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第15話 可能性


 アリーの腕の赤い斑点を見た時、セリアの脳裏には、自分が天空塔で毒入りの食事を食べた時のことが蘇っていた。あの時は紫の斑点で、後からそれがルリアンという毒であるとラナ達に教えてもらったが、今アリーの腕にあるのは赤い斑点で、毒なのかは分からない。セリアはアリーに訊いてみることにした。


「ごめんなさい、腕にある赤い斑点が見えてしまったのですけど、それは病気によるものですか?」

「私も気になって、お医者様に訊いてみたのですけど、多分虫によるものだろうということでした。私、庭で草花の世話をするのが好きなもので、多分その時、虫に噛まれたのだと思います。お見苦しいものをお見せしてしまいました」

「いいえ、そんなことないです。そうなのですね……お庭は綺麗に手入れされていましたが、アリーさんがされていたのですね。他にはどのような症状が出ているのですか? 差支えなければ教えてください」

「え、ええ。あとは、熱や頭痛、最近は手足が痺れることも時々あります」

「痺れ……そうなのですね……」


 セリアはその症状を記憶すると、「今日はこの辺で」と言ってジャンセン家を去ることにした。


 帰りがけに、ふと視線を感じたのでその方向を見ると、隣の家の庭に1人の女性がいるのが見えた。セリアの視線に気づいた女性は慌てて視線を逸らせる。


「ミナト、あの方は隣の方よね?」

「うん、先月引っ越してきた人。よくお母様の見舞いに来る」


 なんか少しミナトの表情が暗くなった気がした。


「じゃあ、また来るわね。それまでお母様のお手伝い頑張ってね」

「うん、また来てね、お姉ちゃん!」



 城へ戻ってきたセリアはさっそく図書室へ向かうと、植物学や医学書の棚で毒の種類について調べ始めた。


「……めさま、姫様!」

「あっ、トラス! どうしたの?」

「『どうしたの?』じゃありません。もうとっくに夕食の時間ですよ」

「ぇえ!」


 セリアは探し物にあまりに没頭していて、そんな時間になっていることに驚き、数冊の本を借りると、慌てて自室へと戻った。


 夕食の席で今日の見舞いのことを報告すると、祖父母や伯父も少し怪訝な様子に変わり、もしも何か分かったら教えてほしいと言った。


 夕食後、自室で再び本と格闘を始めたセリアに、トラスとモクトが心配そうに声をかける。


「姫様、俺にも1冊調べさせて下さい」

「セリア様、僕にもやらせて下さい」


 こうして、セリアの説明を聞いた2人も調べ物に加わった。そして、数時間が過ぎた頃、モクトが声を上げる。


「この植物じゃないでしょうか……」


 3人が見るその植物はベリアナという名前で、赤い実をつけ一見可愛らしいが、根に毒素を含み、即効性はないものの定期的に取ることで頭痛や熱、更に痺れといった症状が出て、赤い斑点が出始める頃は重症で死に至ることもあると書いてあった。治療としては、その植物の実からとれる種子をすり潰したものを症状が消えるまで飲み続ける必要があるが、どこにでもある種類の植物ではない為、飲み続けるほどの量を入手するのが困難と書いてある。


「モクト、よく見つけてくれたわ。トラスも、2人ともありがとう! お蔭で時間が短縮できたわ!」


 セリアはさっそくそのことを祖父母達に伝えた。


「ふーむ、やはり毒の可能性が高いか……」

「そうなると、一気に犯罪という色が濃くなってきたねぇ」

「可能性は低いけれど、間違って自分で服用している可能性もあるかもしれないし、私また行って調べてくるわ!」

「ああ、そうだな。念入りに調べる必要がある。じゃあ、良い機会だからセリアにも紹介しておこう。ハナ、トル、ミル、来い」


 その途端、シュッと影のような者が物陰や上の方から現れる。セリアがびっくりしていると、アイーダが笑いながら説明を始めた。


「この者達は護といって、セリアを影から常に守っているのだ。皆、特別な能力があって、ハナは嗅覚にすぐれており、トルは手先が器用、ミルは視覚情報の記憶に優れている」

「まぁ! 皆さん、そんな能力が! 素晴らしいわね」


 セリアがそう言って感激すると、ハナはどこかにトリップしたかのようなうっとりとした表情になり、トルは手をそわそわ動かし、ミルはその大きな目を更に見開いてセリアを凝視したまま動かなくなった。


「まあ、3人ともちょっと変わってはいるが根は良い者達だ。きっとセリアの調査の役に立ってくれるであろう。頼ると良い」

「どうもありがとうございます。皆さん、よろしくお願いしますね!」


 こうして頼もしい協力者を得たセリアは、数日後再びジャンセン家を訪れた。

 しかし、近づいてきた家の前では、ミナトと父ミヤトが何か言い争いをしている姿が目に入ってきた。


「お父様、僕は嫌だ。あの人はもう家に来てほしくない!」

「なんでそんなことを言うんだ、失礼だぞ! せっかく心配して来てくれているのに」

「僕がお母様の看病を全部するから、大丈夫だよ!」


 そんな2人は、セリアが来たこに気づくと慌てて出迎えに来る。


「セリア様、申し訳ありません。もしかして、見苦しいものをお見せしてしまいましたか?」

「大丈夫ですよ。でも、間が悪かったかしら?」

「そんなことありません! あ、しかし……」


 そう口ごもった父ミヤトが家の方を見ると、戸口から女性が出てきた。その女性は、先日セリア達が訪問した帰りに見かけた隣人のようであった。見舞いの帰りのようで、手にはバスケットを抱えている。女性はセリア達を見ると一瞬、驚愕の表情に変わったが、ミヤトににこやかな笑顔を向けると、セリア達へは軽く会釈しただけで帰って行った。その様子を、セリアの後ろに控えるハナは嫌そうな顔で見つめる。


 家の中へ入ってもハナはしかめ面のままだった。鼻をクンクンと嗅いでは渋い顔をしている。アリーの部屋へと入ったセリアは、途端に怪訝な顔をするとアリーに近寄った。



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