氷の世界1
ーー21:40。
怜は自分が監禁されていた小屋の近くに到着した。倉庫へ行くか小屋へ行くか迷ったが、男達が22:00から怜を嬲る話をしていたので、入れ違いにならないようにこっちに先に来たのだ。
茂みから小屋をうかがう。人の気配はないが一応調べておく事にした。
扉に近付くと、南京錠は落ちっぱなしで怜が出て行った状況と全く同じだ。
……暫く待つが、誰も来ない。
これは、倉庫に一度行った方が良いかと判断して、倉庫へ走り出す。
春頃の気温とはいえ、もうすぐ初夏に差し掛かる頃合い、段々と気温が上がっているが、陽が落ちて今は涼しい。
……涼しい?
怜は立ち止まる。通常の速度とはいえ走っているのだ。体を動かしているのに涼しいと感じるのはおかしくないか? と自問自答する。
嫌な予感がする為、速度を上げて倉庫へ向かった。
♢♢♢
速度を上げて数分後、倉庫が見える場所まできたのだが、そこは霜が降りた世界になっていた。
倉庫前の開けた芝生の霜が月明かりにキラキラ輝いていて綺麗だ。
思わず見惚れる……が、そんな場合では無いと、倉庫へ近付く。近付けば近付く程寒くなっているようだ。
だだっ広い倉庫は、冷凍庫か? と思うくらい寒い以外は特に何もない。怜がカシラと会った部屋の方向がより寒いので近付くと、ドアは空いているのに、氷が張って中が見えない。
このドアは確かに昼間ただのドアで氷なんて無かったはず。
氷の薄い部分にダガーを叩きつけると、入り口を塞いでいた氷が一気に割れた。
そこには、何か叫んでいるような格好で氷漬けになっているカシラ含めた男達がいた。部屋全体が氷の世界となっている。
これは見事に凍ってるわーと男達を観察しながら中に進もうとした時、足元にフード付きコートを被った物体が小さく丸まっているのを見つけた。
まるで、最初に会ったゼロスフィリアと同じ服装だ。
「って、フィー君!?」
駆け寄り、フードを取るとゼロスフィリアだった。目は開いているが何も写していない。
肩を揺するが何も反応しない上に、体が物凄く冷えている。
取り敢えず、ゼロスフィリアを温めないと危ない。これだけの倉庫跡地なのだから、休憩スペースか居住スペースもあるだろうと、一度ゼロスフィリアから離れ、倉庫付近を探索する。
すると、倉庫側では無い扉の廊下を進んだ所に男達も住んでいたであろう居住スペースがあった。複数ある部屋の中から空調装置があり部屋の暖まりが良さそうな部屋を見つけると、すかさず暖める。
怜が使えるタイプの空調装置で助かった。ベットの近くに毛布もある事を確認すると、すぐにゼロスフィリアの元に戻る。
「フィーくーん。戻っておいで〜」
声をかけるが変わらず反応が無い。自分より1回り大きいゼロスフィリアを運ぶのは一苦労だが、しょうがない。
一苦労と言いながら、怜はゼロスフィリアを難なく肩に担ぎ上げる。
ーーカシャン
何かが足元に落ちたようだ。視線を向けると怜の眼鏡だった。どうやら、ゼロスフィリアが怜の眼鏡を持っていたようである。
「冷たッ! 」
何気なく眼鏡も拾ったが、フレームが金属の為、キンキンに冷えていた。
そりゃそうかと思いズボンのポケットに入れゼロスフィリアを抱え直し、足早に先程の部屋に向かう。
部屋に着くと、ゼロスフィリアをベットに転がし、湿って冷え切ってしまっている服を下着以外脱がせる。部屋の持ち主の服を失敬し、ゼロスフィリアに着せ、毛布の中に押し込むと怜も同じベットに入ってゼロスフィリアを抱き込み温めながら考える。
恐らく、あの氷の世界を作り出したのはゼロスフィリアだろう。体は冷え切ってはいたが、意識が落ちてしまう程の低体温症にはなっていないように感じるし、Sランク冒険者のゼロスフィリアが自分も巻き込んでしまう魔法を発動するだろうか? 発動したとしても、故意か別の原因ではないかと推測する。
やはり心因性のものだろうかとポケットに入れていた眼鏡を取り出す。死んだと勘違いでもしたんだろうか? でも死体も見ずにそんな勘違いするようなゼロスフィリアでは無いと思ってたんだけど、言葉たくみに騙されてしまったのだろうか。
「俺はそう簡単には死なないよ」
ゼロスフィリアのサラサラの髪をすきながら語りかける。
狩の時にも、気配を消していく様子に怯えていたけど、俺の存在はそんな大きいものになってたのかな。
元いた世界の表の仕事でも、家業の次期頭首候補という立場さえも、所詮組織の換えがきく歯車でしかない為、ここまで”怜“という個人を必要としてくれるのがなんだか新鮮だ。
「早く起きて、また狩りに行こうよ」
ーー静かな室内に怜の声だけが室内に響いた。




