邂逅4
それから暫くとんとん背中をさすってやってたら、フード男も落ち着いたようで、外したピアスを元の場所につけ席に戻っていく。
トゲトゲしかった雰囲気は薄れ、淡々とイヤーカフを付けて向かいの席に座り、気恥ずかしそうな表情を浮かべながら俺を見た。
……デレた。これが噂のツンデレかな。出来れば女の子で見たかったけど。
まぁ、俺の性格上仕事でなければ、ツンデレに声をかける事すらしないから生で見れただけでも貴重な体験かな?
取り敢えず、直感で「大丈夫だよ」と声をかけたものの、事情も状況も何も分からないことは変わらないので、ひとまず
フード男ことゼロスフィリアという名前
ーー俺が呼ぶ時は勝手にフィー君と呼ばせてもらうーー
側のこれまでの経緯を話してもらう。
……明らかに不審人物の俺に心を開いてくれたようで? 素直に話してくれるフィー君にはちょっとお兄さん心配になっちゃうけどね。
経緯としては、町中を歩いていて偶然、異国の容貌をした良い所のお坊ちゃん(俺)を見かけた。
……こちらに来たばかりの情報収集をしてた所だね。
従者も居らず異国の顔立ちで普通はもっと目立ってもおかしくないのに、そこにいるのに印象が残らないので、魔法でも使ってるのかと思えば特に使ってる様子もない。
……あんまり印象に残らないように半分気配消してたからね。半分しか気配消さなかったのは、間者とかと間違われるの防止。俺は魔法使えないし。
寧ろ魔力が少なそうで明らかに弱いと分かるのに、フィー君の直感が危険人物と告げていたので少し様子を見る事にしたそうな。
路地裏に行って男達に囲まれて、危険と直感した何らかで対処するのかと思えば、明らかに誘拐なのに誘拐に気がついて居なさそうな会話の後、本当に大人しく付いて行き逃げるそぶりも助けを求める素振りもしない為、一度声をかけた。
ただのアホかと思ったが、見れば見るほどやはり直感は危険人物と告げるし、その割には魔力も明らかに少ないし危険人物と告げる割には正面からみて負けるとは感じなかった為、直接聞けば分かるかと実力行使に出た。
それが、あの壁ドンもどき。
……うん。なんか1人ずっとついてくるなぁとは思ったよ。でも、どんな立場の相手かも分からずこちらの手札を見せるなんてリスク追いたくないし、最悪間者疑惑で捕らえられたら限りなく生存率下がるでしょう。
それに、この世界の情報を少しでもくれるなら悪人でも誰でも良かったし。いや、寧ろ悪人の方が後腐れないかな。単純そうな人達だったし。(黒笑)
そして、壁ドンもどきで俺に触れた時、やはり魔力が少ないと確信し、武器も持って居なさそうだった為、俺の提案にのってここ地下酒場へ来たそうな。
……先程から出てる魔力の話だけど、ここの世界は魔力の多さで強い弱いが分かれるそう。
ここの世界の強い人(魔力量多い人)達は自分より魔力量が多いか少ないかは大体分かり、その中でもフィー君は相手にさわれば触った相手の魔力量がほぼ分かるんだって。
因みに俺は赤子並みの魔力量らしい。
……日本で魔力鍛える術なんてないからね。
というか、ここは魔法が使える世界なんだね。なんてファンタジー。
で、この魔力の話が”耐魔制御”とフィー君が泣いちゃった話にも繋がる訳だけど、要するにフィー君の魔力量は化け物並みに多く、魔力抵抗が高い素材を使用したアクセサリーや服を身につけることによって、体の外に出る魔力を抑える効果があるそうな。
耐魔制御のアクセサリーや服は魔力量が多い者は周りへの影響を考慮して付けるのが当たり前というこの辺りでは一般常識だったらしい。
ただ、これらを付けていても完全に魔力を遮断出来るわけではなく、フィー君の場合は特に多く滲み出る魔力のせいで、人々には恐れられているということだった。
