけて横になっているけど、集まった誰よりも顔色が良かった。


 優ちゃん。この程度のこと、自分だけで対応できる。

 39歳って、そういう年齢。


 結婚って、そういうことを難なくこなしていくことで、太郎くん、そういう優ちゃんを知っても結婚するって言っている。

 今は。

 でも、太郎くんが、そのうちに理解して、そうしたら、どうすんの?

 叔母さんみたく気絶して引きとめる?


 それ、究極の卑怯だから!


「なめたらいかんぜよ!」


(つづく)


 映画「鬼龍院花子の生涯」

 1982年制作、宮尾登美子氏の同名小説土佐の映画。

 侠客「鬼龍院政五郎」とその女たちを描く。

 出演:仲代達矢、夏目雅子

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