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第2話 窓辺の訪問者

 それから2年が経ち、セリアは12歳になっていた。ここへ来て数ヶ月した頃から、食事や身の回りの世話をするのはターナだけになった。セリアは、口を聞いてくれない人達なんかよりも、幼い頃から世話係として側に居てくれ、今も変わらず接してくれるターナとの時間が増えてとても嬉しかったので、多少疑問には思ったけれどどうでもよかった。


 この辺りの気候は年中ほどよい温かさで、本で読むような北方の寒い国でなくて良かったとつくづく思う。そんな寒い国だったらこの天空塔に入れられた1年目で、石造りの部屋の中、凍えて死んでしまっていただろう。そう、本と言えば、ターナの持って来てくれる本や雑誌は結構難解なものも多かった。戦争や隣国の歴史や、流行の武器とか、はたまた『森でのサバイバル術』なんていうのもある。なんか可笑しかったけれど、セリアにとっては唯一の娯楽であり、外の世界の様子を知れる道具ともいえる書物の存在に、大いに感謝していた。

 その日も、朝食を終えて柔らかい窓辺からの陽の光で読書をしていたセリアは、石造りの窓枠からパサパサという音が聞こえて顔を上げた。


「まぁ! なんて可愛いんでしょう!」


 見ると、お腹の辺りは白く羽は黄色い小鳥が一羽いた。ああ、これなら朝食のパンを一欠けらのこしておくんだったわ。せっかく来てくれたのに、何ももてなす物がないなんて……久しく感じていなかったけれど、パン1つすら用意できない不自由さにがっかりする。


「小鳥さん、明日はちゃんとおもてなしするから、また明日も来てくれる?」


 そう話しかけると、まるで分かったとでも言うかのごとく、小さくさえずって飛び去って行った。

 明日も来てくれたらいいな……


 翌朝、パンを一欠け残して、それをそっと窓辺に置くと、食器を下げに来たターナがそれを見て不思議そうな顔をした。


「姫様、パンをどうするんです?」

「うふふ、お客様にお出しするのよ」

「へ? もしや、ネ、ズミとかじゃ……」

「あはは、違うわよ。でも、ネズミも居たら素敵ね!」

「姫様! 素敵じゃありません! 姫様なんてかじられてしまいますよ」


 ターナは冗談か本気か分からないような調子でそう言うと、食器を持って下がって行った。因みに、出入りするのがターナだけになってから、就寝中を除いて扉の鍵は開けたままになっていた。下にはずっと階段だけが続いていて、要所要所に見張りの兵士がいるらしい。ターナを困らせるのも嫌なので、別に出てみようとは思わなかったし、ターナもそれを分かってくれているから鍵を開けたままにしてくれているんだと思っていた。


……チチチチチチ……


「あ、昨日の小鳥さん、やっぱり今日も来てくれたのね! 今日はちょっとだけど、パンを用意したの」


 黄色の小鳥は少しの間、パンの周りを歩いていたけれど、すぐにパンを啄み始めた。パンを食べ終わると、チチチチチと何度か囀って飛び立った。その背中に「明日も来てちょうだいね!」と呼びかける。


 それから毎日のように小鳥は現れた。セリアはその小鳥にチッチと名付けて可愛がった。チッチは初めのうちは警戒心があるのか窓辺の辺りにしか来なかったけれど、そのうちに部屋の中に入ってくるようになり、2ヶ月ほど経った今ではセリアの肩や頭に止まるまでになった。その様子を見て、ターナが笑う。


「もう、すっかり姫様とチッチはお友達ですね!」

「ええ、私嬉しいわ! ターナ以外で初めてのお友達なのよ!」

「姫様、私を友達なんて……光栄です」


 なんだか照れたようにターナそう言うと、チッチがセリアの頭からターナの頭の上に移動した。


「きゃ、チ、チッチ……」

「わぁ! チッチはターナのお友達でもあるのね!」


 それだけで十分に幸せだった。とても小さな世界だけど、優しい者達に囲まれて。

 しかし数日後、驚くべきことが突然起こった……。


 セリアはいつものようにチッチを頭の上に乗せて読書をしていた。その日は例の『森でのサバイバル術』という本を読んでいた。ちょうど森に生息する動物について読んでいた時、それはいきなり頭に響いてきた。


……ソレハコワイドウブツ。チカヅイチャダメ……


「え? ターナ、いたの……あれ?」


 やっぱりターナはいなかった。気のせいかな……と思い直し、また本に集中すると……


……ソレハヨルニオソッテクル、コワイヤツ……


「へ? ……もしか……して?」


 セリアは試しに食べられる木の実のページを開いてみた。


……ア、オイシイヤツダ……


「や、やっぱり! チッチなのね?」


 驚いたことにその声はチッチのようだった。なんというか普通に話すのとは違い、直接頭に相手の気持ちのようなものが流れてきて、それを言葉として拾うような感覚だった。ただ、セリアが話すことには返事がないので、一方的にチッチの思っている思念のようなものをキャッチしているようだ。でも、これはとっても楽しいことだった。これまで分からなかったチッチの思ってることが分かるのだ! そしてその能力は、少し離れても発揮できるようで、森へと飛び去っていったチッチの思念もしばらく追うことができた。不思議なことにそれができるのはチッチに対してだけのようで、森にいるであろう他の鳥の思念を拾うことはできなかった。


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