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初めての解体屋2

 怜はギルドと違って建物自体はそんなに大きくないこの店にどの位の奥行きがあるのだろう? と思っていた。宿からギルドへ向かう途中にこの店はあったのだが、裏にも店が隣接していた為、大きい建物には見えなかったのだ。


 そんなことを考えながら、エギルスに指定されたドアを開けて中に入る。

 と、ドアをを潜った瞬間、全身がゾアっとした。

 思わずダガーのある腰元に手が伸びかけた怜に、ゼロスフィリアが声をかける。


「魔法がかかってるだけだ」


 それを聞いた怜は何事も無かったように、エギルスの方へ向かう。

 そこは想像以上に広い空間で、奥にはそれぞれの作業台や、シートの上に置いた魔物を解体している人達がいた。”中”とは作業場のことだったらしい。


「お店ってこんなに広かったんですか?」

 と、1つの作業台に魔物を並べているエギルスに話しかける。


「おう。来たか。次元魔法だか空間魔法だかで、ここは特殊な場所になってんだ。いくら街の端の方とはいえ、魔物の血の匂いが大量にしてたら、他の魔物が寄ってきちまうからな」


 確かに、外を歩いていた時にはまさかここで解体作業をしているとは思えない程、血の匂いがしなかった。どーやら外に漏れないようになっているらしい。


「なるほど。あと、ドアを潜った時ゾアっとしたんですが、この空間に入ったからですか?」

「ゾアっと? あー、それもあるかもしれないが、”洗浄魔法”の事か。ここはもう直接解体も出来る作業場になってるから、入る時と出る時は自動で”洗浄魔法”がかかるようになってんだ(それにしても、やっぱりコイツはボンボンか。洗浄魔法を知らないとは。貴族は洗浄魔法じゃなく”風呂”を使うと聞くし……)」


 じーっとこちらをうかがうようにエギルスに見られている事に気がついた怜は、このまま無視していてもよいが長い付き合いになりそうだし、とちょっとした補足を入れる事にした。


「あー。ちょっと遠い東の方から最近来て、ここ辺りの常識を知らないんです。良かったら色々教えてくださいね」

「東の方出身なのか。どーりでここら辺じゃあまり見ない肌色だと思ったぜ。ここは色々な人種が集まる街だが、それでも東の島国の奴なんかは殆どこちらに来ないからな(このレイの雰囲気といい、何処ぞの貴族様のお家騒動に巻き込まれて避難でもしてきたか? 関係はないが、なんか協力出来ることはしてやりたいな)

何かあったら相談してみな。今は解体中心だが冒険者登録もしてるから偶に狩もするし、この街に知り合いも多いからな」

「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします」


 ゼロスフィリアは後ろで黙ってこのやり取りを見ていたが、内心”この人たらしが”と怜に対し思っていたのだった。


♢♢♢


 なんだかエギルスに気に入られたようだ。最初に怖がらなかったからかな? と怜は思いつつ、本題に戻る。


「あ、じゃここに出しますね」


 と、言って隣の空いている作業台にブーブの胴体を出した。何せ、3メートルはある巨体なので、カウンターよりは広いといえど、ホーンラビットなどが並べてある同じ作業台には置けなかったのだ。


「え、おま、え?」


 エギルスは何か呟いていたが、気にせず頭部分も出す。この角が立派なんだよねー。元いた世界では密猟とかもあった位だし、高く売れるかなぁと呑気に怜は考え、エギルスをニコニコ見つめていた。


「お前、昨日冒険者登録したばかりのFランクってさっき言ってたよな?」

「そーですけど」

「南西の森に行かなかったのか?」

「あー、フィー君……じゃなかった、ゼロスフィリアが着いてくれてたので魔の森の浅い部分に行きました」

「……やっぱり、”死神ゼロ”だったか。何となくそれっぽかったんだが、いつもの姿じゃなかったからな。(いつもの近寄るなオーラも少なかったし。……でも、納得だ。ゼロスフィリアならブーブでも護衛しながら、倒せるか)」


