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第3話 双方向

 その日、セリアはターナが部屋に来るなり、チッチとのことを報告した。


「ぇえ? チッチの考えていることが分かるんですか? まあ、姫様はチッチと仲が良いですし、昔から人の気持ちを察するのもお上手でしたから、鳥の気持ちが分かるというのも不思議ではありませんよね」


 ターナはセリアが思ったよりもびっくりしなかった。もしかして、外の世界ではこういうことも珍しくないんだろうか、とかちょっと鳥の気持ちを察することが出来る、くらいに思ったのかな、なんて考えてみた。けれど、この感覚を説明するのは難しく、恐らく体験した人じゃないと分からないだろうと思って、それ以上説明するのを諦めた。


 チッチの思念が分かるようになってからは、チッチのこの塔以外での日常の様子も伝わってくるようになって、セリアは塔に居ながらにして森や町の様子が流れてくることをとても楽しんだ。

 ある日のチッチの思念は少しざわついていた。要約すると、町の人の動きがいつもよりバタバタしているようで、その雰囲気につられてチッチもちょっと興奮しているようだった。


「ねえ、ターナ、今日は町で何か特別なことがあるの?」

「あ、よくご存知ですね。新聞にでも載っていましたか? 近々隣国の王子一行が訪問されるというので、町を挙げて歓迎ムードなんですよ」

「どの隣国かしら……カトラスタ王国?」

「ええ、そうです。カトラスタ王国は7か国の中でも一番の大国ですからね。城でも粗相があってはならないと、皆てんてこ舞いで準備をしているようで……あ、すみません」

「いいのよ、気にしないで。もう私の居場所はここなんだって思っているのだから。城のことでも遠慮しないで話してちょうだい」

「姫様……」

「王子がいるというのは聞いたことがあったわね」

「はい。5人いるうちの第一王子がいらっしゃるそうで、カトラスタ王国の次期国王としても申し分ない方のようですから、我が国も歓待に力を入れているようです」

「カトラスタ王国は資源も豊富だし、今後も盤石でしょうね。それに比べて我が国は、そのカトラスタ王国を通じて各国に穀物を売ってもらうことでなんとか国としての形を保っている弱小国ですもの。先祖様同士の仲が良かったということで今でも、我が国を助けてくれているのよね」

「さすが姫様です。教師もついていないというのに、よくお勉強されていますね。それに比べて……」

「え、どうしたの?」

「いえ、何でもありません」


 そう言うとターナは下を向いてしまった。


 王子一行の歓待の様子はチッチの思念や、ターナが話してくれる様子から想像することができた。それによると、第一王子の名はラナハルト・カトラスタで、歳は私と同じらしい。町の女性がキャーキャー言っていたらしいから、この国でも人気があるのだということが分かった。城での様子については分からなかったけれど、多分特に何事もなく終わったのだろうと思う。


 

 それからは特に大きなこともなく、更に1年が過ぎた。本来ならとっくに身分のある家の子供は教師がついて勉学に励んでいるのに……と思うと、いつ塔から出られるかもしれず知識など必要ないかもしれない身にもかかわらず、焦りだけが生じて、セリアは本がある限り読書に励んでいた。最近は、紙とペンが手に入ったので、軽い日記のようなものも書いている。

 昨夜書き忘れたので、思い出しながらペンを走らせる。うーん、昨日読んだ本はどれだったかしら?


 毎日同じ生活で、読む本や雑誌も同じようなものだけど、書くことがないのでそんなことを日記に書いているのだった。


……キノウハ、ミドリノオオキナホンヨンデタ。アト、アカイノモ……


 あ、そうだったわ、図鑑見たりしてたんだった……。


「……ぇえーーーーーーっ!」


 驚きがちょっと間をおいてやってきた……え、もしかして……チッチ?


……ウン、チッチダヨ……

……う、わぁ! ほんとにほんとに? 私の言う事分かるの? ……

……ワカルヨ! ヒメサマノイウコトワカルーーーーーー! ……


 チッチの嬉しそうな思念が頭に流れてきて、とてもとても嬉しくなって……気が付くと涙が流れていた。


……ヒメサマドウシタノ? カナシイトキ、ニンゲンナク……

……あ、違うよ! 今はすっごく嬉しいの! 嬉しくて涙が出たの……

……ボクモウレシイ……


 ターナ以外に話せる友達のいなかったセリアにとっては、涙が出るほど嬉しく、その日はチッチと沢山語り合った。チッチの思念が分かるようになった時から既に、セリアの中でチッチは鳥ではなく人みたいな感覚で捉えていたが、こうして話ができるようになると、完全にチッチはセリアにとって、人間の友達のような存在になった。話せば話すほど(といっても頭の中での会話なので、傍から見ると無言だが)、より鮮明にチッチの思念が流れてくるようになった。

 チッチは実は珍しい鳥らしく、寿命も人間と同じくらいあるそうだ。ただ、あまり同じ種族に出会うことはなく、その人生は伴侶との出会いに費やされることが多いらしい。


……そうなんだ、じゃあいつか出会えるといいね、良い人、あ、鳥に……

……そうだね。姫様もここを出られたらいいね……

……うん、そうだね……


 こうして13歳でチッチと会話ができるようになったセリアは、塔でもかなり前向きな気持ちで楽しく過ごせるようになった。


 そうして1人と1羽との平和な交流の中で過ごしていたセリアだが、2年後試練が訪れることになる……。


お一人でも読んで下さる方がいたら嬉しいなぁ、と思って始めましたが、思った以上に目に留めていただく方がいて、文字を打つ手が震えています。

そして、「ブックマーク1件」というのが目に入った時、息を止めてしばらく見ていました(笑)

なんだろう……とても嬉しいですね。

拙作にもかかわらず立ち寄って下さる皆様、どうも有難うございます。

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