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第10話 混乱する城内


 アリスト王国の城内では、数日前にカトラスタ王国よりもたらされた通達によって、城を上から下への大騒ぎとなっていた。


「なぜ、急に帝国まで我が国に訪問することになったのだ?」

「なぜと訊かれましても……しかし、カトラスタの王子も来るということですから、なんとかなるのではないですか?」

「まあどうにかするしかないな……いや、考えようによっては帝国と直接繋がりを持つ良い機会かもしれないな」


 宰相のマエロは少し落ち着いた様子でニヤリと笑う。


「それにしても、ミーリア様は一緒ではないのでしょうか? 王子もいらっしゃるのに」


 従者がそう言うのを聞いたマエロは確かにと思う。しかし、従者は知らないがマエロはミーリアがルーナであると知っており、アリストの内情を知ろうともしなかったルーナに何か質問でもされて、ボロが出るといけない為、今回はいない方が良いとも思う。


「まあ、カトラスタの城で楽しく過ごしていらっしゃるのだろう」



 その翌日、アリスト王国の城へ到着したバルト帝国とカトラスタ王国の一行を見たマエロは、その予想外の規模に言葉を失っていた。カトラスタ王国の兵士達の数は数十というところだが、帝国の騎士と兵士の列は城の門から続く道の果てまで続いており、終わりが見えない。


「ようこそいらっしゃいました。私宰相のマエロと申します。まさかこのような大軍勢でのご訪問とは知りませんでした。さすがですな帝国は」

「そなたがマエロか。いや、これでも9割の兵士達はカトラスタに置いてきたのだ」


 皇帝オスラが事も無げに放った言葉に、マエロは絶句する。帝国のことは風の噂程度でしか聞いたことがなく、交流もなかった為、時に誇張された話が流れ着いたのだと思っていた。しかし、今聞いただけでもその規模が桁違いなことが分かる。


「さ、さあさあ城へお上がりください」


 マエロの案内で、一行は城へ入り広間の最上の席へ座る。食事が運ばれ、音楽が奏でられるのを聞きながら、ベールの下でセリアは、前回自分が去る時とは様変わりした、豪華な城の様子に驚いていた。同時に、道中で見かけた村はあまり変わり映えがしなかったことを思い出し、疑問が湧いてくる。


 和やかに始まった宴は、しかし、マエロが放った何気ない一言で一変する。


「時にラナハルト王子、ミーリア姫はカトラスタ王国の城にお留守番ですかな?」

「ああ、もう戻ることもないであろう」

「そうでしたか、それは良かったです。ご婚約されたのですね、おめでとうございます」

「ああ、愛らしい帝国の姫を妻にできることはこの上ない幸せだ」

「それは、ようございまし……た……? 王子、今何とおっしゃいました? 帝国の?」

「ああ、我が妻になる予定の姫と今日はこうして来たのだ」

「姫……では、ミーリア姫は……?」


 マエロが状況について行けずに慌て始めた時、アイーダの声が響いた。


「マエロとやら、今回はただ伝えに来たのだ。この王国を本来あるべき姿に戻すとな」


 その静かだが凄みのある声にマエロがビクッと震える。セリアは祖母が帝国の作法を破って声を発したことに驚いていたが、グッと顔を引き締めると立ち上がり、そして静かにベールを外す。

 その姿を見たマエロは、驚愕の表情でワナワナと震え始めた。何か言おうとするも、息だけが抜けて、酸素不足の魚のように口をパクパク動かしている。


「マエロ宰相、私を覚えていますね。セリア・アリストです。ルーナ姫は戻ってきません。ここへ来る途中、王国の様子を見ましたが復興はうまく行っていないように見受けられました。ですので、今後は私が引き継ぎます」


 セリアが決意を持ってマエロにそう言うと、広間にいた貴族や兵士達が驚きの目で見るのが分かった。

 そして、敢えてセリアは宰相の思念を受けることにして思念の能力を解放する。


……まずいぞ、せっかく思い通りにできていたのに、なんとかカトラスタの王子を味方につけられないものか……


 その思念を受けたセリアは、毅然とした態度でマエロに向き合う。


「マエロ宰相、貴方の味方をするカトラスタの王族はいません。カトラスタはかつて援助をしてくれましたが、それは1権力者の為ではなく、国の建て直しの為、民の為でした。権力者が、自分の私利私欲の為に協力を仰いでそれに応えてもらおうなど、カトラスタ王国への侮辱も良いとこです。貴方にはきちんと裁きを受けてもらい、これからの国政は真に国民のことを考えられる者達と進める予定です。トラス、お願い」

「そのようなことは許しませぬぞ!」


 トラスがマエロを拘束しに動き出した時、マエロは手前にいるセリアへ向かって走り出した。マエロの手が伸ばされ、セリアへ届こうとした時、皆の耳にブォンという風切り音が聞こえた。そして、マエロが後ろに吹っ飛ばされる――。


「お祖母様?!」


 セリアは、以前似たような光景を帝国で見たのを思い出して、すぐ側に座っていたアイーダを見る。


「ははは、私だとよく分かったな。だが、剣は抜いておらぬから安心せよ。抜くまでもなく鞘で十分であった。大方、セリアを人質にでもするつもりであったのかもしれぬが愚かな奴だ。我が前でそのようなことが出来るわけがない」


 ラナハルトは元より、帝国以外の者は皆唖然としていた。


「あ、ラナ、驚いたわよね。お祖母様は強いのよ」

「強いどころじゃないだろ?!」

「ははは、我が妻ながら惚れ惚れする。さすが戦姫アイーダだな」

「戦姫アイーダ……って、俺小さい頃にそんな物語を読んだことあるぞ! まさかな……」


 そんなことを話している間に、トラスはひっくり返っているマエロを縛って、顔見知りの兵士へと預けており、甲冑を取ったトラスを見たアリストの兵士達の間には驚きが走っていた。



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