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第17話 百聞は一見にしかず

 牢の前でしばらく硬直していたリースミントは、自分が目にしているものを皆も見ているのかと従者達を見てみた。その誰もが皆一様に口と目を見開いているのを確認し、ある種の安堵感を得たリースミントは、なんとか自分を落ち着かせ、看守へと口を開いた。


「看守、ここは牢部屋で間違いは無かったな?」

「はい、左様でございます!」

「随分、豪華な牢部屋であるが、ナイディル王国では女性用の牢というのはこのような仕様が普通なのか?」

「いえいえ、普通ではありません! これは、おもてなしですので!」


 その言葉を聞いて、落ち着いてきていたリースミントの頭が再び混乱してきた。看守へ何を訊こうか迷っていると、部屋の中のカーテンが引かれたので慌ててそちらへ視線を戻すと……。


 皆が一斉に「ふわぁっ!」という息とも声ともつかない音を発した。


 背後の小さな鉄格子の窓から斜めに流れる一筋の光は、その女性の長くも儚く軽やかな薄い金色の髪を輝かせ、透き通るような肌と、不思議そうにこちらを見つめる純粋そうな薄緑色の瞳は、そこが地下牢であるにも関わらず、神秘的な空間であると錯覚するほどの美しさを秘めていた。


「まぁ、皆様は初めてお目にかかりますわね!」


 そう言ってニッコリと微笑んだ姿に、リースミント含め従者達も思わず赤面してしまった。


「あ、貴女が黄色い鳥の飼い主ですか?」


 まだぎこちない表情のままリースミントがそう尋ねると、嬉しそうな表情で女性が答える。


「はい、そうです」

「あの、貴女の名前は?」

「セリアと申します。私もお名前をお聞きしてよろしいでしょうか?」

「リ、リースミントです」

「リースミント……王子……ですか?」


 女性が自分のことを知っていたことに驚きながらも頷くと、女性は更に嬉しそうな顔をした。


「やっぱり! 貴方がラナの……ラナハルト王子の弟君のリースミント王子ですのね!」


 突然兄の、しかも愛称が出てきたことに更に驚いたリースミントが問いかける。


「兄を知っているのですか?」

「はい! あ、でも……詳しくはお話できないのです」


 何か事情があるのだと察したリースミントは、一番信頼を置く従者を1人残して人払いをした。


「さあ、これで大丈夫です。何でも話して下さい」


 セリアは、ラナハルトからリースミントの特徴を聞いていたのと、剣の鞘にあるカトラスタ王国の紋章から、目の前の少年が本人であることが分かり、人払いもされたことで安心してここへ来た経緯を話した。しかし、その発端が自分の夢であるとは伝えず、ラナハルトがピース王子に説明した時と同様の説明にしておいた。


 説明を驚きの表情で聞いていたリースミントは、しかし途中から険しい顔になり、まだあどけない幼さの残る顔を歪め、説明の終わる頃には口を引き結んで何かを噛み殺すような表情になっていた。


「……ということは、あの鳥は貴女や兄上の仲間だったのですね。そして、そう考えるとむしろあの鳥の行動は、皆が思っていたのとは逆に、僕を守る為……ああ、あの時僕はグラスを落とした……。あれに毒が盛られていた可能性があるということか……」


 セリアはリースミントがそう言うのを聞いて、その落ち着きぶりから、やはり王子なんだと感心した。ラナハルトから、末の弟は読書が好きで歳の割に落ち着いていると聞いていたが、話しぶりや、冷静に状況を認識する様子は、王子としてきちんと教育されてきたことが窺えた。


「やはり百聞は一見にしかずですね。申し訳ないことをしました。事情をちゃんと把握しなかったせいで、貴女をこんな所に入れてしまって……」


 言葉は大人のようでありながら、あどけなさの残る顔が悲しそうになるのを見て、セリアは慌てて言う。


「リースミント王子が気になさることではありません。それに、お気遣いいただき、こんなに良い待遇にしていただいていますし、ラナ……ハルト王子達も迎えにきてくれると言っていましたから!」


 そう言ってニッコリ笑ったセリアの顔を見て、リースミントは再び赤面した。


「セリアさん、僕の前でも気にせず兄上のことは愛称で呼んでください。セリアさんはきっと兄上にとって……いや、何でもないです。ふふ、それにしてもあの兄上が……」


 なんだか訳知り顔で笑ったリースミントは最後に「ずるいなぁ、僕のいないうちに」とつぶやくと、自分もセリアをなるべく早くここから出せるように頑張ると言い、去って行った。



 その頃、ナイディル王国の城では、国王の元にカトラスタ王国の第一王子が急遽訪問することになったという知らせが届き、歓迎の用意に城中がてんやわんやの大騒ぎとなっていた。同じカトラスタ王国の王子でも、リースミントは第5王子で王位継承はまずないという立場なのに対し、ラナハルトはいずれ大国のカトラスタ王国の王になる立場にあり、その存在が及ぼす影響力は隣接する6ヶ国にとって極めて大きかった。


 それを聞いて内心ほくそ笑んだのは、ビズート宰相の2番目の娘であり、ネリエの妹であるイーラ・ビズートであった。イーラもネリエと同じ鮮やかな赤い色の髪をしているが、姉のネリエがゴテゴテに着飾るのに比べると、地味な装いで一見清楚に見える存在だった。しかし、もしもその内面を見ることができたなら、高価な物にしか興味のない姉の方がまだ真っ直ぐだと思えるほど歪んだ考えに驚愕しただろう。



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