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第23話 帰還

 ナイディル王国での事件も解決したラナハルト達は、速やかにカトラスタへ帰還することにした。リースミントも切りよく諸外国訪問の旅程を終えたので、一緒にカトラスタへ戻ることになり、行きより人数の多くなった一行はナイディル王国の皆と別れの挨拶をしていた。


「セリアちゃん、カトラスタがイヤになったら、いつでもナイディルに来るといいよ。今度は素敵な部屋を用意するからね。まあ君が来られなくても、僕が行くから少しのお別れだけどね」

「お前を招待する気はない」

「僕もお前に会いに行く気はない」

「兄上達、本当に仲良しだなー」

「「仲良しじゃない!」」

「ほらほら、そろそろ行きますよー」


 馬の側で様子を見ていたピスナーから声が掛かった。


「ナイディルでも色々あったし、カトラスタに着くまで安心はできない。帰りは俺の馬に乗るか?」


 そうラナハルトがセリアに言うのを聞いていたターナが何か言おうとしたが、ピスナーがそれを制止した。


「え、いいの? でも、もし狙われた時に私がいたら邪魔になるかも……」

「大丈夫だ。その為に俺の馬の周りには護衛がいる」

「うん、じゃあ乗せてもらうね、ありがとう! でも、自分でも乗れるようにそのうち練習しないといけないわね」


 それを聞いてターナは、何か諦めたようにふぅと溜息を吐いた。


 ラナハルトはセリアを自分の前に乗せると出発した。

 ナイディル王国はカトラスタ王国の北側に位置する為寒く、この時期は本格的な冬の前ではあるが馬で駆けると、顔に当たる風はキンと身が引き締まるくらいに冷たい。ラナハルトはセリアを自分のマントで覆い、不安定な馬の上から落ちないように、左手でセリアの腹部を抱き、右手で手綱を掴んでいた。ラナハルトより頭一つ分ほど背の低いセリアの頭は、ちょうどラナハルトの首筋に当たり、透明感のある薄い金髪の柔らかさを首に感じる。

 前回セリアを馬に乗せた時は、木材盗賊に攫われたのを救出した時で、セリアは高熱で意識がなく、ラナハルトも必死であったが、今回は余裕がある為、ラナハルトは普段意識しないようなことにも気づくこととなった。

 風に乗ってふわっとセリアの金髪が広がる度に香る花のような香り、視線のすぐ斜め下にある冷たさに一層透明感を増した肌、そしてガラス玉のように澄んだ薄緑色の瞳……。それら全てが、聡明であり、純粋さと優しさに溢れたセリアの内面の美をそのまま表しているようで、ラナハルトは自身の中に、不思議な気持ちのくすぶりを感じた。


「あら? 今何か聞こえたかしら?」


 突然そう言って振り向いたセリアの顔が近すぎて、白い肌に燃えるような小さな唇が動くのを驚いて見つめたラナハルトが慌てて聞き返した。


「え? 何か聞こえたか?」

「あ、何も聞こえなかったのね? 女性のような声が聞こえたかと思ったけれど、やっぱり気のせいだったんだわ。誰も話してる様子は見られないし、周りには私達以外に人の姿は見えないものね!」


 納得したらしいセリアの様子にラナハルトは安心する。別に何もやましいことはないはずなのに、ラナハルトはなぜか気恥ずかしい気持ちに襲われて、いつもと違う自分に少し戸惑っていたのだった。


 中間地点で休憩を取ることにしたセリア達は、馬から下りて少し痛いお尻をさすりながら、強張った身体を思いっきり伸ばした。


「ターナ!」

「はい、何でしょう王子?」

「ここまで来ればもうカトラスタも近いし、大丈夫だろう。馬を休ませたいから、後半はお前の馬にセリアを乗せてもらえるか?」

「あ、はい。もちろんです」

「王子、私の馬でもいいのですよ?」

「お前はダメだピスナー」

「兄上は本当に分かりやすいですね、あはは!」

「リースミント、なんかムカつくな。子供らしくしろ!」

「えへへ、なんかそういう兄上を見るのは新鮮だなぁって思って」

「だから、そういう所だ!」

「じゃあ、兄上あれはいいの?」


 そう言ってリースミントが指差した先には、セリアの側を片時も離れず行動を見守るトラスの姿があった。


「ああ、あれはいいんだ」


 セリアが攫われた時からトラスは護衛として失格だと悔いており、今回またセリアが牢に入れられた時にも、とても落ち込んでいたのをラナハルトは知っていた。ラナハルトは幼い頃から護られる側の立ち場だったが、同時に護る側の大変さも感じていた。なので、トラスがより一層セリアの近くで警護をするようになったその気持ちを察していたのだった。



 セリア達がカトラスタの王城に向かっている頃、同じく城へ行こうとする者達の動きがあった。その者達の到来が、セリア達の運命にも大きく関わることになるのを知るのは、そう遠くない未来のことである。



 冷たい風が吹く北の国を後にして、すっかり自分の居場所となったカトラスタの王城へ向かう旅を、セリアは心の底から楽しんでいた。天空塔にいた時には、叶えられないと知りつつも何度も空想した「旅」を、今自分がしていることが幸せで、仲間と話す道中も楽しく、セリアは幸せなこの時をしっかり心に刻みつけようとしていた。

 そうして無事に旅を進めたセリア達がカトラスタの王城へ帰還を果たしたのは、それから数日後のことだった。



これで第2章が終わりました!

読者の皆様の存在にいつもパワーをもらっています。

ブックマークや評価をいただく度に感激して画面キャプチャしてます(笑)

皆様、本当にありがとうございます!!


数時間後から第3章が始まります!

今後ともお楽しみいただければ幸いです。

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