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第12話 狙われた数日間

 数日前、ドノバン先生が急遽数日留守にしなければならなくなったと言った時、ターナが来られなくなってからは、その代わりに補うように毎日来てくれていたことを申し訳ないと思っていたセリアは、「大丈夫です!」と笑顔で答えた。食事は先生の代わりに、護衛の兵士が部屋の戸の前まで運んで来てくれるということになっているので、特に心配はなかった。先生はなぜかとても心配そうな顔をしていたけれど、先生のそんな顔を見ると、セリアは余計に安心させたくてニコニコ笑顔を作ったのだった。


 先生が帰ってきた時に、全然大丈夫だったと胸を張って言えるように、1人でもしっかりいつも通りの生活を送ろう。そう思っていたセリアの決心は、しかし、初日の晩から揺らぎ始める。異変に気付いたのは、昼の食事の後くらいからだったと思う。少し頭がぼーっとするかな、と思ったセリアは本を持ってベッドに行き、横になって読書をしたりしていた。しかし、夜になるとぼーっとしていた頭は湯気が出そうに熱くなってきたのだった。明らかに高熱があると分かるゾクゾクする身体を震わせながら必死に考える……確か、昼食の後からだった……何か悪い物でも食べたのかしら? そのまま気を失うように眠ってしまったセリアは、翌日いつもの2人の声によって意識を取り戻した。


……リア……セリア、聞こえるか? ……

……セリア何かあった? ……


……う……あ、ラナ、ピスナー……熱い……

……どうしたんだ?! ……

……熱い? 熱とか? ……

……う、ん。そう、みたい……

……風邪か? 先生は知ってるのか? ……

……きのう、お昼食べてから急に……先生は昨日から3日間いない……

……急にだと? 他に誰かいないのか?? ……

……チッチだけ……

……どんな症状だ? 言えるか? ……

……身体が熱くて……頭が痛い……身体に紫の斑点……

……な、んだと? ……


 それを聞いたラナハルトは驚愕の面持ちでピスナーと視線を合わせる。


……セリア、そのままじっとしていろ。あと、もう食事には手をつけるな……

……うん……やっぱり毒だったんだぁ……


 そう言うと、思念の交信はプツリと途切れてしまった。セリアの状態がとても悪いことを察知した2人は大急ぎで城にとって返す。その道すがら、ピスナーが声をかける。


「ルリアンの毒ですね。薬を飲ませないと死に至る……先生のいない時を狙ったとしか思えませんね」

「ああ、セリアにだれも薬を持って来る者がいないと知っての犯行だな」

「しかし、セリア自身毒だと分かっていたようでしたね」

「もしかすると、セリアの境遇は、俺達が思っているより悪いのかもしれないな……」


 そう言うとラナハルトは厳しい顔をして黙り込んだ。ラナハルトは次期国王と期待され、その教育が始まった頃から、暗殺などにも対処できるようにと身を守る術も叩き込まれてきた。これは、大国の王になる者に与えられる試練とも言えるのだが、幼い頃のラナハルトにとってそれは時に死を覚悟するほどに過酷なものだった。そうして施された教育の一つに毒による暗殺への対処法がある。あらゆる毒薬の種類、効果とそれを打ち消す薬や応急処置、それから耐性を付ける為の毒薬投与があった。故に、セリアの症状を聞いただけでラナハルトにはピンと来たし、護衛として毒の知識はもちろんのこと、幼い頃からラナハルトを支えるべく育つ中、毒耐性の会得に自ら志願したピスナーにも、ルリアンの毒だと特定するのは一瞬のことだった。ルリアンとは鉱物の名前で、その水色の美しい色とは裏腹に人を死に至らしめる毒薬が抽出されるのである。


 2人は自分達が毒薬投与で飲まされた時のことを思い出していた。耐性獲得の為に薄めた毒薬を投与されるのだが、それでも辛かった。今セリアは、それよりも恐らくずっと濃い毒を、何も耐性のない身体に受けている……その苦痛は想像を絶するだろう。


 城で薬を手に入れると一刻を惜しむように、すぐに森へ取って返す。いつになく緊迫した2人を城の薬剤師は驚きの顔で見送った。


 森に着くと、2人は強く祈るようにセリアの名前を呼んだ。しばらく呼び続けると、先ほどよりもよりか細くなった声でセリアが反応した。


……ふた、りとも、来てくれ、て、ありがと、う……

……セリア! 薬を持ってきた! チッチを俺達の所へ向かわせてくれ! ……

……チッ……チ……


 セリアの声はそこで途切れたが、心配でジリジリしながら空を見上げていた2人の目が黄色い翼の鳥を捉えた。手を振ると、急降下してラナハルトの頭の上に止まり、チチチチチと鳴いた。


「お前がチッチだな。頼むぞ、この薬をセリアの元へ届けてくれ」


 そう言ってラナハルトが薬の入った袋を頭の上に持って行くと、袋の紐を咥えたチッチが、頭の上から飛び立った。その姿が見えなくなるまで2人は黄色の鳥を見上げていた。


「やはりアリスト王国の方角へ飛んで行ったな」

「そうですね……」


 薬が効いても数時間は動けないだろう。そこまで長い時間城を空けるわけにもいかない2人は、薬が無事に届くように願いながら、城への帰路についたのだった。


ブックマークしていただく方が増える度にとても驚き、感謝しています。

そして、なんと評価を下さった方がいらっしゃいました……この投稿を終えたらもう一回見てみます(幻じゃないかどうか確認したいので 笑)。本当にどうも有り難うございます!

そしてお読みいただいている全ての方へ、いつもどうもありがうございます!!

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