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第21話 初対面

 貴族達の反対の声に、アーリアは不機嫌に醜く顔を歪めるとヒステリックな声を上げた。


「あなた達、王女である私の決定に不満なの? こんな女が1人死ぬくらい、なんてこともないでしょう? どうせずっと閉じ込められていたんだし、死んでいたも同然よ! さあ早く、何をしているの? そのいけ好かない罪人の首を刎ねなさい!」


 なかなか動こうとしない兵士に業を煮やしたアーリアが声を荒げると、気が進まない様子の兵士がノロノロとセリアを跪かせる。


 その時にはラナハルトとピスナーの中で、この蛮行を力づくでも止めようと思う気持ちは定まっていた。他の人々が言ったように、彼女の罪状は何も明かされておらず、色々と疑問が残る中で処刑されようとしているのを、見て見ぬ振りは到底できなかった。それに他国の事とはいえ、この件は自分達も少なからず関わっているので、止める責任もあると感じたのだ。そして2人が動こうとしたまさにその時、突如2人の頭の中に声が響いてきた。


……怖い! でも、私は最後まで、お父様とお母様に恥じない娘であります。今、そちらへ参りますね……


 2人は一瞬何が起こったのか分からなかった。その声がセリアのものだと分かるのに数秒かかった。


……セリア?! ……

……!! ラナ?! ごめんなさい。時間がないの。でも最後に話せて良かったわ。私、もう話すことが出来なくなるの。これまでありがとう。ラナもピスナーも私の大好きなお友達だったわ……

……セリア――!……


 その時、目の前に跪いている娘の目から静かに涙が流れるのを見たラナハルトは、そこで理解した……。


……セリア……君がセリアなのか……



 恐らく、そう理解したのはピスナーも同じだったのだろう。気が付いたら、2人同時に飛び出していた。突然の予期しない2人の動きに反応出来ていない兵士の足をすくって転がすと、驚きで涙に濡れた目を瞬くセリアの縄を切って、口を塞いでいる布を丁寧に外した。


「え、どうして? 助けてく……」


 セリアが口にした言葉は、しかし、アーリアの絶叫のようなヒステリックな声によって遮られた。


「何をしているの? ソレは極悪人なのよ? 勝手に縄を解くなんて! そこの兵士、何をしているの、縛り直しなさい!!」


 しかし、大国であるカトラスタ王国の王子が行った行動に反抗するような行為は出来ず、兵士はその場でプルプルと震えたまま動かない。


 一瞬の沈黙の後、静かだが冷え冷えとした圧を秘めた声が広間に流れた。それがラナハルト王子のものであると皆が理解するのに、少し時間を要するほど、その声は静かにしかし押し殺しきれないほどの怒気を含んでいた。


「お前が罪人と呼んだ娘は、私の友だ。これ以上我が友を愚弄するのであれば、カトラスタ王国が受けて立つ」


 それだけ言うと、バサっとマントを翻し、セリアの手を引いて去って行く。その迫力に気圧されて、その後を追う者はなく、元より国王一家以外の者達は皆、あの神々しい娘を助けたいと願っていたので、安堵の気持ちを持って見送ったのだった。

 そしてその後、国王一家の怒りの矛先が自分達に向くのを恐れた貴族や兵士達までもが、瞬時にその場から立ち去ったことで、気が付けば広間には国王一家と、遠巻きに見つめる侍従達が残るだけとなっていた。アーリアはヒステリックに「何で王子があんな女を!」と叫び続けたが、珍しく青い顔をしている母を見て、自分の要求が通らないことを知り、地団駄を踏んで悔しがったのだった。




**


 手を引かれて、そのまま馬車に乗ったセリアは、何が起こったのか頭が追いつかない。もう死ぬのだと覚悟を決めた途端、見知らぬ青年2人に助けられたのだ。青年のうち1人は濃い金髪にブルーグレーの瞳をしており、もう1人は薄い茶色の髪にやはり髪と同じ色の目をしている。しかしそこでセリアは、馬車や青年達が差している剣にある紋章に目が行った。


「カトラスタ王国の方……?」


 すると、そのつぶやきを拾った金髪の方の青年が、爽やかな微笑みを向けて言った。


「初めましてセリア。やっと会えたな。俺はラナだ」

「同じく、ピスナーだよ」


 2人の口から出た言葉を聞いて、今度はセリアがびっくりした。


「ぇえっ?! そんな……。本当に?」

「はは、本当だ。びっくりしたか?」

「びっくりした…………けど、とても嬉しいわ!」


 セリアが笑うと、その美しさが倍に増したようになり、2人は思わず赤面した。ラナハルトもピスナーも、昔から美しいと言われる令嬢は数々見てきた。しかし、このセリアの美しさは別格だった。透き通るような肌と流れるような髪に、見る者全てを吸い込みそうに涼やかでいて愛情溢れる眼差し。近づいたことで、より一層その神々しく気品に満ちた雰囲気を感じる。城で両親に紹介したらどういう顔をするだろうか? と考えると、ラナハルトはニヤける顔を抑えることができない。しかし、偶然とはいえセリアに会い、助けることが出来て本当に良かったと思う。あのまま知らないうちに処刑されていたら……考えるだけでもぞっとした。


「2人とも、本当にどうも有難う。急に部屋に兵士が来て……あっ、ドノバン先生は大丈夫かしら。私を庇おうとしてくれたの……」


 セリアはそう言って悲しそうな様子で俯いたが、すぐにハッと顔を上げた。


「チッチが来てくれたわ! ごめんなさい、そこの窓を開けてもいいかしら?」


 ラナハルトが馬車の窓を開けると、チッチが飛び込んできた。セリアはチッチを愛おしそうに抱きしめると、思念で会話を始めたようだった。しばらく見守っていると、ほっとした表情で顔を上げた。


「良かった。ドノバン先生は、私が兵士に連れられて去った後に解放されて、その後来た知り合いのトラスっていう兵士から何かを聞くと、トラスと2人で私の私物をまとめて部屋を出たらしいわ」

「じゃあ、そのうちに会えるかもしれないな」

「そうだと嬉しいわ。残念ながらアリスト王国にいても捕まえられてしまうかもしれないもの」


 2人はセリアに質問したいことが色々あったが、外の世界に出たことに感動しているセリアの様子を見て、今はそのまま何も聞かないことにしたのだった。


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