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第1話 学院への入学のススメ

 カトラスタ王国の第一王子ラナハルトとその護衛ピスナーに処刑寸前で助け出され、幽閉7年目にして自由の身となったアリスト王国の姫セリアは、カトラスタ王国の城で幸せな毎日を送っていた。


 すっかり国王夫妻にも気に入られ、毎日の朝食も共にするようになったセリアに、今日も楽しそうにラナハルトが話しかける。


「セリア、今日の議論は何についてだ?」

「今日は森林の取り締まりについてよ」

「森林の? 珍しい内容だな」

「ええ、これはチッチの話を聞いて思いついたんだけどね。最近、森の奥で木が違法に伐採されているらしいの。確かに調べたら新聞にも載っていたわ。でも、森林は広大でしょ? どうやったら勝手な伐採を阻止できるかを話し合いたくて」


 それを聞いていた国王バールベルトが笑う。


「ははは、セリアはもう立派な政務官のようだな。この国のことを真剣に考えてくれている」

「父上、セリアを煽らないでください。毎日十分すぎるほどに勉強しているのです」

「そうね、セリアはこれまでの分を取り戻すくらいに遊んでいいのよ」

「お気遣い有難うございます。でも、皆で議論をしたり、知らないことを知ることはとても楽しいんです」

「ああ、そうだ、それならセリアは来年、学校に行ってみてはどうだ? ラナハルトも行くことになっているんだ」

「学校ですか?」

「ああ、我が国で一番大きな学校で『カトラスタ王国第一学院』というのが正式名称だ。学院には貴族が多いが、平民でも優秀な者であれば入れて、様々な領域の学問を深く学ぶことができる場所だ。基本の勉強は終わっていることが条件にあるが、セリアにはドノバンがついて教えていたのだから大丈夫だ」


 それを聞いたセリアは目を輝かせた。学校というのがあるのは以前から本で読んで知っていて憧れていた。でも、以前は幽閉されていたので、まさか行ける日が来るなんて思ってもいなかったのだ。


「はい、私、行ってみたいです! ……あ、でもお金……」


 セリアはいつもお金のことが頭をよぎる度に消極的になる。幽閉されていた為、自分でお金を使ったことはないが、色々な書物を読んできたセリアにとっては、お金というのが人々の生活から国力まで様々な事柄へ影響を及ぼすもので、とても大切なものだと分かっていた。そして、そのお金がないという状況が、いつもセリアを不安にしていた。


「セリアは留学生という形になる。恐らく国費での留学という体裁を取るが、成績優秀者は学費免除というのもある。気になるのなら、それを狙ってみてもいいだろう」

「そうなのですね! では、私頑張ります!」


 嬉しそうなセリアを見て、ラナハルトは少し複雑そうな表情をすると「それ以上頑張らなくても十分大丈夫だ」と心の中でつぶやいた。



 あっという間に日は経ち、学院の入学式当日がやって来た。

 身支度を整えて広間に下りてきたセリアは、とても緊張していた。そんなセリアを見て、護衛のトラスが笑いながら話しかける。


「姫様、相当緊張してますね。リラックス、リラ~っクス」

「だって、憧れの学校に行けるなんて、夢みたいなんだもの。私、昨日から、実はこれは夢で、目を覚ましたら天空塔の部屋の石壁を見るんじゃないかって、ずっと怖いのよ」

「姫様は可愛らしいですね。でも、そんなことになったら、今度は俺が天空塔から担いで学院まで連れて来ますよ」

「まあ、トラスったら!」


 トラスは、セリアの幽閉の真相を知ってから、「もっと早くに知っていれば……」と何度も後悔していた。そして、これからは何かあったら自分が守るんだと密かに決心していたのだった。そんな会話をする2人の後ろから、馴染の声が聞こえてくる。


「トラスの出番はないな。その前にセリアを救い出すのは俺だ」

「! ラナハルト王子!」

「では、私はセリアを救う王子を助けますね」

「! ピスナー殿まで!」

「もう、2人とも、トラスをからかわないで」

「ははは」


 いつものように冗談を言っていると、国王夫妻が広間へ現れた。


「私達は後から学院へ行く」

「2人とも、帰ってきたら楽しい話を聞かせてちょうだい」

「「はい」」


 こうしてラナハルト達4人は学院へと馬車で向かった。学院には寮もあるが、城から学院へはそう遠くないのと、王族が入学するという年はただでさえ警備を厳重にしなければならないのに、寮に入って24時間の警護となると負担が増えるということもあって城から通うことにしたのだった。セリアのたっての希望もあり、アリスト王国での複雑な内情もあったことから、セリアの身分については姫ということは当面伏せることとなっていた。その為、学院へ向かう馬車もラナハルトとは違う馬車で向かっていた。ラナハルトは「馬車くらい同じでも」となんだかつまらなそうな顔をしたが、人の目もあるからとセリアが希望したのだった。


 国王夫妻はそんなセリアの考え方や態度も気に入っていた。王子ということで仕方のないことではあるが、次期国王と目されるようになってからは、ラナハルトに寄ってくるのは己の欲の為に媚を売ってくる令嬢ばかりだったのだ。そんな中でセリアは、ラナハルトが王子と知ってもそのような態度をとることは無かったし、それよりも自分達、引いてはこの国にとってどうすることが良いのかを、いつも真剣に考えてくれていた。そんなセリアを見ていると、10歳までしか両親と一緒に過ごせなかったとはいえ、その魂をしっかりと受け継いでいると夫妻は感じるのだった。セリアの亡き父であるアリスト王国の先王ストアードと亡き母サリーナ王妃は民に慕われ、真に国のことを想う立派な統治をしていたのだ。


2章が始まりました!

やんわりとした始まりです。

引き続き読んで下さる皆様に感謝です!

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