聖女の昔話
唐突に重めの設定が入ってきますが、できる限りさっぱり説明を心がけているつもりです。
「俺は、ずっと10年間人を探していた。まあ、国から出れなかったからあんまり広範囲は探せていないんだが。」
「……10年間?」
そんなに星の魔力を持つ人が欲しかったのでしょうか?サルビア王国も人材不足?
私が首を傾げているとアオイ様は真剣な表情で私を見つめてきました。深い青の瞳に射貫かれて、息が詰まります。
「10年前、俺は星の魔力を持つ人に救われた。あの人のおかげで、俺は人間として生きることができているんだ。」
つまり……アオイ様が星の魔力を持つ人を探していたのは、その恩人を探すため?
ていうか、10年前とか大分前ですよね。私の人生の半分以上前。この城に来るか来ないかの頃。そしてサルビア王国の10年前というと
「あ……内戦があったころの?」
思い浮かんだ単語がポロっと口から出ます。
アオイ様は苦しそうな表情をして静かに頷きました。
(ああ、そんな表情を見たいわけではないのに。)
手を伸ばしたくて、でも伸ばせない私を保護者が苦笑しながら見ていました。
「俺はあの内戦で、実の父親に兵器のエネルギー源として使われていた。」
「はぁ?!」
「俺の父親は当時の王の弟。まあ色々あって王に反乱したんだ。そしてその内戦で死んだ。俺はエネルギー源だったから人格も人間性もほとんどないまま、ただ人を傷つけるための月の魔力を生産する道具になっていた。」
「……。」
私は何も言えなかった。
同時にアオイ様の顔が浮かぶ。
クレハは私が怖くないのかと尋ねたアオイ様の顔が。
「俺を裁くべきか、処罰するべきか、廃棄するべきか……色んな意見があった。結果的に俺には自分で考える人格すらなかったのだから罪はないが、人を傷つけるための月の魔力を生産する道具として廃棄されることになった。」
「そんなっ……。」
「当時の記憶はほとんどない。ただひたすら苦しいという感覚だけが喉や頭に絡みついてくるだけだった気がする。」
アオイ様は静かに目を伏せて語ります。
「だが、一応生物だからな。生存本能はあったのだろう。俺は国の外れの森に逃げ出した。」
アオイ様が顔を上げ、私と目を合わせます。
「そこで救われたんだ。」
黒い月を浄化するように。
月をかき消さんと揺れる水面を落ち着かせるように。
月を覆う雲を払うように。
「俺はそこで、夜空に輝く星を見た。」
本来魔物を払う神聖な月の魔力。
それを人を傷つけるために繰り返し使った。
人格さえ持つことができない俺を救う方法は無いと誰もが諦めていた。だから廃棄される予定だった。
それなのにあの日、星の光が、微かに瞬くように、俺のことを救ったんだ。
「それは……。」
私には分からなかった。私は森に捨てられた子どもだった。
物心ついた時には森でお願い事をして生きて、この保護者に聖女として城に連れてきてもらって
「クレハ。あなたの月の魔力は、彼のものによく似ています。」
「え?」
「あなたに、体から溢れる魔力を月の魔力にするように願えと言った時、あなたは泣いて首を横に振りました。月の魔力が分からないと。
コランバイン王国には月の魔力を持つ人物がいなかったので私は困りました。
けれど少しするとあなたはその魔力を、煌々と金色に輝く月の魔力に変質させて見せました。
どうしてできたのか。私が尋ねるとあなたは言ったのです。
「とっても綺麗なお月様を見たの。森に落ちてから。汚れてたけど、綺麗にしてあげたら、すっごく綺麗でね。だから、そのお月様になりたいなって思ったの。」
私はその時、あの森に月の魔力を持ったものが来たのだと察したのです。
そしてクレハ。あなたが憧れて、なりたいと願った月の魔力は、彼のものとよく似ているのです。それこそ、水面にうつした月のように。」
アオイの父親が内乱を起こした原因は当時の王であった実の兄との王位継承問題……と表向きはなっている設定です。本当の原因は兄の妻に対する想いがあったりしました。(一応サルビア王国の王族の血筋はそういう感情が部下に知れ渡るほどめっちゃ重い……という設定があります。)本編に細かく書くとめちゃくちゃごちゃごちゃすると思ったので、だいぶカットしています。
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