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第22話 情熱の在りか


 久々にカトラスタに5人の王子達が揃い、帝国も訪問しているという好機とあって、その後、セリアとラナハルトの結婚へ向けての話はトントン拍子に進んだ。


「セリア様、そのままで!」


 モクトは先程から、セリアの周りを難しい顔をしながら回っては、頭のてっぺんからつま先までを念入りにチェックしている。そう、今日は婚礼で着る衣装を決める日であったのだ。う~ん、と唸るモクトにセリアは思わず声をかける。


「モクト、ラナにも見てもらったら……」

「ダメです! 当日見るまでのワクワク感をも楽しむのです!」

「確かに、そういう演出もあるわね……モクトったら、私より年上なんじゃないかしら?」

「今度お互いの苦労話でもしますか?」


 モクトが珍しく冗談っぽい表情を見せる。


 婚儀は、皆とも話し合った結果、カトラスタとアリストの両方で行うこととなった。但し、大々的に他国を呼んでの婚礼の義はカトラスタで行うのみで、アリストへはむしろお披露目という意味合いが強い。帝国でもそのうち祝いの会を開いてくれることになっており、旅行がてら行こうという話をしている。


 セリアのことを心配したオスラとアイーダの配慮で、婚礼の後にオスラは先に帝国へ帰るが、アイーダはその後数ヶ月アリストに滞在してくれることとなった。


 キリエラの事件が落ち着いて、一度アリストへ戻ったセリアは、アリストの兵士達の見違えた様子に、とても驚く。顔には覇気が表れており、統率のとれた動きは、帝国のそれを思わせる。送迎役としてラナハルトが付けたガーラントも、「ほお」と感心した様子だ。

驚くセリアに、兵士達が拳を胸に当てて叫ぶ。


「セリア様に忠誠を! 師アイーダに服従を!」


 目をパチクリするセリアにアイーダが笑いながら言う。


「ふふ、ここの兵士達を鍛えるのに燃えてきてな。私への言葉はいらぬと言っておるのだがな」


「こんな短期間で……お祖母様は、本当にすごいですわ!」


 そして、初めてアイーダと会ったガーラントは、何を思ったか急にザッと地面に膝を着く。


「ガーラント王子……?」

「私、カトラスタ王国第2王子のガーラントと申します! その闘気、並大抵の武人ではないと存じます。どうか、私を弟子にして下さい!」

「えっ」

「うむ、ガーラントと申したか? 貴殿の溢れるような闘気も、悪くはない。鍛えてやっても良いが、王子であろう? 良いのか?」

「はい、王子達の中でも私は軍事的な事を任されることが多い身。なので、自身を鍛えることは、国の強化にも繋がりましょう」

「分かった。では、明日から訓練に加われ。我は手加減はせぬぞ」

「はっ!」


 こうして、翌日からガーラントは目を輝かせて、血反吐の出るような訓練に参加したのであった。騎士団団長のニックバードともすぐに意気投合し、2人して競い合っている。セリアは「私もお祖母様の血が入っているはずなのに……」と少し羨ましく思うが、トラスに「姫様にはあまり向いていませんからね」と苦笑される。


 広報活動に目覚めたターナは、セリアがカトラスタでキリエラの事件に奔走している間、セリアについて民衆に広く知ってもらおうとこれまでのセリアの辿って来た道のりを書いては国内に広めていた。天空塔に閉じ込められたり、国外に追放されたりしたせいで、あまり民の前へ出ることのなかったセリアのことを、少しでも知ってもらいたいというターナの想いが込められていたのだが、その記事の人気ぶりはすごかった。セリアの苦難を知った民衆は、自分達よりも苦労をしてきた天空塔の姫様を応援したいと、国の再建行事にも進んで参加をしてくれるようになったのだ。そして、その姫の婚儀が伝えられると、国民全体がお祝いムードになった。


「ふふ、最近はターナの宣伝のお蔭で国が生き生きしておるな」

「はい、アイーダ様、これからも任せてくださいませ!」


 アイーダとターナはすっかり打ち解けた様子で、しばしば共に広報戦略について嬉々として話している。

 そんな2人の様子を微笑ましく思いながら、セリアはアイーダの居室のバルコニーから外を眺める。夕日が城下の町の屋根を赤く染めて、行き交う人の姿が小さく見える。セリアは、かつて夕焼けに染まる両親の墓で国の建て直しへの熱い想いが込み上げてきたことを思い出していた。


「私の情熱……」


 アイーダが精神体の世界で語ってくれた生きる上での情熱……セリアの心にはその言葉がずっと残っており、ことあるごとに思い出しては考えていた。

 これまで辿って来た道で出会った色々な人々の顔が浮かぶ……その中には人だけでなくチッチやピューラスの姿も出てくる。


「人、動物……それだけじゃないわね、自然も文化も……。全部大切だわ。私はそれらの全てに支えられてきたのだわ」


 そう思った時、セリアは部屋の中を振り向く。


「お祖母様、私……この世界の色々なものが大切よ。それらの全て……というのは難しいのかもしれないけれど、でもなるべく多くを守りたい……うまくは言えないけれど『平和』が私の情熱を傾ける先なのかもしれないわ」


 それを聞いたアイーダが穏やかな微笑みを向ける。


「セリアらしいな」

「姫様、もう立派な統治者ですね……あっ、次の記事はそういう話で行きましょうか?」


 セリアはそれを聞くと笑いながら「ターナも立派な記者ね」とつぶやくのだった。



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