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第11話 2人の懸念

……聞こえますか、ラナのお友達さん? ……

……うわぁ!! ……

……あ、セリア、俺も同時に聞こえるぞ! すごいな!……

……あ、私も王……ラナの声が聞こえます! ……

……あ、セリア、コイツは友達のピスナーだ。ピスナーって呼んでやってくれ! それからピスナー、硬いしゃべりはするなよ! 普通に話せ、セリアもそうしてくれてるんだからな……

……はい、ああ、分かったよ……

……ピスナー、よろしくね。私はセリアよ……

……セリア?! うぐっ! あ、ああ、よろしくね……

……ん? ピスナー、大丈夫? ……

……ああ、大丈夫気にしないで、ははは。ちょっとびっくりして。セリアは僕達の姿が見えるの? ……

……ううん、見えないわ。多分、森の中に居るのでしょう? ……

……ああ、森は見えるんだね? ……

……そういえば、先日の蜂はどうやって見つけたんだ? ……

……チッチに聞いたのよ。あ、ピスナーは初めてよね。私は鳥のチッチともこうして話が出来るの。それで、チッチの目はいいから、蜂の場所を教えてもらったのよ。ここからじゃ、双眼鏡を使ってもこれだけ広範囲の森の中から蜂を特定するのは難しかったから……

……でも、そんなに特別な能力を持ってるなんて知られたら、セリアを狙う人もでてくるんじゃない? ……

……そうかもしれないわね。でも、私の能力が知られることはないわ。今のところ貴方達以外には、2人と1羽だけしか知らないから……

……そう、その2人っていうのはご両親? ……

……いいえ、違うわ。両親はその……もう話はできないから……

……うぐっ! ご、ごめんね、セリア。辛いことを訊いてしまったね……

……大丈夫よ、もう随分前のことだから。それに、私にはこうして話せる友達がいるのだもの。あ、ごめんなさい、もうすぐ先生が来る時間だわ……

……セリア、ピスナーが色々訊いて悪かったな。先生との議論頑張れよ! ……

……そんなことないわ、ラナが新しい友達を紹介してくれて、私、とっても嬉しいの! 有難う、また2人で話しに来てね! ……

……ああ、またな! ……

……またね、セリア……


 森からの帰り道はこれまでと違って、2人の間に賑やかな会話が繰り広げられた。


「まったく、お前はセリアに質問しすぎだぞ! 俺だってあんなにズカズカいかないのに」

「だからですよ! 正体不明なんて気になるじゃないですか! それに、あんなに蹴らなくても……」

「お前が余計なこと言うからだ。それに、正体が分からないのはセリアも同じだろ?」

「まあ、こちらの正体は明かせませんよね……私はまだ平気ですが」

「お前も明かすなよ!」

「分かっていますよ。でも、これで納得がいきました。先日の蜂に襲われた時からずっと繋がっていたんですね。探していたセリアという名の女性は彼女で、彼女の能力で蜂を回避できたと」

「ああ、そうだ。だから礼がしたかったんだ」

「彼女は何を望んだんですか?」

「今日みたいな会話を、俺の時間がある時にしたいって言ったんだ」

「金や物ではなく会話ですか……王子の正体を知っているというわけではないですよね? いや、あの様子ではそれはないですね」

「ああ、それに、仮に俺の正体を知ってもセリアは態度を変えない気がするぞ」

「おやっ、随分と高く評価しているのですね」

「お前もそのうちにそう感じるさ」

「王子がそうおっしゃるなら、そうなのかもしれませんね。しかし……なんとも不思議ですね。確かに話し方や雰囲気からも、実によく教育を受けているようなのに、我が国にはあの雰囲気から連想できる令嬢が思い浮かびません」

「俺よりはこの国の貴族令嬢に詳しいピスナーがそう言うのなら、国内にはいないのかもしれないな」

「……となると隣国。あの森と接している隣国は2ヶ国、アリスト王国とぺリア王国ですね」

「さっきの場所から近いのはアリスト王国だな。信号弾も見つけやすかっただろうし」

「しかし、前回アリスト王国に訪問した際も、あのような令嬢の挨拶を受けた覚えはないな」

「仮に挨拶をされていても、王子が令嬢に関心があったとは思えませんが……」

「うるさいな……」

「まあ、でも気になりますね。あの能力のこともありますし……」

「そうだな。本人はあまり自覚していないみたいだし、使う気もないようなんだが、悪用しようという者なら1国を手中に収めることもできるかもしれない力だ」

「そうですね。セリアにその気がなくとも、それを知った何者かが強制的に使わせるということも考えられます。両親がいないというのであれば、尚更、強力な後ろ盾となる者が必要でしょう」

「ああ。もしセリアがアリスト王国にいるというなら尚更だ……」

「そうですね、あそこの国王一家に目を付けられたら……と思うだけでもゾッとします」


 そう言うと、ピスナーは前回のアリスト王国の訪問の時の事を思い出して苦い顔をした。近隣の7ヶ国中、最小国であるアリスト王国とは、先王の時代には良い交流があったのだが、その先王が亡くなり、その弟がアリスト王国の王位についてからおかしくなった。最小国であるにもかかわらず、その弟王の欲は巨大で、他国との関係が一気に悪化するであろうというような、とても受けることのできない内容の取引を持ちかけてきたり、自分の娘を王子の嫁にとしつこくせがんで来て、挙句の果てには滞在中の王子の部屋へ娘自ら押しかけてきたり……。そしてもう一人の息子の方は、ガラの悪い男達を侍らせて、ラナハルト王子の家来を脅して金品を盗もうとしたり……そして一番最悪なのは王妃であった。こともあろうに、国王の妻であるにもかかわらず、カトラスタ王国の国王、つまりはラナハルト王子の父上の妻になりたいなどとぬけぬけと言い、それをしたためた文書を王子に持たせようとした。後で聞いた話では、先王陛下の崩御の後に城の財源を私物化し、それを食い尽くすと、先王がいざという時の為に平民の救済用として備蓄していた穀物を売りさばいて得た金を私利私欲に使い、とうとうその金も少なくなった為に、今度はカトラスタ王国を狙ったという話だった。


 同じことを思い出したのか、ラナハルト王子もふぅーっと長い溜息をついた。


「あの国にセリアが居ないといいな……」


 ラナハルトがつぶやいた言葉は、今にも消えそうに儚い雲が漂う空へと吸い込まれていった。


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