聖女はもつ鍋を食べる
新月祭の日。一応王子は許可をくれたみたいです。
しかし、なんだか護衛がめちゃくちゃたくさん。……私の時はもっと少なかったですよね。やっぱり私とアオイ様じゃ重要度が違うんだろうなあ。
そんなことを考えていると護衛に
「ぴったりお二人にくっ付いて護衛するようにと、王子に言われています。」
と宣言されました。
「……チッ。」
隣からさりげなく舌打ちが聞こえました。アオイ様、意外とワイルドです。
あんなに綺麗で上品なのに舌打ち。……聞き間違いかもしれませんね!うん。千とか毛とかナとかと聞き間違えたのかもしれません。え?音が全然違う?これだと聞き間違えじゃなくて書き間違えだって?細かいことは気にしてはいけません。ただの現実逃避なので。
「たくさんの灯り……。」
「はい。たくさん灯りを灯して、月がない夜を明るくするお祭なので。」
町にはたくさんの灯りが飾られ、色んな出店も出ています。しかしアオイ様の表情はどこか暗くて……
「星の光もかき消す灯り……。月がない夜こそ、星に感謝する機会だというのに。」
アオイ様の言葉に空を見上げます。
微かな星明かりは灯された光によって見えません。月がない空はまるで暗闇しかないように見えます。でも、見えなくてもあることを知っていてくれる人がいれば良いんじゃないかな、なんてことを思ったけれど、アオイ様には言えませんでした。
それよりも私にはしなくちゃいけないことがあります。一応毎回それで最後でいいようにしていたけれど、本当の最後はもう目の前に迫っています。聖女じゃなくなった時点でやめるつもりだったけれど、まだ国の中心にいるならやっておかなくてはいけません。
そっと抑えていた魔力を目立たない程度に放出していきます。たくさんいる人の生命エネルギーに紛れて見えないように。魔力が光っても、祭りの光と見間違うように。城には一応結界が張ってあるので魔力を流すとばれてしまいます。だから私はいつも新月祭の夜に、魔力を国中に流していました。
―――――私がいつ、いなくなってもいいように。
アオイ様と一緒に出店を回って、屋台の串カツやら、焼き鳥やら、焼き菓子やらを食べました。今日の夕食はこれで十分ですね。うん。屋台の料理って美味しいですよね。城だとがっつりお肉とか食べにくいですから。
「見てください、クレハ!もつ鍋ですよ。食べましょう!」
「もつ鍋……。」
お肉は大好きな私ですがもつ鍋と聞いて少し戸惑います。だってもつって内臓ですよね?なじみが無いので少し引いてしまいます。
「大丈夫。ここは牛もつみたいですし、牛肉が好きなら美味しくいただけますよ。焼き肉のカルビとか好きですよね。」
「まあ好きですけど……。」
「ニラもニンニクも唐辛子も入って、しっかり本格派みたいですよ。お椀に盛って頂けて、〆にはうどんかラーメンが選べるそうです!」
「それって出店でやるレベル超えてませんか?!」
アオイ様は意気揚々ともつ鍋を2つ注文してきました。
「はい。クレハ。」
「……ありがとうございます。」
恐る恐るもつ鍋を食べてみます。
「……!!」
牛もつはふわふわした口当たりで、でも最後の方は歯ごたえがある感じでした。
「ふわトロで、味が濃厚です!!」
「でしょう!美味しいわよね、もつ鍋。」
牛の脂身的な旨味がたっぷりでした。でも新旧聖女2人でもつ鍋を食べるってすごい図じゃないですか?
そんな感じで、アオイ様は護衛が多いからかなんかソワソワしていたけれど、概ねいつも通りだったと思います。だから
「クレハ。どうして魔力を流してたの?」
気付かれていたとは思いませんでした。
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