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第19話 戦慄の提案

 隣国カトラスタ王国の城では、不機嫌なあまりほとんど口をきかなくなった王子を相手に会話を試みるピスナーの姿があった。


「王子、あの野獣……アーリア姫を送り届けたらすぐに帰ってくれば良いのです」

「……」

「アレが……姫がこのまま城にいれば、どんどん負傷者が出ます。これは、王子に課せられた使命なのですよ」

「……」

「それに、アリスト王国へ行けば、セリアのことが何か掴めるかもしれませんし……」

「セリア……ああ、そうだな」


 やっと口をきいた王子を見てピスナーは安堵する。今回のアリスト王国訪問の話は、毒の影響から完全に回復したにもかかわらず、自国への出立を渋ったアーリア姫のせいだった。アーリアはラナハルト王子が自国まで送らないと、帰らないと言い張ったのだ。連日のように、アーリアの暴力で被害者が出ており、これ以上の滞在は許可できないと判断した王は、ラナハルトに姫の帰還の付き添いを命じたのだった。しかし、今回は一応毒を飲まされたことになっている姫を気遣った国としての対応ということになっているが、本来は最小国のアリスト王国の姫の我儘に付き合うようなカトラスタ王国ではない。そして今回のことからも、今後しばらくはアリスト王国との交流は冷え切ったものになるだろうと思われた。


 そうして、アリスト王国へと向かうことになったのだが、出立時も一悶着あった。まず、見合いの時以来のラナハルトとの再会に興奮して、飛びつこうとしたアーリアを兵士が間に入りすばやく回避したのだが、その後、同じ馬車でないことが分かると「信じられない!」とヒステリックに喚き散らし、「それなら別の者に送らせる」とラナハルトが冷たく言い放ったことで、ようやく出立となったのだ。


 馬車の中でも、ラナハルトは苦い顔を保ったままだった。


「まったく信じられないな。比べることすら礼を失するが、平民の娘の方がよほど品位を感じるぞ」

「そうですね。そこら辺のイノシシですら、私には愛らしく見えますよ」


 そんなことを話しながらの楽しくない道中は1日も経たずに終わりを告げた。

 ラナハルトにはセリアの情報が何か得られるかもしれないという希望が少しあり、それだけがこの旅の唯一の利点であった。ドノバンについてはピスナーに探ってもらったが、以前アリスト王国の王城や貴族の子息を相手に先生をしていたということが分かっただけだった。


 アリスト王国の城に到着したラナハルト一行は、そのまま踵を返して即刻城から離れる予定だった。しかし、出迎えたアリスト国の国王夫妻と兵士達に囲まれ、強引に城の中へと引っ張り込まれてしまったのだ。準備した食事が無駄になるから、宴にだけでも出席してほしいと言われ、これ以上ないほど露骨に不機嫌さを滲ませながら城へ足を踏み入れたラナハルトに、今一番見たくない顔がすり寄ってくる。


「お可哀想にラナハルト王子、長旅で疲れてますでしょう? 今夜は是非この城へ滞在して行って下さいませ。馬車では引き離されてしまった私達ですけど、その分これからは私が王子を癒してさしあげますわ!」


 そう言ってアーリアはラナハルトの腕を掴もうとしたが、ラナハルトはまるで熱湯にでも触れたかのような反射速度でそれを回避した。


「そのような気遣いは無用だ。旅には慣れているし、一刻も早く帰りたい。食事をしたら帰らせてもらう」


 もはや外交用の笑顔はとっくにどこかへ投げ捨ててしまったラナハルトは、アーリアを一瞥もせずにそう言う。すると、それを聞いていたアリスト国のバラク王とミアリ王妃が近づいてきた。


「ラナハルト王子、娘はとても王子のことを慕っていましてね。常々、王子と共に在りたいと願っているのですよ」

「その通りでしてよ。娘は王子の隣に立つ為には自分を磨かねばと、日々美容にも力を入れているのです。その甲斐あってか、親の目から見ても中々のものでしょう? オホホホホホホ」


 ラナハルトはそんな国王夫妻の言葉をこれ以上ないほど白けた表情で聞いていた。まず第一に、カトラスタという大国の、しかも将来は王になるであろう第1王子の妻になるということは相当な覚悟と努力が必要で、それに見合うだけの聡明さや品性なども必要であることは言うまでもない。アーリアのカトラスタでの、野獣もびっくりの所業を見れば、どの口がそんなことを言えるのだろうと、滑稽に思えるほどであった。第二に、ラナハルトは幼い頃から自分が王子というだけで態度を変える貴族達を見てきたことから、外面より内面の重要性を意識していた。なので、外見を磨いていることを主張されても、全然興味が湧かなかった。それに、これまでもラナハルトに近づいてくる令嬢達は、大体が常日頃から美を競い合っている者達だった為、普通に美しい令嬢を見たくらいで心を動かされるようなことはなかった。言ってみれば、ラナハルトにとってそれらの令嬢とは、廊下に飾られている見慣れた絵のような存在で、特に意識するようなこともなかったのだ。


 しかし、そんな様子で首をなかなか縦に振らないラナハルトを見て、力づくでもラナハルトを自分の物にしようと考える王女アーリアは、恐ろしい提案をし始めた。


「それじゃあ、ラナハルト王子に喜んでもらえるように宴の席で見世物をご用意するわ! そうね、普通のものでは王子も退屈でしょうから……処刑なんかはいかがかしら?」


 ラナハルト達だけでなく、その場にいた者全てがその冗談のように軽く放たれた言葉に目を見開き、戦慄した……。


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