第9話 悪事の結末
スートラス家では、今宵もアーリアとクレアナが近く来るはずの未来について楽しく妄想を膨らませていた。
「セリアも居なくなって、そろそろラナハルト王子も、あの不適格な女に騙されていたと気づいている頃かしらね」
「そうしたら、アーリア姫がラナハルト王子とご結婚ですわね。そして私は他の王子と結婚……」
「ええ、もちろんよ。貴女の尽力には感謝しているわ。木材の売買業者を通じて、偶然にもアリスト王国の両親とも繋がりがあったわけだし、これからも支えてくれたら嬉しいわ」
「もちろんです。あの女は明日には他国に売られますし、じきに学院も再開されるでしょうから、そうしたらいよいよ王子は姫様の物ですわね」
「待ち遠しいわ。大体、あんな犯罪者や平民が居なくなったくらいで学院が休みになるなんてことの方が可笑しいのよ!」
「皆、あの女に誑かされていたのですわ。でも、それももう終わり……」
2人はふっと視線を合わせて笑い合い、それぞれの未来を想像して満足な笑みを浮かべる。最初は第一王子であるラナハルトを狙っていたクレアナだったが、アーリア姫が現れたことで第二、第三王子で良いと思うようになっていた。セリアを排除するという目的の為に意気投合したことと、小国とはいえ姫という立場のアーリアが自分を評価してくれていることが、クレアナの自尊心を満たしていたからだった。
しかし、そんな2人の至福の妄想の時は、突如乱暴に開かれた扉によってかき消された。
何の予告もなく、突然部屋へと入ってきた甲冑を着た兵士達の姿に、クレアナは声も出せずに目を見開いたままの状態であったが、アーリアは金切声で即座に罵声を浴びせ始めた。
「なんて乱暴な! 私を誰だと思っているの! 何なの?!」
そのアーリアの剣幕を気にも留めない様子で、甲冑姿の兵士達はクレアナの元まで来ると、暴れるクレアナの手を後ろに縛りあげた。
「何なのです? 一体誰の差し金なの? こんなことをして許されると思っているの? 離しなさい!!」
兵士達は無言のまま、今度はアーリアの両脇を2人でがっちりと確保した。
「私は隣国の姫よ! こんなことをしたお前達は父上と母上に言って処刑してもらうわよ! ぐっ……離しなさい! 離せ!!」
暴れて兵士に体当たりをしたアーリアだったが、硬い鎧にぶつかり、痛さに顔をしかめた。
兵士達は、ギャーギャーと喚くアーリアとクレアナに何も言うことなく、家の外へと引きずり出して行った。外に出たクレアナは、そこに同じように縛られた父と母の姿を見つけて唖然とした顔になる。
「父上、母上……これはどういうこと?」
「こっちが訊きたい。クレアナ、お前は何をしたんだ!」
「何も……間違ったことはしていません!」
「何もしていなくて、なぜ国王軍がうちに来るんだ!!」
「国王軍……」
自身を縛った者達が国王軍の者であると知ったクレアナの顔が青くなる。国王軍ということは、この命令を出したのが国王であるということだ……。自分達は気に入らないクラスメイトのセリアを排除しただけで……それが国王軍を動かすほどのことになることはないはずだ。それに、セリアは森の洞窟のはず……。
そう考え直し、少し落ち着いてきたクレアナは、両親に向けて「何も悪い事はしていないので大丈夫よ」と繰り返した。
クレアナとアーリアを移送する馬車が、王都の外れにある囚人の収容所に差し掛かる頃になると、クレアナが顔色を変え始めた。
「収容所? まさか……嫌よ! なぜ私が! 何とか言いなさいよ!」
アーリアは別の馬車に乗せられ、別々になったことでクレアナは急に自分の力が小さくなったように感じて焦り始めたが、そんなクレアナの声も全く聞こえないかのように、馬車内の兵士達は声を発しなかった。その後は半狂乱のように喚き散らすクレアナだったが、馬車は構うことなく収容所の門をくぐり、兵士達は半ば引きずるようにしてクレアナを収容所の分厚い鉄の門の中へと連れ込むと、収容所の看守に身柄を引き渡したのだった。
「クレアナ、お前はこれから第1級の犯罪容疑で、裁判まで収容所の空き部屋で過ごすこととなる」
「な、なぜなの? 私は何も……」
「もしも、本当に何もしていないと思っているなら、裁判の場にてそう言うがいい」
収容所の看守は、そう冷たく言うとクレアナを空き部屋まで引っ張って行ったのだった。
クレアナが去った後に同じようにして連れて来られたアーリアは、罵詈雑言を吐き、全身の力を使って抗議と言う名の暴力を働こうとしたが、常日頃から大の大人の暴力にも対応している屈強な看守によって、より強い力で押さえつけられることとなった。
「覚えてろ! 皆処刑してやる! ふざけるなぁ!!」
最早、姫とは到底思えないような獣じみた行動に、一層冷めた視線を向けると、看守は先程と同じようにアーリアを空き部屋へと引きずって行った。
クレアナとアーリアを連行した国王軍の兵士達は、城へと報告に戻る馬車の中で一様に苦い顔をしていた。
「王子がきつい任務だとおっしゃられた意味が分かったな」
「ああ、まさかここまでとはな」
「うっかり話を聞くと、反射的に殴りそうだった」
「同じだ。それにしても、セリア様がご無事で良かった」
「本当だ。あんなにもお美しく、王子の信頼も得てらっしゃるのに驕ったところはなく、俺達にもお優しい言葉をかけて下さる」
「そうだな。護衛のトラスが羨ましいって何度思ったことか」
「はは、お前だけじゃないぞ。皆思ってるさ」
こうして城の関係者が皆心配する中、未だ目を覚まさぬセリアは、久々の付き添いに気合いの入るターナの手厚い介抱を受けていたのだった。
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