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第18話 姉妹の争い

 ビズート宰相の次女である弱冠9歳のイーラは、物心ついた頃から姉であるネリエは道具のような存在だと思っていた。そして、父親であるビズート宰相が、姉をカトラスタ王国の第5王子と婚約させようとしているのも、後から役立つかもしれないからという理由で応援していた。そもそもイーラは第5王子などというものに興味はなく、皆を跪かせる為にも1番上の者、つまり第1王子が自分には相応しいと思っていたのである。そう、イーラが興味のあるものは「権力」であり、そんなイーラにとってラナハルト王子の訪問は願ってもないチャンスに思えたのだ。


 イーラは姉のようにゴテゴテと飾り立てないことで、同世代の男子の目が逆に自分に向くことを知っていた。見た目については、同年代の令嬢と比べても可愛いと自信のあることから、年上のラナハルトの目を引くように、敢えて清楚で少し大人っぽさのある装いで歓迎の式典に出席することにした。



 ラナハルトを歓迎するために、華やかな装いの貴族達が広間に整列する中、リースミントもまた久々に兄に会えることを楽しみに広間へと来ていた。自身も国賓として迎えられているリースミントは一段高い檀上に座って、兄の登場を待っていた。



 楽隊が華やかさと穏やかさの絶妙に合わさった曲を奏で始めると、檀上に座っていたナイディル国王夫妻が檀上から下りて、まもなく登場するラナハルトを迎える体勢を整えた。一国の国王がそういった態度で歓待するのは、最大国のカトラスタの次期国王と目されているラナハルトだからである。


 まもなく、入場の合図が告げられると、広間の大きな扉が開かれ、銀色の正装に身を包んだラナハルトと護衛達が入場してきた。途端に、整列した貴族の中から「ほうっ」という声や、押し殺した女性の歓喜の声が漏れた。

 入場してきたラナハルトは、輝く金髪の華やかさの下に、冷静で人の心を射抜くようなブルーグレーの瞳をたたえ、一足歩くごとに感じる威厳を纏った空気は、見る者全てを魅了し、思わずぶるっと身震いする者もいるほどだった。その様子を、同じく檀上から下りて眺めていたリースミントは「やはり兄上は国王としての風格がある」と、自分の兄ながら敬意を感じるとともに誇らしい気持ちになった。


 ナイディル王国の国王夫妻との挨拶を済ませたラナハルトは、リースミントに近づくと気さくな兄の顔で話しかけてきた。


「元気そうでよかった。久しぶりだな」

「はい、お蔭様で。兄上もお変わりないようで良かったです」

「はは、相変わらず子供っぽくないな。この後の宴では気軽に話してくれ。ああ、それから『鳥とは仲良く』頼むな」

「はい兄上!」


 入場の時の張り詰めた気迫のようなものを解いて話してくれた事を嬉しく思いながら、何気なく目をやった先に、兄をギラギラとした目で見つめる姉妹の姿を発見したリースミントは、何も入っていないはずの胃袋に胸やけをおぼえて思わず「うっ」と声が出た。


 1人はゴテゴテに飾り立て、もう1人は装いこそ清楚だが目は同じくギラギラとしたその姉妹ネリエとイーラは、他の令嬢と同じように初めて見るラナハルトに一瞬で心を奪われていた。もちろん姉のネリエは「第1王子なら高価な物をプレゼントしてくれるはず」と思い、イーラは「1番の権力が手に入る」という動機であったが、それを手に入れたいという欲については2人とも同じくらいに大きかった。


 これまで第5王子のリースミントとの婚約を望んでいた姉が、急に第1王子に鞍替えしたことを感じたイーラは、闘争本能をむき出しにした。


 歓迎の宴が始まり、ナイディル王国の主だった貴族達が挨拶をしようと、なんとなく列を作り始めた時、最初に挨拶を始めた貴族に割り込むようにラナハルトの視界に入ってきた者達がいた。


「ラナハルト王子、ようこそいらっしゃいました。私は宰相のマリケン・ビズートと申します。こちらは娘のネリエとイーラです。話の華になるような女性が必要と思いまして、連れてまいりました」


 この言葉を聞いて顔色を変えずにいられた自分を褒めたいと思ったのはリースミントだけではなかった。後ろで苦々しい思いで睨みつけていた護衛達も、ラナハルトの平静を装う姿に感服していたのだ。


「いや、結構だ。私にはまだまだ話したい方々が、このように沢山いる。宰相殿も立場上権力を振りかざして横入りするというのは避けたいであろう。幸いまだ時間はあるのだから、並ばれると良いのではないか」


 周りの温度が下がったと思うほどブルーグレーの瞳に冷たさを宿してそう答えたラナハルトの迫力に気圧されて、ビズートは娘達を連れて下がっていった。リースミントがその姿を目で追うと、何か言い争いをしながら挨拶の列に並ぶネリエとイーラの姿があった。


 リースミントは、兄への挨拶の順番が、だんだんとネリエ達に近づいてくるのを回避したくて、早く宴の時間が終了してしまわないかと壁の大時計をチラチラと見ていたが、その甲斐空しく、いがみ合う姉妹は同時にラナハルトの前へとやってきたのだった。


「ラナハルト王子様ぁ、私宰相の娘のネリエともうしますぅ。王子の為に精一杯、着飾ってまいりましたのよぉ」


 ゴテゴテ飾った身体を振り、バサバサしたまつ毛を何度も瞬きながらネリエがそう言うと、姉に負けじと妹のイーラも口を開く。


「私、同じく宰相の娘のイーラと申しますわ。私はこの国ではなく、カトラスタ王国で王子の役に立てると思いますの。どうぞ私を一緒に連れて行って下さいませ!」


 姉とは対照的に清楚な身なりをし、手を胸の前で組みながら、伏し目から上目使いへと可憐さを装ってそう言ったイーラを見ていたリースミントは、先日感じた得体の知れない気持ち悪さを再び感じて、またもや何も入ってない胃袋を危うくひっくり返すところだった。


 そこへラナハルトの静かな声が響いた……。



うぅ、兄弟姉妹は仲良しが良いですね。

バサバサまつ毛、羨ましいやら羨ましくないやら……ラクダみたいらしいです……。


たまに改稿しているのは、誤字脱字の直しの為です。

内容は変えていませんのでご安心ください(まだまだ見落とし多々あると思いますが)。

いつもお読みいただく皆様へ最大の感謝を!!

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