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クロネコギター

作者: 山崎 モケラ

夢を捨てるのも破れるのも、そんなに悪いもんじゃない。

苦しいのなら、夢から逃げるのもいいのでは。

そんな、あなたをみてほっとする人が1人でもいるのなら。

とても、幸せなことだと思うのです。

いつもあたしは不思議に思っていた。

あたしは30歳。おととしに結婚して、いわゆる専業主婦だ。 でも、まだミュージシャンになる夢を諦められずにいる。 諦めきれずに、部屋でギターを弾きながら歌ったりしているのだ。


そう。

あたしが不思議に思うのは、お気に入りの黒いレスポールのギターで練習してい ると、どこからかお月様のようなまんまるな目のクロネコがベランダにやってく ることだ。

どこから来るのだろうか。


しかも、ギターを弾いてるのは2階だし。

一階の部屋にいるときに見かけたことはない。

必ず、2階の部屋。黒いレスポール。そして、最近気づいたのだが、現れるのはあたしが作った曲、Black Black catのとき。

必ず現れるクロネコに名前をつけた。



クロネコには『ブラッくん』と名付けて、あたしは水をあげてお近づきになろうとした。

すぐには、部屋にははいってこないかな?と、思った。

ノラ猫のようだし、警戒心が強そうなので。



Black Black catを弾き終わり、急いでベランダを見るとすでにもう、ブラッくんは居 なかった。

だけど、不思議なのだ。

ブラッくんに会うと、体が軽くなる気がする。

気持ちが軽くなってるだけかもしれないけど。



その日の夕食は、いつも笑顔で取りかかれるのだ。

ブラッくんに会うにつれて、あの子を家で飼いたいと思うようになってきた。


いつのまにか、胸を焦がしていたミュージャンへ夢は不思議なのだけれど薄くなっ ていった。

ギターを弾くのはもう、ブラッくんに会うためだけになり、自作の歌は歌わなく

なった。



一生懸命、 Black Black catを弾くとやってくる。

あたしは『今日こそ!家の中に入れる!』と、決めてたので、急いでベランダに 向かった。


ブラッくんは、ビックリしたようなまん丸の金色の目であたしを見つめてきた。

あたしは、用意しておいたネコのご飯をそっと差し出し、小さな声で『おいで』と、だけ呟いた。


ブラッくんはネコのご飯を見てそっと笑うような表情を浮かべて、優雅に食べ始めた。


食べてるところを捕まえるのは、なんか悪い気がしたが、そんなことは言ってられないので、ネコのご飯を食べてるところをハシッと捕まえ、部屋に入れた。


部屋に入れたブラッくんは慌てる様子もなく。

怒ってる様子もなく。

嬉しそうに、座るのにいいクッションの上に横になり、笑ってるような顔をして いた。



あたしは、言い訳みたいに『ごめんね。ここに住まない?』と、聞いてみた。



それ以来、ブラッくんはウチにいる。



夢はもう、消えた。

シャボン玉みたく。

あたしはいつも、焦燥感を感じイライラしていた。

たまに、精神科の薬も飲んだ。



それが夢がなくなったら、なくなった。

あたしは、幸せで。

ただ幸せで。

夫にも優しくなった。


ブラッくんのおかげだと、あたしは思った。

正確にいうと、ブラッくんがあたしを変えてくれたのだと思った。



そんなある日、ブラッくんが吐いた。

なんだか、真っ黒なもの。


血なのでは?

あたしは、ブラッくんを連れて動物病院に急いでかけつけた。

『これは血じゃないね。何かつらいものを吐いたみたいだよ』

優しいおじいさんの先生が、説明してくれた。

『この子は長い間、誰かのつらい気持ちを飲み込んできたんだね。

それがたまりに溜まって、吐いてしまったみたいだよ。

かわいそうに。』

あたしは、ハッとして立ちすくんでしまった。



夢が叶わない!叶わない!叶わない!

なんで!なんで!なんで!


そんな気持ち、全部ブラッくんがのんでいたなんて!


ブラッくんは、もう吐き出したからスッキリしたって感じの顔をして、診察台の 上で立ち上がった。

そして、おじいさん先生にペコリっとお辞儀のように頭を下げた。



ブラッくんを連れて帰り、ブラッくんに謝った。

泣きながらずーっと謝っていたら。

ブラッくんが、黒いレスポールにスリスリし始めた。 『これ?今弾くの?』と、手に取った瞬間。



スマホが鳴った。 何度もオーディションに行ったレコード会社からだった。

あたしが、もう、夢を諦めて始めたYouTubeを見て電話をくれたのだった。


夢が、今度は暖かくあたしを包んでくれた。



気がついたら、ブラッくんがいなくなっていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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