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第3話 平民と貴族

 翌日、指定されたクラスに行くと、教室には40人ほどの生徒がいた。服装の違いからすると4人が平民のようで、その中で女子はエマを入れて2人のようだ。短いポニーテールにオレンジ色のリボンを結んだエマの姿を見て、嬉しい気持ちでセリアが教室に入ると、皆がセリアに注目して目を見張る。それに気付いたトラスは、警護をしっかりしなければと気を引き締めた。

 

 セリアがエマと、エマの側に立っている平民の女子の側に寄って行くと、その子が驚いたような顔をした。


「お早う、エマ!」

「お早うございます、セリア。あ、こちらはルトマです」

「あ、あの、よろしくお願いします! セリア様!」

「まあ、2人ともそんなに堅苦しくしないで。こちらこそよろしくね、ルトマ。お友達になってくれると嬉しいわ」

「そんな、お友達だなんて……こちらこそ、嬉しい……」


 そんな挨拶をしていると、生徒のどよめきと共にラナハルト達が教室へ入ってきた。セリア達が話している側の席へと腰掛けると、女子の黄色い声が飛んだ。教室では一人一人に棚のついた机が用意されていて、護衛は主人の後ろに座れるように席が配置されていた。しかし、護衛をつけていない平民の生徒の後ろは空席で、そんなことからも身分の差が浮き彫りになる。

 エマの右隣の席に座ったセリアが、エマ達と楽しく持ち物の確認なんかをしていると、1人の青年が近づいてきた。


「初めまして、僕はクレマン・スートラスと言います。貴女とお近づきになりたいと思っていますが、友達になっていただけますか?」

「こんにちは。私はセリアです。お友達は歓迎します。どうぞ仲良くして下さいませ」

「貴女のように美しい令嬢がこの国にいることを今まで知らなかったなんて、なんて無知だったのだろうと自分を恥ずかしく思います。さあ、そんな下賤の民の横になど座らずにどうぞあちらへ来て下さい」


 そう言ってクレマンが教室の反対側を指差すのを、セリアは信じられないといった面持ちで見ていて、その様子をすぐ後ろに控えて見ていたトラスと、セリアの右隣の席で聞いていたラナハルトとピスナーは、内心で苦い笑いが込み上げてくるのを感じていた。


「何をおっしゃるの? 私はここの席がとても気に入っているの。エマやルトマとおしゃべりできるのですもの。だから、申し訳ないけれどそちらへは行けないわ」

「そんな……貴女は僕よりもそんな平民といる方を望まれるのですか?」

「言っていることがよく分からないわ。エマやルトマはお友達で、貴方も同じようにお友達になろうと言ってくれていると思ったのだけれど?」

「私とそのような平民とを同列に扱われるのか……」


 そう言うと、クレマンは屈辱的だとでも言わんばかりの表情でそのまま立ち去っていった。それを見て慌てたのはエマとルトマだった。


「セリア、私達のことはいいから、気にせずにクレマン様達の方へ行って。貴女までそんな目で見られることになったら、申し訳ないから……」

「まあ、エマ、なんでそんなことを言うの? 私はエマとルトマとお友達になれて、本当に嬉しいのよ。私達は同じ学院の同級生で、貴族だ平民だということでお友達を決めるのはおかしいと思うの」

「セリア……」

「だから、気にしないで。皆と仲良くなれたら良いと思ったけれど、考え方は人それぞれなのよね、だからしょうがないわ」


 それを聞いていたトラスたちはふっと小さく笑った。



「俺が担任のアガート・ジャバトラだ。教師になる前は国王軍にいた。まあ俺のことは追々知っていってくれ。じゃあ、さっそくお前達には班を作ってもらう。8人一組の班だ。今後は班活動をしてもらうことも多いし何かと接することが多くなるから、メンバーは慎重に決めろ。今日は初日だし、その班決めをして校内の見学をしたら解散だ」


 黒い長髪を後ろで束ねたジャバトラ先生がそう言うと、教室は一気に騒々しくなった。それと共にラナハルトからセリアへ思念が伝えられる。


……セリア、同じ班になるぞ……

……うん、それからエマとルトマも……

……ああ、あとは……

……エマ達の側にいる男の子2人も困ったような顔をしているから、誘ったら来てくれるかもしれないわ……

……じゃあ、あとは適当にあぶれている奴に声を掛けるか……


 セリアはエマとルトマとその後ろの席の平民の男の子たちに声をかけた。声をかけられた男子達は、驚愕の表情でセリアを見たあと、ほへ~っとした顔で了承してくれた。


「僕はミラト」

「俺はショウだ」


 そこへラナハルトが2人の貴族男子を連れてやって来たのを見て、またもやミラトとショウが驚く。


「私はケリアン・デートです。皆さんよろしくお願いします」

「ミゴロ・カザノフと申します。王子の班に誘っていただき、この上ない幸せです」


 各自が挨拶を終えると、ラナハルトが言う。


「学院では皆が共に学ぶ同志だ。そして特に班員は大切な仲間だ。この学院で俺に敬語は必要ないぞ。自由闊達に意見を交換するのに障害となるからな。なんなら命令ととらえてもらっていい。とにかく、よろしくな」


 それを聞いた皆はコクコクと頷いた。


「セリア、校内見学もこのメンバーで動くんだろ? さっそく行くか」

「うん、そうだね。皆準備できたら行こう!」


 セリアが王子と普通に話しているのを聞いた他のメンバーの緊張が少しほぐれたように見えて、ラナハルトはニヤリとする。


 そんなセリア達の班を、他の生徒達は様々な思いで見ていた。セリアと同じ班になりたいと思っていたのに、声を掛けられずにいた男子生徒は後悔の念にかられ、ラナハルト王子とお近づきになりたいと熱い視線を送っていた女子生徒は、そこに平民の女子生徒が混じっていることに憤りを感じていたのだった。


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