第6話 闇の中で
突然の真っ暗な視界に驚いたセリアは、平衡感覚が無くなってくるように感じ、手さぐりで地面に座った。
「姫様、大丈夫ですか?」
「トラス、私はここよ。チッチも頭の上にいるわ」
「どうやら土砂崩れのようですね。入り口付近は土で覆われています」
「掘りたいけれど、また土砂崩れが起きると危ないわね……幸いこの洞窟は広いし、慌てなくても大丈夫よね?」
「そうですね……」
暗闇の中、トラスと会話をすることでなんとか落ち着きを取り戻したセリアは、そっと頭の上のチッチを撫でた。するとチッチがこの前と同じようにさえずり始める。その声を聞いていると、なぜかとても安心できて、しばらくするとセリアはいつしか眠りについていた……。
セリアは夢の中で、温かい人々に囲まれていた。ラナハルトやピスナーもいて、何かを言っては幸せそうに笑っている。そしてセリアの肩には温かい手が置かれていて、セリアも微笑みながらその人を見る……。
目を覚ましたセリアは何も見えないことに焦ったが、洞窟の中にいることを思い出す。先ほどの幸せな空間に戻りたいと思い、ラナハルトにもらったガラスのペンダントを思わず握りしめた。最近、ラナハルトからペンダントをもらった日のことをよく思い出す。あの時は、アリスト王国を建て直そうという意欲に満ちていた時だった。そんな時にもらったペンダントは、ラナハルトが応援してくれているようで、最近はこのペンダントを握ると力が湧いてくるような気がしていた。ラナハルトは第1王子として今も努力しているだろう……自分もいつか会う時に胸を張って再会できるように頑張らなくては、と思うのだった。
セリア達が暗闇に閉ざされてしばらく経った頃、ラークや団長のニックバードも魔の森に来ていた。森に到着して、少し大きめの一軒家のような建物の中にいる貴人の様子を確認したニックバードは、雨に降られて足止めを余儀なくされていた。ラークが外に出てきたニックバードに声を掛ける。
「なかなか止む気配がありませんね。お蔭で火は鎮火したみたいですが」
「そうだな。被害が広がらなくて良かった」
「……あれ?」
「どうした?」
ラークが指を差す空に、ニックバードも何かを捕えて目を細める。
「鳥……か?」
「そのようですね……しかし」
「でかいな」
「はい。どんどん近づいていますね」
「全員、警戒しろ!」
突然響いたニックバードの鋭い声に、騎士達の間に緊張が走る。
その鳥は雨の中をどんどん近づいて来たが、すぐ目の前まで来た所でスピードを落とすと、フワリと着地した。
「この鳥はもしや……」
「ニックバード団長、来て下さい!」
目の前の鳥に注意していた所、突然後ろの建物から呼ばれて驚くニックバードだったが、鳥がそれ以上動かないのを確認すると、建物の中へと入って行く。
「どうした?」
「目を覚まされました」
「なに?」
「団長を呼んでおられます」
侍女について部屋へと入ったニックバードは、即座に床に膝をついて頭を下げる。
「レイ、久しいな。とはいえ、つい先日のようにも感じる」
「はっ。皆、お目覚めをずっとお待ちしておりました」
「ふふ、どうやら目覚まし鳥が来たようでな」
「鳥……はっ、つい今しがた現れました……やはり、あれがピューラスなのですね?」
「ああ、そうじゃ。先ほどから早口で話しかけてきてな。雨の中悪いが、少し探索をしてきてくれるか?」
「はい、もちろんです」
暗闇に覆われ、いくら目を凝らしても何も見えない中、セリアは手さぐりで土を掻き出していた。
「姫様、俺がやりますから」
「いいえ、2人でやった方が早いでしょう? それにしても、全然外に繋がる気配がないわね」
「そうですね、思ったより厚く土がかぶさっているようですね」
土を掻き出す作業は、2人の体力をどんどん奪っていくようだった。
……あれ?……
……どうかした、チッチ?……
……なんか、声がする……
……え、私には聞こえないけど?……
……うん、多分思念。なんか懐かしい感じ……
――ガッガッガッ――
突然洞窟に響いた音に驚いて、セリアとトラスは後ろへ飛びのいた。しばらくその音は続き、そして……。
「!」
突然射しこんできた一筋の光が、暗闇にいるセリア達の目を直撃する。
「ん? 人間もいるのか? うわっ、ピューラス?!」
外から人の声がしたと思ったら、突然あいた穴から大きな鳥の嘴が突き出てきて、穴を広げ始めた。そして、瞬く間に人が余裕で通れるくらいの大きさになると、そこに嘴の主の全身が現れた。
「えっ……チッチ?」
黄色い身体の鳥を見て、思わずそうつぶやいたセリアの頭の上からチッチが飛び立った。
……お母さんだ!……
そう叫ぶチッチの声がセリアの頭に響く。
「チッチのお母さん……?!」
「えっ、あれがそうなんですか??」
「ええ、そうみたい」
「確かに言われてみれば……チッチを更に2周りほど大きくすればそっくりですね」
その鳥はチッチが側へ来ると、愛おしそうにチッチの顔に自分の顔を摺り寄せた。高い声で「チチチチチ」と鳴くと、チッチもそれに返事をしている。
その親子の再会を見ていると、セリアは胸が熱くなり、なんともいえない感情が押し寄せてきた。自分は母にはもう会えないけれど、まるで自分が体験しているかのように、チッチの喜びを感じるのだった。しかし同時に「両親に会いたい」という、普段押し殺している想いが膨らんで来て、セリアは涙をぐっとこらえていた。
「姫様、どうやら助かったみたいですね……外へ出ましょうか?」
トラスにそう言われて外へ出ると、5名ほどの騎士の姿が見えた。そこに知っているラークの姿を発見して、セリアは驚きながらも声をかけようとしたのだが、突然一番前にいた騎士がザッと地面に膝をついて頭を下げた。それを見たほかの騎士達も驚きながらそれに従う。
「え、なぜ……ラーク??」




