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第5話 成れの果て

 セリアは前回、叔父夫婦の思念を受けて倒れかけてから色々と考えた。考えはなかなか纏まらずにいたが、1つはっきり感じたのは「避けてもどうしようもない」ということだった。いきなり王位継承の話をされ、その責任の重さに潰されそうになったが、叔父が血縁者であるということは変えようのない事実で、アリスト王国の姫であるセリアは、民への責任からも、叔父達との話をしっかりする必要があると思ったのだった。


 セリアのしっかりとした返事に、無言で頷いたラナハルトはセリアを連れて謁見室へとやってきた。部屋へ入る時にさりげなくセリアの背中へ添えられたラナハルトの手が温かくて、セリアは心穏やかな状態で入室することができた。


 部屋へ入ると目についてきたのは、兵士達に押えられ、縛り上げられた格好の叔父夫婦と、その傍らで青い顔をして立つペルガー王子の姿だった。入室したセリアを見るなり叔母のミアリが叫んだ。


「セリア! どうにかしてちょうだい! 私達は陥れられたんだよ!」

「え……」


 驚きで咄嗟に何と言っていいか分からないセリアに、バールベルト国王が穏やかに声を掛ける。


「セリア、心配いらないよ。これは木材密輸に関する処置だからね」


 それを聞いてセリアは、カトラスタ王国の木材盗賊の密輸相手がこの叔父夫婦だと聞いていたことを思い出した。


「セリアの叔父さん達ではあるけれど、今回はカトラスタ王国の国民になったからね。タイミング的にもちょうど良かったのだよ」


 そう言ってほほ笑むバールベルト国王は、目は笑っているはずなのに、なぜか笑顔からはほど遠い表情に見えた。セリアがラナハルトを見ると、こちらもニッコリと笑顔になっていた。


「そう、なのですね……罪を個人の感情で軽くすることは、公平性に欠けますものね……」


 セリアが先ほどのドノバンとの会話を思い出してそう言うと、バールベルト王とシャルメール王妃がニコリと微笑んだ。

 その様子を、目を飛び出さんばかりに見開いて聞いていたミアリ叔母がまた叫ぶ。


「何を言ってんだい! この恩知らずが! お前の母親のブローチを届けてやっただろうが!」


 化けの皮がはがれたような叔母の口調にビクッとしたセリアだったが、一度ギュッと口を結んでから開こうとした。しかし……。


「持って来るも何も、あれはセリアが持っていて当然の物だろう?」

「そうですね、それにセリアのご両親の持ち物があれだけのはずはないですよね? まさか盗んではいないでしょうが、もしそんなことがあれば、後でセリアが余罪を追及することになるでしょうね」


 ひんやりとした口調でラナハルトとピスナーがそう言うと、ミアリ叔母は「ぐぬぬ」という何とも言えない音を喉から発した。そんな妻の隣で、バラク叔父はひたすら小さくなって震えている。


「これが、王位を譲ってやろうって言った者に対する仕打ちかい?!」


 ミアリ叔母が荒げた口調のまま、なおもくってかかると、それを無表情で見下ろしていたバールベルト王が答えた。


「それが、きちんと譲られた王位であれば、まだ僅かばかりの敬意も払えたかもしれぬがな」

「どういう意味だい?」

「財政状況などを見てみればいずれ分かるだろう……そなたらがどのような国政を敷いていたかがな」

「な、なにを……まるで私らがちゃんとやっていなかったみたいじゃないか」

「そう言うならば良い。後で調べれば分かるだろうし、あまりにもひどい場合は、アリスト国側から国賊として訴えられることもあるかもしれぬが。まあもう良い。望み通り娘と同じ場所へ連れて行け」


 国王がそう言うと、兵士達が叔父夫婦を立たせて引きずるようにして連れて行く。引きずられながらも喚き散らす叔母と、何も言わずブルブルと震えて引きずられていく叔父の縮こまった背中に、セリアは何もかける言葉が見つからず唖然として見送ったのだった。


 2人が部屋から居なくなると、2人の息子であるペルガー王子がぽつんと残されていた。


「さて、ペルガー王子……いや、もうただのペルガーであったな。そなたは両親の犯罪には関与していないようではあるが、この国では何も特別な身分はついてこない。居住地だけは与えるが、貴族の生活には戻れぬだろう。自分で生計を立てていくしかなく辛いこともあるだろうが、この国は豊かだ。真面目に仕事をすれば飢えることはない」


 それを聞いたペルガーは小さく「はい」と答えた。


 そしてペルガーも退出し、落ち着けるメンバーのみになった所でバールベルト国王がセリアの方を向いた。


「前回はあんな目に遭ったのに、よく再び対峙したな。辛かったであろう」

「いいえ、そもそもは自分の国のことなのに……血縁者である叔父達がご迷惑をかけて申し訳ないと思っています」


 セリアは、国王が「あんな目に遭ったのに」と言ったところで、少し不思議に思った。セリアには思念が聞こえたが、傍から見ると母の形見のブローチを渡されて王位を譲られたように見えていたと思ったからだ。


「セリアのせいではない。私は血縁者を選べないセリアが不憫でならない。あのような者達は今後親戚と思わぬことだ」

「ええ、そうよ、あんな気持ち悪い心の声……思い出すだけで夢見が悪くなりそうよ」

「えっ?」


 シャルメールの言葉にセリアは目を見開いた。



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