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第17話 4人の王子


 祖母達の会話にセリアの名が登場してから、ペルガーは自分以外の3人が話していると、前よりも注意するようになっていた。聞くのは嫌なのだが、気になってしまって落ち着かないのだ。

 

 ペルガーがビョードルに出会ったのは、投獄されている家族との面会を許された日であった。既に終身刑を言い渡されていた両親と妹は、それぞれ別々の牢に入れられていたが、妹のアーリアと母ミアリに会った時点で、「もう面会に来たくはないな」という気になってしまっていた。それまでは会話をすることも少なかったし、お互いに干渉をしなかった為、特に感じなかったが、牢の中から「なぜお前だけ自由なんだ」「何をしてもいいからここから出せ」と言われ続けるうちに、「なぜ自分が関わらなくてはいけないのだろう?」という気持ちが芽生えてきたのだ。

 最後に父バラクに面会した時には、一段と痩せ細っておどおどした様子に少し同情も生まれはしたのだが……。


 そして、牢のある建物を出た辺りでビョードルに声をかけられたのだった。しかし、キリエラの家で過ごし始めてすぐの頃から「こんな所へ来なければ良かった」と毎日のように考えている。鬱蒼とした建物にお似合いの陰湿な人間達との生活は、心がカビで覆われていくようで、元々考え無しではあるが、単純なペルガーの性質とは合わないものだった。


 祖母のキリエラは、ペルガーの父であるバラクを王位につけたかったが、正妃が生んだストアードが王位についた際、一族に伝わり今では禁忌とされる呪詛を使った。しかし、その呪詛に失敗し、その反動を大きく受け、容姿に甚大な跡が残ったことが原因で、一族の土地へと逃げてきたのだった。その後はひっそりと生きてきたキリエラだったが、息子であるバラクがカトラスタで捕えられ、それにカトラスタや憎いストアードの娘が関与したと分かってから、息を潜めていた負の感情が再燃したのだった。王子達を亡き者にして親である国王夫妻に苦痛を味わわせ、セリアも殺す。そんな歪んだ復讐心を持つキリエラと、同じく自分の家族を投獄され、ラナハルトやセリアに憎悪を抱くクレマンが引き寄せられるように出会ったことは、ふとした運命の悪戯だったのか……いずれにせよ、類は友を呼ぶという言葉が現実のものとなったのだった。


 朝食を食べているペルガーの耳に、ビョードルの甲高い耳障りな声が響いてくる。


「4人の王子眠らせたヒョ~、でも残りの王子とアリストの女うまくいかないヒョ……」

「可愛いビョードル、これを使うなぇ~」

「キリエラ様、私もビョードルと共に参ります!」

「クレマンもなぇ~? ではクレマンにはこれを渡すなぇ~」


 部屋の隅で、キリエラがビョードルとクレマンに何かを渡しているのが見え、何かは分からなかったが、セリアに危険が迫っているのを感じ、ペルガーは冷たいスープを飲む手が震える。


 その後、意を決したペルガーがこっそり家を抜け出したのは、ビョードルとクレマンが家を出たすぐ後のことであった。



 その頃、カトラスタ王国の城では、隣国のスマサラ王国とぺリア王国へ視察に赴いていた第3王子のベルナルトと第4王子のフォリアルトが使者と共に帰国していた。ラナハルト達が心配していた通り、2人の意識はなく、付き添ってきた両国の使者は、このような形で帰国することとなってしまったことに、謝罪の言葉を述べた。しかし、2人の容体もガーラント達と同じ症状であることから、国王バールベルトはきちんと送り届けてくれたことへ礼を言い、丁重な言葉と共に使者を帰したのだった。


「危惧した通りだな……セリア、どうだ、夢で見た顔と同じか?」

「……ええ、同じだわ」

「そうか。これはいよいよ呪詛のような類かもしれないな……信じたくはないが」


 そう言うとラナハルトは顔をしかめる。


 その晩、チッチの歌声の中、眠りについたセリアは、見慣れた光景が現れたことに驚いていた。白く靄がかかったような世界はセリアを包み、耳に聞こえてくるチッチの歌も以前と同じ光景だった。


「また来てしまったのね……」


 セリアは漠然とした不安を覚えるが、覚悟を決めると前方へと歩き始める。しばらく行くと、その先が少し開けているのが分かった。前回と同じようなその空間は、しかしそれを取り巻く色だけが違っている。


「前はここも白かったのに……」


 前方に広がる空間は、黒い靄に覆われていた――。


 その禍々しい気配に、少し躊躇ったセリアだったが、その先に以前と同じように横たわる4人の王子達の姿を見つけて駆け寄る。

 しばらくすると、急に背後から声が聞こえ、セリアはドキリとしながら振り向く。


「お前がセリアなぇ~? その憎い顔立ち、間違いないなぇ~」


 そこに居たのは、紫色の髪を腰くらいまで伸ばし、皮が骨に直接張り付いたような顔に落ちくぼんだ目をギラつかせた老婆だった――。

 突然背後に現れた老婆の姿に、思わず叫びそうになったセリアだったが、高鳴る心臓をなんとか落ち着けると、慎重に口を開く。


「貴女はどなたですか?」


 それを聞いた老婆は、顔の皮を引きつらせて笑みには到底見えない狂気の表情を浮かべた――。



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