第22話 海の向こうの想い
セリアが消えてから国内は探させたが、一向に手がかりはなく、ラナハルトは次第に焦りが大きくなっていた。
「セリアは無事なんだろうか。金も持っていなかったはずだが……」
「そうですね。しかし、ターナによると塔の警護をしていたトラスの姿も同時になくなったようですから、セリアと一緒にいるでしょうし……」
「そうだな。しかし、トラスがいるというのになぜ便りの一つも来ないのか。何か事情があるのだろうが……」
「妹のミーリア様は何かおっしゃっていましたか?」
「いや、手紙には相変わらず国政を担うのが大変だとしか書かれていない」
「そうですか……一度様子を見にアリスト王国へ行ってみますか?」
「……そうした方が良いのかもしれないな」
それからしばらくして、ラナハルトはピスナーや護衛達と共にアリスト王国を訪問した。
その道中でもラナハルトはセリアのことばかりを考えていた。よく考えるのは、もう少しアリストの国内が落ち着くまで一緒に居ればよかった、ということだった。そうすれば、なぜセリアがどこかへ行ってしまったのか、その理由を知ることも出来たかもしれない……。
アリスト王国の城に着くと、以前とは見違えるような豪華な内装になっていることに驚く。ラナハルト達を宰相のマエロが、ニコニコと出迎えた。
「ようこそお越し下さいました。ささ、こちらへ」
マエロに案内されて広間に到着すると、扇で口元を隠した金髪の令嬢が挨拶をしてきた。
「やっと会えましたわ。初めまして。王子の文通相手のミーリアです」
「貴女がミーリアか」
豊かな金髪が顔をふわりと覆い、扇子で口元を覆っているのでよくは分からないが、目はセリアとは違って青色なのだな、とラナハルトは思う。
席に着くと、ラナハルトが話しかけた。
「手紙には国政が大変だと書いてあったが、城の中は随分色々と整えたのだな」
「ええ、そうですわね。苦労しましたの……」
「それで、具体的には国政のどのような部分で困っているのだ?」
「それは……」
「ああ、それは私がお答えしましょう」
突然会話に入ってきたマエロを少し怪訝な目で見ながらも、ラナハルトはマエロの話を聞く。
「困っているのは農業政策でして、蜂のエサとなっていた大量のバッタが穀物を食い荒らしたおかげで、種子などもほとんど確保できていない状態なのです」
「なるほど……」
ラナハルトはそれを聞いて、以前セリアとドノバンの議論の中で、セリアが次年度の備えを万全にしておくことが作物の収穫量を上げていく上で大切だと言っていたことを思い出した。思わず「セリアがいれば……」とつぶやきそうになり、慌ててマエロへ視線を戻す。
「では、カトラスタからいくらか支援ができないか父上にもお願いしてみよう」
「ありがとうございます」
「あの、ラナハルト王子、一度私もカトラスタ王国を見てみとうございますわ」
「いずれ来るといい」
「私は今回でも良いのですけれど……」
「いや、国内がまだ落ち着いていないのであろう? そういう時こそ姫の存在が必要なのではないか?」
「え、ええ。そうですわね……」
「ところで、姉上……セリア姫の行方について何か分かったことはないのか?」
「姉上ですか? い、いいえ何も分かってはおりませんわ」
「こちらでも国内を捜索させたのだが、手がかりはつかめなかった」
「そうですのね」
ミーリアを演じるルーナは、ラナハルトの口からセリアの名前が出たことを苦々しく思ったが、見つからないと聞いて小気味よい笑みが口元に広がった。それを扇で隠しながら会話を続ける。
「お姉様は自分の意志で出て行きましたから……寂しいですけれども」
結局セリアの手がかりは何も得られないまま、ラナハルトは帰ることになり、落胆の色を隠せなかった。
ミーリアは楽しそうに色々とラナハルトに話しかけてきたが、あまり興味のあるような内容でなかったせいか、ほとんど何も頭には残っていなかった。次第に「ああ」とか「そうか」と素っ気ない返事になっていくのを見かねて、途中からはピスナーが話し相手をしてくれたので助かった。ミーリアはセリアとは父親が違うということだったが、ラナハルトには姉妹とは思えないほど、共通点を見つけるのに苦労した。強いて言えば髪の色だが、それもセリアは淡い金髪だが、ミーリアは濃い金髪で、同じとは言い難かった。顔つきに至っては、なぜか常時扇子で半分を隠している為全然判断がつかず、目の色も違っていた為多分あまり似ていないのだろうと勝手に思っていたし、そもそも率直に言って興味もなかった。
帰りに馬車から見える天空塔を見上げ、ガラス細工のペンダントを渡した時の嬉しそうなセリアの顔を思い出すと、ラナハルトの胸は締め付けられる感じがした。居なくなって日が経つほどに「会いたい」という思いが強くなり、そんな自分の心を制御できない。
そんなラナハルトの想いを見透かすように、ピスナーが言う。
「チッチも飛んできませんしね。もしもセリアに何かがあるようなら、チッチは我々の元へやってきて導くでしょう。それがないということは、セリアは無事なのだと思います。ただ待つということはとても辛いことですが、その想いは無駄ではないと私は思いますよ」
「ピスナー…………ああ、そうだな」
ラナハルトとピスナーの想いは、セリアへ届けという願いを乗せて、哀愁漂う夕焼けの空へ沁みこんでいった。
第3章がこれにて終了しました!
引き続き第4章をお楽しみいただければ幸いです♪
いつもお読みいただき、どうも有り難うございます!!