 エギルスは何か納得しているように、うんうん頷いていた。

 そして、それぞれの場所で作業してた人達も、自分の解体作業の手を止めてワラワラやってきた。


「ブーブじゃねぇか」

「久しぶりだな」

「最近あまり見かけなかったからな」

「ギルドに卸してくれるのかね」

「綺麗な切り口だな、しかも新鮮じゃねぇか」

「おい、その首以外どこも傷付いてないぞ」

「ホントかよ」


 などのやり取りがなされていたので、怜は質問した。


「そんなに珍しいんですか?」


 一瞬、騒ついてた作業場が静まりかえる。


「坊ちゃん最近こっちに来たらしいから、知らなくて当然だな」


 と、エギルスさんが周りの作業員への説明兼ねて回答をしてくれる。

 ……それにしてもまた坊ちゃん。


「ブーブは、人の魔力に敏感でこっちが視認する前に逃げちまう事が多いんだ。だから大抵は罠だったりで捕まえる事が多いな。怒った時のこの角での攻撃も厄介だし、皮自体もなかなか頑丈でDランク魔物の中でもCに近いと言われているし、それだけレアな魔物なんだ。

それにしても本当に綺麗な切り口だな。(氷系だったら断面が凍るし、炎で焼かれた形跡もないから、風か? 風でこの切れ味としたら、どんだけ魔力込めたんだ?)」

「? あー、”刀”で切るとそんな感じの綺麗な断面になるようですよ。一流が扱うと切られた事も気付かない位ぴったり断面と断面がくっつくとか言われてますね。私はついつい力入っちゃって、首おもいっきり飛ばしちゃいましたが」

「あー。東の方の武器だったっけか。(それにしてもさっき”私は”とか聞こえたが、ゼロスフィリアが倒したんじゃないのか? )」



 エギルスや作業員達は何だか色々聞きたそうな感じではあったが、面倒くさくなってきた怜は微笑みで誤魔化した。

 そんな怜の空気を読んだエギルスは、周りに集まってきた作業員達を戻るように促し、話を進める。


「この肉は全て常時依頼の肉の納品で良いのか?」

「はい」

「他の部位はどうする? 持ってかえるか、そのままギルドに卸すか」


 怜は後ろにいるゼロスフィリアをうかがうと、頷かれたので、ゼロスフィリアの頷きは”好きにしろ”の意味だと解釈し、素材は全部売る事にする。


「全部ギルドに卸します。あ、魔石は欲しいです」

「分かった。急ぎでなければ査定額と魔石については明日以降でも良いか?」

「構いません」


 怜が回答すると、エギルスはエプロンのポケットから銅板のような少し光沢のあるクレジットカードみたいなカード? を取り出し、空中にウィンドウを開き何か書き込んでいるようだ。


 じっと怜が見ている事に気付いたエギルスは解説をしてくれる。


「これも、ギルドカードと似た仕組みの記録カードだ。以前は紙に書いてたんだが、汚ねぇ字で分かり辛いとか、紙を誤魔化して実際の納品数と記載の納品数が違うとか、燃やすやつがいたりと色々あってな。まぁ、紙と違ってコストもかかるから、ギルドカードと違って、この記録カードを利用してるのは王都や大きい街くらいらしいけどな」


 怜は燃やす状況ってどんなだ? とは思いつつもまぁいいかと突っ込まなかった。


 その間もエギルスはテキパキ書き込みつつ、納品するものについて最終確認をし、記録カードを怜に渡す。


「常時依頼の報酬は査定後になるが、依頼達成はこの記録カードに記載してあるから、ギルドの受付に一緒に提出しな。で、明日以降このカードを持ってギルドの買い取りカウンターに行けば、報酬と魔石、矢等受け取れるようになってっから」

「分かりました。エギルスさんご丁寧にありがとうございます。今後ともよろしくお願いしますね」


 と、怜はエギルスにお礼を言うと、洗浄魔法のかかるドアを通って解体屋を後にした。


 洗浄魔法に慣れず、一瞬ビクッとなる怜を見たゼロスフィリアは何処か楽しそうだった。

※怜は東の方から来たと言って国は特定していませんが、エギルス達は東の方=東の島国だと思い込んでます。

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