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第11話 夢の信憑性

 ターナが部屋を出て行ってからまもなく、廊下から複数人の足音が近づいてきたかと思うと、部屋の戸が勢いよく開かれた。


「セリア!」


 心配と安堵が入り混じる顔で近づいてきたラナハルトに続き、ピスナー、トラス、ドノバン先生の顔も見えた。ターナが戸を閉めながら、慌てたように近づいてくる。


「皆様、姫様のお顔を見て安心されたいのは分かりますが、一応言っときますと、女性のしかも病人のお部屋ですからね。あまり興奮されないでくださいよ」


 それを聞いた面々は、一瞬身体が固まったものの、しかしそのままセリアのベッド際までやって来た。


「ラナ、皆……心配して来てくれたの? どうもありがとう。もう大丈夫だから」

「まだ大丈夫ではないだろう。数日も寝ていたんだ」

「あの、まだ実はぼんやりしているんだけれど、私はどうして数日も寝ていたのかしら?」

「どこまで覚えているか分からないが……セリアはエマと一緒に攫われて、救出されてから熱を出して意識がなかったんだ」

「エマと攫われて……」


 それを聞いたセリアの頭に、学園での出来事や洞窟でエマと共に捕えられていた情報が一気に戻ってきた。


「思い出したわ! エマは? 無事なの?」

「ああ、無事だ。セリアより早く回復して、心配していた。それからルトマも、自分が巻き込んだせいでと、責任を感じていたから、回復したら話すといい」

「ええ、そうするわ。ああ、でも本当によかった……ターナ、貴女が皆に知らせてくれたのね?」

「はい。ちょうど姫様が捕らわれている洞窟がアリスト王国に近い場所だったみたいで、それで思念をキャッチできたのだと思います。本当にご無事で良かったです」

「どうも有り難う。ターナが知らせてくれなければ、私は今頃どこかに売られていたのだわ」


 それを聞くと、ラナハルト達の顔に怒りの表情が浮かんだ。


「もう、あの盗賊達がセリアの前に現れることはないから安心してくれ」

「ラナ達が捕えてくれたの?」


 そう訊くセリアに、トラスが一連の状況を説明した。最後にアーリアとクレアナが首謀者であったことが説明されると、セリアの顔に複雑な表情が浮かんだ。


「そうなのね……。同じクラスメイトであったクレアナがそんなことを考えるほど……私は憎まれていたのね」


 アーリアはセリアのことを罪人と思っているし、以前は処刑までされそうになったので首謀者として名前が挙がってもそこまで驚かなかったが、クレアナはちょっとした口論をした覚えはあるものの、そこまで憎まれているとは思っていなかったので、セリアはショックと共に悲しい気持ちになった。それを察したピスナーが優しく声を掛ける。


「セリアが傷つく必要はないよ。クレアナは実に身勝手な理由で人を傷つけ、犯罪に手を染めたんだ。一方的な逆恨みで、同情の余地もないよ」

「ああ、そうだな。貴族として生まれた者は多かれ少なかれ、平民の上に立つ責任というのがある。そういう立場にある者としても許されざる行いだ」

「2人はどうなるの?」

「今回はアリスト王国にも関係者がいるようだから慎重に捜査を進めているが、2人の関与は材木の盗賊達の話からも明らかだから、第1級の罪で裁判にかけられた後に、厳重な設備の牢に入るのが妥当だろうな。まあ、アリスト王国の方は、建前上姫ではあるからちょっと厄介だが、いつもは温厚な父上が、今回は無表情になるほど怒っていたから牢には入れるだろうな」

「そう……でも処刑ではなくて良かった……」

「ああ、我が国はそんな野蛮じゃない……が、ぬるくもないな」


 ラナハルトがそう言うのを聞くと、自国で突然処刑をされそうになったことを思い出し、セリアは苦笑してしまった。自国のことながら、そんな野蛮で法の秩序のないことがとても恥ずかしく感じたのだった。


「じゃあ、そろそろ俺達は去った方がいいな。セリアがゆっくり休めないからな」

「ええ、有難う。ゆっくり眠って明日には……」


 そこでセリアは先程見た夢のことを思い出してハッとした。


「ラナ! 待って、訊きたいことがあるの!」


 突然慌てた声を上げたセリアの様子にびっくりしてラナハルト達が戻ってくる。


「ラナの弟の1人はリースミント王子だったわよね?」

「ああ、一番下の弟だ」

「リースミント王子は今、ナイディル国にいる?」

「ああそうだが……セリアにそんなこと話したか?」

「いいえ、夢で知ったの……」

「夢?」


 不思議そうな顔をするラナハルト達に、セリアは先程見た夢の話をして聞かせた。

 

 話を聞き終えた皆が、一様に驚愕の表情を浮かべ、次第に眉間に皺を寄せ始めた。その様子を見たセリアは慌てて付け加える。


「皆、私の夢の話なんかしてごめんなさい。ちょっと体調が悪かったからそんな夢を見たのかもしれないのだけど、ちょっと普通の夢より現実味があって怖くなったから話してしまったの。変に思ったわよね……」

「いや、皆セリアの話を深刻なこととして受け止めているんだ」

「そうだよ、セリアには例の能力がある。しかも、これまで体調の悪い時などの逆境で、その能力が向上することが度々あったよね。だから、今回寝込んでいる時に見たその夢の中で、遠く離れた場所にいる実際の人物と思念のやりとりができたとしても、そんなに不思議じゃないと思う」


 ピスナーがそう言うのを聞くと、セリアは夢が更に現実味を帯びてくるようで、背筋が寒くなるのを感じた。夢の中の少年ドミノは切羽詰まっていたし、そういう必死の叫びだから届いたのかもしれない、とも思う。


「この城の薬剤師に、ナイディル国の宮廷薬剤師の名前を聞いて来よう。同じ宮廷薬剤師であれば、各国の薬剤師とも交流しているはずだからな」


 それを聞いてセリアは、夢で聞いたナイディル国の宮廷薬剤師ヤトラス・ククラートなる人物が、実在しないでほしいと願わずにはいられなかった。


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