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第16話 チッチの成長

 レナードの部屋を出たセリアが、天空塔へ戻ろうと広間を通っていると、驚いた声が響いてきた。


「なんであなたがここにいるのかしら?!」


 それは、ルーナだった。


「あ、先ほどは申し忘れました。私、セリア・アリストと申します」

「アリスト……って、もしかしてこの国の王女なの?!」

「そうです。あの、お客様がいらしているとは知らずに、すみませんでした。こんな状態でお構いもできないのですけれど、何かあればおっしゃってくださいませ」


 セリアはそう言うと去って行った。


「ベルラ、知っていたの? あの女が王女だってこと」

「いいえ、知っているはずありません」

「そう……よね」


 ルーナはセリアの後ろ姿を憎々しげに見ていた。



 天空塔の地上付近には、不満そうな顔で塔の警備をするトラスの姿があった。


「トラス、そんな顔しないで。ここの警備をしてもらえると助かるのよ。今はチッチの元気がないから心配なの」

「姫様のことも心配なだけです」

「ふふ、でもこの通り今日も元気だから安心して」


 そう言うとセリアは塔の階段を上っていった。


「ターナ、チッチの具合はどう?」

「それが……」

「えっ、チッチ?!」


 なんと、チッチの身体が大きくなっていた。最初に出会った時に比べれば大きくなってはいたが、それでも両手に乗るくらいだった。それが3倍くらいの大きさになっている。


……チッチ、大丈夫?……

……うん、もう身体痛くないよ。チッチ成長おわりー!……

……よかったぁ……


 とりあえず元気なことを確認できてほっとした。


 その夜、セリアはベッドに入ってから例の手紙を読んだ。

 セリアの母サリーナからレナードへ書かれたその手紙は、何気ない日常を伝える文から始まった。しかし、読み進めるうちに、それがサリーナの父母、つまりはセリアの祖父母のことになり、セリアの胸はドクンと高鳴る。両親からも祖父母の話を聞いた記憶はなかった。

 手紙には、祖父母は帝国領にいると書かれていた。帝国領とは、このカトラスタを中心とする7ヶ国が集まる大陸の外に広がる海を隔てた向こうにあり、セリアも詳しくは知らない土地であった。海の向こうには広大な土地が広がっていると聞いたことがあるくらいで、それすらおとぎ話のようなものに感じていたくらいだ。祖父母の名前はオスラとアイーダと書いてあったが、それ以上のことは分からなかった。

 そしてその手紙は、「いずれセリアに話そうと思っている」と書かれて終わっていた。


 セリアはその夜、手紙を大切に枕元に置いて寝た。母が話そうと思ってくれていたこと、今まで知らなかった祖父母のことを知ることができて、とても温かい気持ちになった。



 それから数日後、ピースとリースミントが蜂の研究者を伴って到着した。


「セリアちゃん、会いたかったよ! 君の為なら海千山千……うぐっ、何をするんだラナ……」

「姉上、お元気そうで安心しました……」


 そう言ってセリアの手を握ったリースミントを見たピースが抗議する。


「おい、あれはいいのか?!」

「さあ、では対策会議を始めよう」


 セリア達アリスト王国とカトラスタ王国、ナイディル王国の主要メンバーでの蜂の対策会議が始まった。身分を現したラナハルトに、マエロ宰相達の驚きが冷めやらぬうちに会議は始まる。


「まずは、専門家の皆さんの意見を聞かせてください」


 セリアが言うと、ナイディル王国の専門家が話し始めた。


「私達の国ではビッグアントビーは通常冬の到来前に出現します。これは主に春・夏に穀物を食べて肥えたバッタを主食とするからで、それに伴って家畜が被害に遭うこともあります。アリスト王国でも蜂の前にバッタの出現がありませんでしたか?」

「ありました。今年は例年になくバッタが発生してまず穀物がやられたと聞いています」

「恐らくビッグアントビーはそのバッタの群れを追って移動してきたのでしょう」

「追い払う手段はあるのでしょうか?」

「通常ナイディル国では、寒い冬が来るので自然と蜂は出現しなくなります……ですが、アリスト王国は冬といってもナイディルほどは寒くないので……」

「何か手段はないのか? ビッグアントビーの天敵は何なのだ?」


 カトラスタ王国の宰相レナードが眉根を寄せて訊いた。


「天敵はキプリルという鳥です。タカに似た鳥で、ビッグアントビーの毒を体内で解毒することができるのです」

「鳥か……」

「はい、しかしキプリルは北方の山中にいるのです」

「ふむ、鳥を呼ぶことはさすがに……」


 レナードが黙ると、皆も難しい顔になる。しかし、ラナハルトがはっと顔を上げた。


「セリア、チッチは鳥を呼べるんじゃないか?」

「え、チッチが?」

「『アリスト王国に食糧の蜂がいる』ってキプリルに伝えてみてもらったらどうだ?」

「あ、そういう手があるわね。うん、無理かもしれないけど一応伝えてみるわ。でも飛べるのかしら……」


 セリアは大きくなったチッチを思い出して、少し心配になった。


「ラナハルト、チッチというのは何だ?」

「ああ、叔父上はご存知ありませんでしたね。セリア、いい機会だ、チッチを呼んでみたらどうだ?」

「う、うん……やってみるわ」


……チッチ、あのね、今お城の部屋にいるんだけど、窓から入って来られるかしら? 場所は2階の中央よ……

……うん、行けるよ!……


 そういう思念が来たと思ったら、数秒後にチッチが窓から現れ、そのあまりの速さにセリアはびっくりし、居合わせた一同もその見たことのない大きな鳥の、突然の出現を驚愕の面持ちで見た。



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