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第2話 入学式

 学院に到着し、セリアがトラスに手を引かれて馬車を下りると、そこに集まっていた新入生の父兄と思われる人々からどよめきの声が聞こえ、皆が自然と道を空けてくれた。


「新入生の為に道を空けてくれるのね。とても有難いわ」


 セリアがそう言うのを聞いて、微妙な顔をしたトラスはそのままセリアの手を引いて前の方へと歩いて行く。セリアは、目の前に広がる大きな建物や、長く続く回廊を見つけてははしゃいでいた。そのまま案内に従って学院の扉の奥に進んで行くと、更に大きな扉があり、その内側には、広い円形の空間が姿を現した。階段状に席が設けられていて、中央にある檀上を見下ろせるようになっている。すでに着席している生徒も大勢いて、その服装から貴族と平民というのが一目瞭然だった。セリアは自分の服を見た。あまり派手ではないようにとお願いして選んだのは、青いシンプルなワンピースで裾に水色で刺繍が施してあり、肩から続く長袖は白色で手首の辺りで絞った後に花びらのように広がっている。同じく白色のリボンを結んだ腰には1輪の、やはり白い花のコサージュが付いていた。


 周りの貴族の令嬢達は豪奢な布をふんだんに使った裾の広がるドレスを着ている者が大半で、セリアは自分の服が地味であることに満足していたが、その思惑とは裏腹に、セリアの美しくサラリと艶のある薄い金髪はその服にとてもマッチしていて、その清楚な装いは、輝くオーラを隠すどころか引き立てていた。


「あの辺りが比較的空いているわね」

「姫様、あそこら辺は平民が座っているようですが……」

「全然構わないわ。学ぶことに平民も貴族もないもの。それから、姫様じゃなくてセリアと呼んでと言ったでしょ?」


 チロッとトラスを見ながらそう言うと、セリアはスタスタと平民が多くいる方へと歩いて行く。本人は気づいていないが、周りの貴族達はセリアが広間に入ってきてからチラチラとずっと目で追っていた。


 セリアが平民のいる辺りの席へと腰を下ろすと、その周りにどよめきが起こった。何席か空席を隔てて隣に座っていた女子生徒が恐る恐るといった感じで声を掛けてきた。


「あ、の……貴族様方はもっと中央のあちらの方に座ってらっしゃいますよ……」

「ご親切にどうもありがとう。でも、大丈夫よ、私はここが良いと思ったのよ。檀上はよく見えるし、混んでいないから。あ、私はセリアよ。貴女のお名前を訊いてもいいかしら?」

「あ、あ、私は……エマです……」

「そう、エマ。よろしくね。どうぞセリアと呼んで」

「は、はい! よろしくお願いしますセリア!」


 学院で初めて会話を交わして、内心大喜びのセリアがニッコリ笑うと、エマはどぎまぎしながらも元気よくそう言った。

 しばらくすると、すぐ後ろでどよめきが起こったが、エマと話せて嬉しいセリアが振り返ることはなかった。


 入学式はまず学院長の話から始まった。次に、カトラスタ王国の国王夫妻、つまりはラナハルトの父母が来ているとアナウンスがあり、2階の王族用の席から手を振る2人の姿に皆が歓声を上げた。その後は新入生を担当する先生たちの紹介とクラス分けや事務的な説明が続いた。

クラス分けは、あらかじめ出願の際に提出していたレポートの内容を元に行われたということだった。明日からは、各自受け取った書類に記載された教室へ行くようにという指示を受ける。今日受け取った物の中には、利き手の人差し指につける指輪も入っていて、それが校章ということだった。毎日ペンを持つ時に学院の生徒であることを意識できるようにという意味があるらしい。さっそく指輪をはめてみたセリアは、学院の生徒になったことを実感して、頬が緩んでいくのが分かった。


 全ての説明が終わり、エマと「また明日」と別れて馬車に向かうセリアは、急に響いてきた頭の中の声にびっくりして飛び上がりそうになった。


……随分うれしそうだな!……

……ぅわっ、あっ、ラナ??……

……ははは、よく分かったな。久々にできるかやってみたけど成功だ……

……もう、とっても驚いたのよ……

……いや、あまりに嬉しそうだったんで、つい声を掛けたくなった……

……ええ、とっても嬉しいわ。それにお友達も出来たし……

……ああ、見ていた。あの平民の娘だろう? 良かったな……

……え、見えていたの?……

……ああ、すぐ後ろにいたからな……

……まぁ!……

……ははははは! じゃあ続きは城で話そう……


 城に帰ると、先に着いていたラナハルトとピスナーが広間で待っていた。


「セリア、お前は誰のクラスだ?」

「私は、アガート・ジャバトラ先生のクラスよ。それに、エマ……今日できたお友達も一緒だったの!」

「本当か?! 俺も一緒だ!」

「そうなのね! 嬉しいわ!」


 セリアがそう言って笑うと、ラナは一瞬固まったように見えた。ピスナーが「それじゃあ自分も一緒に居られるね」と微笑む。学院には貴族も多いことから、各自護衛を連れて来て良いことになっていて、もちろんラナハルトの場合には、それ以外にも教室の外や学院の庭に警護をする者が配置されるが、行動を共にする者として、ピスナーとトラスが、それぞれラナハルトとセリアの身辺警護に当たることになっていた。ラナハルトとセリアが一緒の教室なのは、セリアがアリスト王国の姫であることを知る国王夫妻が、警護のし易さを考えて配慮してくれたからかもしれない、とセリアはなんとなく思った。


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