偽物聖女の事情
「アイカは小さな王国、サンダーソニア王国の病弱な姫君だ。病弱だし、気弱だから名前も存在もほとんど知られていなかった。
けれど、サンダーソニアの王族はほぼ全員が月の魔力を持って生まれてくる家系だ。
小さなサンダーソニア王国がこの、まあ結構大きめなコランバイン王国に半ば命令される形で姫をよこせと言われたんだ。」
私が偽物の聖女のせいで病弱なお姫様がそんな被害を受けているなんて……。
知らないところでの悲劇に息を飲んでしまいます。
「ところがもう1つの大きな国。10年くらい前に内戦があったサルビア王国だ。」
サルビア王国は知っていました。大きな国で、周りの国よりもずっと力を持っていたけど、内戦で少し力が損なわれていた国。コランバイン王国はそれに付け込んで国際社会で存在感を強めた節があります。
「サルビア王国の王様がアイカ様と恋人同士だった。」
「えぇ?!」
唐突なラブストーリーである。
というか、コランバイン王国めっちゃ悪者じゃない?立場の弱い国のお姫様(他に恋人がいる)を無理やり聖女として連れてこようとしたってことですか?
アイカ様、病弱で気弱で、恋人から無理やり引き離されるとか……めっちゃ悲劇のヒロインじゃないですか。
「あれ?でも、実際ここにいるのはアオイ様で……。」
「うん。大丈夫。クレハが想像した悲劇は起きてない。王はその恋を悲恋で終わらせるつもりが無かったからだ。」
ええっと……つまり?
「私は王の命によってここにいるということよ。アイカ様の身代わりとして。」
身代わり。言っていることは決して明るくはない気がするのに、そう言って笑うアオイ様はそれそれは楽しそうでした。役割を楽しむようにあえて女性らしい口調に戻してるみたいですし。
「え?いや、でもどうして?だって月の魔力は女性しか持てないはずでしょう?」
だからこそこの国の王子も誰も、月の魔力を持つアオイ様を男だなんて思わなかったんです。アオイ様はくすっと笑う。何処か艶やかさを含んだ笑みでした。
「そんなの、この国だけよ?」
「え?」
「昔々、愚かな愚かな、コランバイン王国の男の王族が、月の神を騙そうとした。だから月の神は決してコランバインの男に月の魔力を与えない。」
それは、どういうことでしょうか。
この国の神話は、月の神が人間を救ってくれる話です。魔物から守ってくれる話でした。だからこの国の人間は月の神を、月の神だけを信仰するのだと。
「月の神は、自分を騙そうとしたコランバイン王国を許したくなかった。自分を作った星の神や他の神にも同じように危害を加えるかもしれないと思った。
だから月の神はコランバインの人間に言った。『月の神だけを信じれば最低限の加護は与えよう』と。他の国では結構有名な話だ。」
この国としては不名誉な話だから、抹消されてるかもしれないけどね。
アオイ様はくすくす笑います。
いや、待て。今の話の中に重要なことが紛れてませんでした?
「星の神が、月の神を作った……?」
ぴたり。アオイ様が動きを止めます。真顔のアオイ様はゆっくり私に向き直りました。
「そうだよ、クレハ。月だけを妄信し、星を尊ばないコランバイン王国を俺が好きになれない理由が分かったかな?」
アオイ様の言葉は半分私の頭を通り過ぎていました。
「じゃあ、星の魔力は……。」
「星の魔力を知ってるのか?コランバイン王国には夜空系の魔力は月しか知られていないと思ったけど。まあ、聖女なら魔力の教育を受けたり」
「星の魔力はどういうものなんですか?」
アオイ様は少し戸惑ってから頷きました。名前だけ知っているのだと思ったんでしょう。
「星の魔力を持つ者は、月の魔力を持つ者よりもずっと少ない。それこそおとぎ話の中の存在に近い。
月の魔力は偶然と、それから月の神が加護を与えた一族が多く持つ。だからサンダーソニア王国のように一族で月の魔力を持つ存在がいるんだ。
ところが星の神は大変気まぐれで自分が気に入ったものにしか魔力を与えず、それは引き継がれない。つまり偶然でしか授かる可能性がないんだ。」
「つまり、とても数が少ないんですね。」
「うん。それに月の魔力は魔物を拒絶する特性があるが、星の魔力には願いという特性がある。できることの幅が他の魔力とは段違いなんだよ。」
火の魔力で火を操れる。水の魔力で水を生み出せる。風の魔力で空を飛べる。
けれど、星の魔力は結果的にそのどれもを叶えることができる。火を操りたいと願って魔力を使えば火を操れるし、水を生み出したいと願えば水を生み出せる。
空を飛びたいと願えば風の力を使わなくても飛べる。もちろんわざわざ風を起こして飛ぶことも可能だが。とにかく星の魔力は何でも叶えることができる魔力。
そんなことをアオイ様は語った。
「つまり星の魔力を持つ人間がいるなら、どんな国も欲しがるだろうな。まあ月だけを見るコランバイン王国は別だけどな。」
「そうなんですか……。」
「まあ実は俺も星の魔力を持つ人を探しているんだけど。」
「もしかして、アオイ様の探し人って星の魔力を持ってる人なんですか?」
「まあな。」
私はその言葉にそっと手をぎゅっと握りしめました。
アオイ様が探しているのは星の魔力を持っている人。
どんな国も欲しがる人をアオイ様も探しているんですよね。
それなら、知られるわけにはいきません。
知られてしまったら、きっとアオイ様との関係が変わってしまいます。
こんな気楽に話せる関係じゃなくなってしまうかもしれません。
……だって私は月の魔力ではなく、星の魔力を持っているんですから。
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