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175.生きるために

「マージ殿やコエ殿がそんな冗談を言う方でないのは十分存じておりますし、疑いは致しませぬが……。来たる危機というのが何なのか分からなくては備えようもないのではありませぬか? やはり魔海嘯なのか、それとも地震などの天災なのか、よもや天から太陽でも落ちてくるとなれば流石に手の施しようが……」


 ベルマンの疑問に、アンジェリーナも短い腕を組んで思案しつつ続く。


「現段階だと分からないことが多すぎるので考えるだけ無意味です。そもそも二千年ちょい前くらいなら歴史に残ってておかしくないのに、その賢者さんのことがほとんど語り継がれていないのも不自然です。そこから調べてみる必要がありますね」


「ひとつ言えるとすれば、鍵を開いた白狼の『王』とやらはひどい吝嗇家だったということですな」


「ほんとそれです。もっといっぱい開けてくれれば悩むこともなかったです。けーちけーち」


 星の雨に消えた『王』に苦情をぶつけるベルマンとアンジェリーナ。彼女らの言うこともよく分かるが、賢者が想定した筋書きはおおよそ察しがつく。


 危機が迫った時、【技巧貸与(スキル・レンダー)】を発現する人間、つまり俺が現れる。


技巧貸与(スキル・レンダー)】を発現した人間はスキルの貸与と回収を繰り返し、世界中に広がったスキルを根こそぎ奪って強くなる。そうして得た力で来たる危機を乗り越え、人類を救う。


技巧貸与(スキル・レンダー)】を戦う力としてのみ運用するならこれが一番強いのは間違いないのだから。アンジェリーナも納得したように頷いている。シズクの方も必死に話に食らいついているようだ。


「なるなるほどほど。単純にスキルポイントを吸うんじゃなくて、貸して利息として取るって性質にしてるのがミソですね」


「えっと、どういうこと? 吸うのじゃダメなの?」


「もし単に吸い取るだけの存在だと周りには迷惑でしかありません。世界全てを敵に回す可能性が高すぎます。けど貸し出す形であればいっちょ利用してやろうって人間がいるでしょうからね。徴税人と金貸しは違うって言えば分かりやすいです?」


 もしも俺のユニークスキルが【技巧貸与(スキル・レンダー)】でなく【技巧奪取(スキル・スナッチャー)】だとしたらどうなっていただろうか。スキルポイントをただ吸い取るだけのスキルで、アルトラたちから同じだけの量を奪うにはやはり六年かかるとしたら。


「……吸い終わる前に殺されていたに違いないな。だから複利の融資式か」


「です。ジェリが思うに、その賢者さん頭いいけどけっこう性格悪……」


 言いかけたアンジェリーナを、コエさんが笑顔で遮った。


「アンジェリーナさん、マスターは賢者の生まれ変わりともとれる発言が白狼よりありました」


「いっけね、です」


「賢者の人格はともかくとして、彼がそうまでして危険視した災害に備えたい。だが叶うなら……」


 賢者、そして『王』の筋書きはおそらくだが分かっている。


 しかし俺はそれにあえて逆らいたいと、これまで苦楽を共にした面々にそう告げた。


「俺が全てを吸い上げるのでなく、もっと別の方法を探したいと思っている。世界中の人間が努力して得たスキルを根こそぎ奪うのは避けたいんだ。そうやって危機を脱しても、きっと残るのは全てを失い傷ついた世界だけだろうから」


 この世の全ての剣を誰かが独占したらどうなるか。人は魔物から身を守る術を失い、ダンジョンを攻略する力を失い、その生存圏を大きく損なってしまうに違いない。独占した一人がいくら強かろうが寿命が来たらそこまでだ。


 俺の意図を理解してくれたようでシズクやアンジェリーナたちが小さく頷いた。


「つまり、マージが言いたいのは」


「ああ、俺一人でなく群れとして、軍として、国としての強さを手に入れること。俺はそれを目指したい」


 多くの亜人族を集め、様々なスキルの持ち主と繋がり、【技巧貸与(スキル・レンダー)】だけに頼らずあらゆる危機に対応できるよう力を蓄える。


「亜人の国を作るのは第一歩だ。皆にはそのためにこれからも協力して欲しい」


 シズクは背筋を伸ばしたまま、はっきりと答えた。


「して欲しい、じゃない。しろと命令してくれれば命をかけて尽くす。マージはボクらの王なんだから」


 アンジェリーナは両手の指を絡めながら興味深げに言う。


「ジェリは普通に乗りますよ。その大災害から人類が生き延びることは果たして不可能なのか、実に興味深いです。是非とも【技巧貸与(スキル・レンダー)】さんと答えを出したいです」


 そして、コエさんはいつもの通りに。笑顔を浮かべながらも揺らがぬ声で。


「私は、もちろんどこまでもマスターと共に」


 アサギにベルマンも少し困ったような顔をしつつ頷く。


「やれやれ、また忙しくなりますな」


「はっはっは、それこそやりがいがあるというものです」


 狼の隠れ里に住む者たちだけではない。


 アズラにレモンド、アビーク公。


 リノノにゲランたちキヌイの皆、そしてまだ見ぬ亜人族たち。地底で孵ったばかりの小さな蛇龍もその戦列に加わるかもしれない。アルトラたちは……なんとも言えないが。


 出会った全てとの繋がりを力に変え、皆と共に戦えばきっと乗り越えられる。そう思えるだけの強さが世界には満ちている。




「皆で戦おう。この世界で生きていくために」

第三部 永劫を生きる者

これにて完結です。お付き合いくださり、また一年も更新を待っていてくださりありがとうございました。楽しんでいただけたなら何よりの幸いです


章タイトルの『永劫を生きる者』はエルフを指すと同時に、過去から繋がる『王』や賢者、それにこれからマージが作りたい継続可能な世界をイメージしています


第四部については改めてお知らせできればと思いますので、また少し先になるかもしれませんが気長に待っていただけると嬉しいです


改めて、ここまでご愛読ありがとうございます。よろしければ感想もお待ちしております(返信はまちまちですが全て読んで励みにしております)


あと書籍版やコミックもどうぞよろしく…!

https://twitter.com/WalkingDreamer/status/1682586513605812225?s=20


https://twitter.com/WalkingDreamer/status/1686215628045316096?s=20


新作も電子コミックスが発売になります。初動が肝なので何卒

https://twitter.com/WalkingDreamer/status/1691656965108412791

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10月25日(月)
書籍1巻発売!
☆特典情報はコチラ☆
スキルレンダー表紙

カバー絵はチーコ先生
― 新着の感想 ―
[良い点] 3章完走おめでとうございます! いい最終回だった……あれ??
[気になる点] 賢者の名前はもしかしたらカオルウ…いやなんでもないです [一言] ゲランも戦力の一端なんだ(笑) 使えるもんはなんでも使いますな
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