なので、しらを切ってるのか強がりなのか本当に耐魔制御の意味が分からないのか、俺を試すつもりでひとつずつ取っては反応を確かめて居た、これがチラチラワンコ君の心情だったようです。
因みにイヤーカフを外して近付いてきたのは、本当に大丈夫なのかという事の確認と、気絶でもして椅子から落ちてケガさせたりでもしたら困るからの気遣いだったらしい。
……やっぱり優しい子だった。年齢聞いたら25歳だったから子ではないけども。でも先程からワンコにしか見えなくて。
こちらの常識だと戦闘員でもない一般人の場合、イヤーカフを取った位の辺りから、魔力にあてられて錯乱したりするそうな。
……こわっ。
そして、なんと12歳まで付けてた質の良い耐魔制御のピアスが壊れて以来、耐魔制御のアクセサリー・衣服越しですら殆ど人と触れ合うという事が無かったため13年ぶりの人との触れ合い、しかも手袋越しではないという事実に思わず涙してしまったという経緯でした。
……いや、切なすぎるでしょう。12歳って日本でいうまだ、中学1年生よ。いくら男の子といえども、その年から触れ合い0で周りからも恐れられるって、それは泣いてしまうのも不可抗力だね。
あらかたフィー君側の事情を聞いた後はこちらの話。
魔法なんて出て来た時点でほぼ異世界だなと思ったので、「異世界から来たみたい」と告げた所、素直に納得されました。
……納得早っ!?
というのも、魔力量絶対主義のこの世界じゃ、フィー君に正気で触れるのはフィー君より魔力が多い者以外は無理らしく、赤子並みの俺が触れているのがもう常識外だから、異世界人だと言われた方が納得出来るらしい。
「と、いう事でフィー君にお願いがあるんだけど、あ、フィー君って勝手に呼んじゃったけど、フィー君で良い? 普通はゼロなんだろうけど、ありきたりなの好きじゃないんだよね。あと言葉崩して良いかな?」
ゼロスフィリアはじっと怜をを見つめた後、コクリと頷く。
……どれに対しての肯定か分からないけど、全部OKと言うことにする。
「……お願いの内容なんだけど、さっき言った通りどーやら異世界に来てしまったようで、こちらの常識が全く分からないだよね。なので、フィー君が可能な範囲で良いから暫くサポートしてくれないかな? サポートと言っても俺が質問した時にこちらの常識を答えて貰ったり、こちらの常識外の事を俺がやろうとしてたらそれを指摘して貰えたらと思うんだけど、どーだろ?」
ゼロスフィリアはグラスの中の飲み物を一口飲んでから、じっと怜を暫く見た後
「……お前が、俺の側にいる限り、面倒を見よう」
と、了承してくれた。
……なんか、色々含んでるような気もしなくもないけど、まずは協力者ゲットと言う事で良いかな。
「ありがとう。あと俺の名前はクサカベ・レイ。名前がレイだからレイって呼んで」
と言って右手を差し出す。
右手を凝視してるフィー君。あれ? 握手文化は無いのかな? と思ってるとそっと右手を差し出してきたので、有耶無耶にする為強引に手を掴んで握手する。
「よろしくフィー君」
「……よろしく。……レイ」
因みに上着を脱いだゼロスフィリアの仕立ての良さそうな服装と最初の注文っぷり、誘拐犯への対応を見て、お金には困ってなさそうであり、先程握手した時にも感じた相当な手練れ感、口はちょっと悪そうだけど、裏切るなんて事しなさそうな素直な良い子で、面倒見も良さそうな良い協力者を得られたなと思わずほくそ笑んでしまった。
……悪役っぽいかな。だって危険だって直感告げてたようなのに、その危険が何なのかちゃんと確かめもせずに協力するなんて言っちゃって、悪い大人に騙されちゃうぞーと思って。まぁ、俺も気に入ったから使い潰すなんてしないけどね。
ーー怜は気がついていないが、魔力が相当あるが為に人との触れ合いがなかったという特異な人物が、正しい常識を語れるはずがないことを知る日は来るのだろうか。




